第56話 呪われそうなやつ

「え、ケート……今、なんて?」


 聞こえなかった訳ではないけれど、頭の処理が追い付かなかった私は、気づけばそう聞き返していた。

 いや、だって、ねえ?


「だから、少しの間、刀を置いてみない? って言ってるの。もちろんずっとじゃなくて、一時的にね」


「な、なんで?」


「んー……説明しにくいんだけど、今のセツナって、刀に頼りすぎな部分がある気がするから、かな? ナイン君はアレとして、グレンさんやミシェルさんみたいに、トップを走ってる人達はみんな、複数の手を持ってる人達ばかりなんだよね」


 言われてみれば、グレンは大盾と片手剣、ミシェルは双剣と弓を扱える。

 それに実は、グレンのパーティーメンバーで刀使いのゴンザブローも、【刀術】と【投擲とうてき】の2種類を使い分けていたのだ。

 ……そうやって考えれば、たしかに攻撃手段が多ければその分戦術の幅は広がる。

 でも、私にそれが出来るんだろうか?


「今、セツナが使ってる戦闘スキルの中で、メインになる戦闘スキルは【抜刀術】と【蹴撃】だよね。刀と蹴りの合わせ技は、ナインとの試合で見れたから十分なんだけど……仮に、もし仮に、刀が使えない状況になった時、セツナは蹴りだけで戦える?」


「……無理じゃないけど、相手による、かな?」


「だよね。例えば相手が飛んでるとか、魔法使いでとか……いろんなパターンを考えると、今の戦い方だけじゃ、いつか手詰まりになる。だから早いうちに少しだけ刀を置いて、別の攻撃手段を模索してみるのがいいんじゃないかなって思うよー」


 「あと、別の攻撃手段が決まれば、装備の感じも少し変更せざるを得なくなるしね」と、ケートは笑う。

 まあ、一理ある……かな?

 遠距離戦闘向きの攻撃手段がないのは確かだし、ゴンザブローと同じ【投擲】じゃなくても、弓や魔法みたいな遠距離攻撃ができれば、かなり戦いやすくなるかも。


「……でもそう言うってことは、ケートにはなにか良い案があるってことだよね? オススメとかあったりするの?」


「ふっふっふ、ケートちゃんからはー、コレです!」


 ババーンと効果音がなりそうな感じにケートが取り出したのは、白地に赤い模様の……おふだ

 なんかお寺とかに貼ってあったりする感じなんだけど、これ呪われたりしない?


「大丈夫大丈夫! これは、呪符じゅふって言って、【符術ふじゅつ】スキルで使うお札だよー!」


「呪符って言ってるよね!? 呪いだよね!?」


「大丈夫だってば。これの凄いところは、かざして宣言すれば即発動で、MP消費しないってこと。他の魔法と違って、プレイヤーがイメージを固めたりする必要がないんだぜー」


「へー、便利だねー」


 でも、それだけ便利なら、いろんな人が使ってそうな気がするけど……今まで見たことないよね?

 なんで?


「……呪符代がかかる。ただそれだけにして、最大の欠点だ……」


「ああ、なるほど……」


 ケートいわく、呪符は一回使うと燃え尽きてなくなってしまうらしい。

 完全な使いきりタイプの魔法らしく、作成にも手間がかかることから、値段が高く……人気がない。

 ちなみにお値段は、【火魔法】の『プチフレイム』級で、一枚2000リブラ。

 うん、それは高いね。


「ただ、作成用の素材はそこまで面倒じゃないんだにゃー。だから、リンやミトちゃんの手が回せるなら、お願いできるんじゃないかにゃーって」


「なるほど。もし大丈夫って言ってもらえれば、格安で枚数が揃えられるかも?」


「そういうことだぜい!」


 なるほど、なるほど……。

 まあ、最終的にどうするかはわからないけど、ひとまずは試してみるべきかな?

 使い勝手とか、そういうの。


「にひひ、乗り気になったっぽいですな?」


「まあ、うん。ちょっと違うことするのも楽しそうだしねー」


「イエスだぜ。ゲームだし、いろんなことに手を出すのも醍醐味ってやつだにゃー! というわけで、これは私からプレゼント。火の呪符『鬼火』と、雷の呪符『天雷』、各10枚だぜー」


 ケートから差し出された札を受け取って、改めてしっかりと見てみる。

 両方とも白い紙に赤い模様なのは変わらないけど、火の呪符は、文字を囲ってる部分が、どことなく炎っぽい感じ。

 その点、雷の呪符はギザギザしていて、どことなく雷っぽい感じの模様になっていた。


 これは、他の属性の呪符も気になるねー。


「見た目、結構オシャレでしょ。お店の人に聞いたら、魔法のグレードが上がると、インクの色が変わるんだってさ」


「へー。面白いね」


「うむうむ。とりあえず、最下級の魔法は赤インクだから、ひとまずそれは覚えておいてねー」


「はーい」


 軽く返事をしながら、私はアイテムボックスに呪符をしまっていく。

 次の戦闘あたりで使ってみようかな。

 魔法かー、使うの初めてだなー。


「さて、セツナの新しいスキルも、一応固まったことだし……出よっか」


「ん、そうだね」


「もう外は日も落ちてるし、一旦ログアウトして、晩御飯食べたらまたログインかにゃ」


「あ、私、お風呂入ってからだから、ちょっと遅くなるかも」


 基本はご飯のあとにお風呂なのだ。

 でもそうなると、早くて夜9時過ぎなんだよねー。


「ほいほい。それじゃ、またあとでー」


「はーい。またね」


 会計を済ませ、エルマンの外で私達はログアウトした。

 とりあえず……ご飯までは、夏休みの宿題、かなぁ。


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 名前:セツナ

 所持金:210,740リブラ(-850)


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.9】【秘刃Lv.2】

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