第44話 これからは隣で

 side.ケート


 負けられない想いがあるのは、きっと二人ともそうなんだろう。

 だからこそ、私達は今、本気でぶつかり合うんだ。


 ゴーレムを近くに戻し、炎の壁を挟み、私とセツナは向かい合う。

 ほとんど動かなかったからMP残量は十分。

 なら次にするのは、撹乱と、闇討ちだ!


「『フレアバーン』!」


「それは効かないって!」


 セツナとの空間を開けるように、地面から火柱を上げ、さらに少し後ろへと下がらせる。

 そして、私は直後に「『ウォーターフォール』」と、【水魔法】を発動させた。


「ッ、水蒸気が」


「霧の中の戦いだよ、セツナ! モードチェンジ【魔法連結】『サウザンドニードル』! 全方向、ぶっ飛べ!」


 ゴーレムを小さい針に変化させ、全方向にぶっ飛ばす『サウザンドニードル』。

 さすがにMP半分使うのは無謀だから、ゴーレムの半分程度だけ変化させた節約版だけど……さすがに多少は当たるはず!


「ちょ、ちょっとケート卑怯!」


「卑怯上等! 勝てば官軍、『アースニードル』!」


 さらに追い討ちをかけるように地面から土の槍を発生させる。

 これなら、多少は!


「うぎぎ……! 【幻燈蝶】!」


「かかった! 『ウィンドウォール』あんど、モードチェンジ【魔法連結】『アースドーム』!」


 セツナの【幻燈蝶】には、最大の弱点がある。

 それは……切り傷や欠損に対しては発動するものの、体当たりやパンチなど、殴られたりした攻撃には発動しないということだ。

 だからこその『サウザンドニードル』。

 これなら、大量のMPを消費するくらいならと、【幻燈蝶】自体を任意発動させるはずだから。


 そして、その読みは上手いこと当たった!


「ドームの中はセツナが復元できるほどの隙間はない。だからあとは、フレイムウォールとかで安全を確保してから出れば問題ないはず」


 いくら私が天才でも、見えない敵の場所は分かんないからねー。

 なんて、そんなことを考えていた直後だった。


「【蝶舞一刀】水の型」


「……え?」


「『水月』!」


 ズパンと、ドームが上下真っ二つにされ……る直前で『ウィンドブロー』を放ち、ドーム上部を破壊して、斜め後方に飛んでいた私の足が吹っ飛ばされたのは。

 ギリギリ、なんとか生きた……けども。


「めちゃくちゃだにゃー……。土の壁ごと真っ二つとか」


「それが一番手っ取り早かったから。それよりケート、足がなくなった状態で戦える?」


「舐めるな、だぜ」


 強がってみるものの、HPはもう残り三割を切ってる。

 やっぱり欠損状態になるほどのダメージはデカいにゃー……。


「なら次で決める。もう避けられないだろうし」


「にひひ。じゃあ私も次に懸けるかにゃ」


 地面に落ちる。

 セツナが駆け出す。


「【魔法連結】『クリエイトゴーレム』」


「【蝶舞一刀】水の型」


 これで決める。

 これで決まる。


「モードチェンジ【魔法連結】」  


「『水月』」


「『スピニングランス』!」


 抜かれた刃が届く。

 それと同時に、私の体すら貫くように、回転する槍がまっすぐに突き抜けていく。


「うぇ!?」


「にひ、ひ……」


 グシャァと音がなりそうなほどに勢いよく突き抜けていった槍は、私とセツナを二人とも巻き込み、胴を抉り取って闘技場の壁に突き刺さった。

 いや、すごい、やっぱりゲームって。


「めちゃ、くちゃじゃん……ケート」


「で、しょ」


 MPが切れてるらしいセツナも胴を抉られて動けず、私はMPが残ってるにせよ、同じ状態になった体は動かせない。

 でもね、私は……魔法使いだから。


「へへっ。セツナ、ありがと、ね。『フレアバーン』」


 燃え上がる火柱の中で、セツナの顔が、悔しそうに歪んだ気がした。



『皆様、おめでとうございます。それではまず三位のグレンさんから、一言どうぞ!』


 あれから少し時間が経って日も落ちた頃、私達は闘技場の上に作られた表彰台の上に立っていた。

 順位はもちろん、三位グレン、二位セツナ、一位私の順番だ!

 そう、一位だ!


「あー、色々な課題も見つかり、良い経験になったと思う。次の機会では、今回負けてしまったセツナさんにも、またケートさんにも勝てるよう、一層努力を積もうと思っている。応援してくれたみんな、ありがとう」


 赤い鎧を纏ったグレンが、司会の女の子にマイクを向けられて、なんかすごい準備してきたみたいなコメントを放つ。

 どうしよう、何も考えてなかったんだけど。

 

『はい、ありがとうございます! では次に、二位になったセツナさん。一言お願いします』


 私の前を一回素通りして、今度は左側に立っていたセツナにマイクを向ける。

 するとセツナは一瞬困ったような顔を見せてから、口を開いた。


「一番は、悔しいですね。実はケートとは練習で何度も決闘してたんですが、一度も負けたことがなかったんです。だから、今回負けて、ほんっっっっっとうに悔しいです。あーもう、次は絶対に負けないから!」


 むきー! って怒って、セツナは最後に笑顔を見せる。

 その顔を見て、私は思い出した。

 そうだ、言いたいことがあったんだった。


『では最後に、優勝したケートさん。コメントをお願いします』


「あ、じゃあちょっとマイク借りて良いですか?」


『え、はい』


「ありがとうございます。えーっと、それじゃまず最初に……セツナ」


 司会の女の子にマイクを借りて、私は左に立つセツナへと体を向ける。

 するとセツナは「ん?」と顔をこっちに向けた。


「どうだ、見たかー! ケートちゃんの天才っぷりを!」


「……そのニヤケ顔は少しイラッとする」


「にひひ。さてと……」


 悔しさと苛つきを滲ませるように、顔を歪めたセツナに笑いつつ、私は体の向きを観客席の方へと戻す。

 そして、見てくれていたたくさんの人に向けて口を開いた。


「私がここに立てているのは、装備を作ってくれたリン。応援してくれたミトちゃん。そして相方で、一番近くて、一番負けたくないって思わせてくれたセツナのおかげです。誰か一人でも欠けていたら、きっとここにこうして立ってはいなかったと思います。三人とも、ありがとう。それと、観客席で応援してくれてたかもしれない見ず知らずのプレイヤーさん達も、ありがとうございました! やったぜー!」


 言いながら両手でピースをすると、観客席からたくさんの歓声と拍手が巻き起こる。

 嬉しいなぁ……本当に、嬉しいなぁ……。


『では、皆様、今回戦った皆様に向けて、もう一度盛大な、』


 司会の女の子が、最後の締めの言葉を言っていた。

 まさにその時。


『東アルテラ森林ボスモンスター、ナイトメアバットが初討伐されました。討伐者はナインさん。討伐者には、初討伐成功報酬と、討伐の証として、称号“東アルテラ森林の覇者”をお送りいたします』


 まるでタイミングを狙ったかのように、ボスの討伐情報が流れてきたのだった。

 え、ナイトメア?

 しかもソロ!?



 第二章『この関係に名前をつけるなら、大好きな相方ライバル』了



----------------------------------------------------------------------


これにて第二章終了です。

またしても幕間を挟み、第三章『君には届かない』を始めます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る