第22話 試行錯誤に次ぐ試行錯誤

「とりあえず、私と一度戦ってみるのにゃー」


「わかったにゃー」


「わお、セツにゃん可愛いにゃー」


「……もう、ケート!」


 フィールドに二人っきりな事もあって、ケートのノリにノッた私が間違っていた……。

 この恨み、晴らさずでおくべきか!


「……いざ、尋常に」


「わわわわ、まってまって決闘システム使って!」


「あ、そうだったねー。忘れてたよー」


「絶対嘘だ……」


 戦々恐々といった様子で私から距離を取ったケートが、私に対して決闘申請を出してくる。

 今回は訓練モードではなく、ちゃんとした決闘。

 HPが先に10%切った方が負けってルールだ!


「お互いに得意な距離が違うから、いかに自分のペースに持って行けるかが勝負だねー」


「ふむふむ」


「セツナは近づきたい、私は遠ざけたいっていう戦いになるから、どうするかはちゃんと考えて動かないとね」


「わかったー」


 ケートの説明に頷いた私を見て、ケートは決闘システムを起動させる。

 その瞬間、ヒュンッと飛ぶようにして……私達は決闘場へとワープしていた。



 side.カリン


「カリンさん、もう試作が出来たんですか?」


「ん」


「えっと、楽器部門のですよね? 見た感じ、弦楽器みたいですけど」


 後ろからのぞき込んできたミトに、私は手に持っていたアイテムを見せる。

 木から削り出した瓜型の弦楽器……いわゆるリュートだ。

 今回のイベントで、生産プレイヤーに求められたアイテムのテーマは『吟遊詩人』。

 だからたぶん、リュートや竪琴ハープなんかが対象になると思ったのだ


「面白い形ですね。見た目より軽くて、なんだか不思議です」


「空洞」


「あ、中が空洞になってるんですね。へー、すごい……ギターみたい」


 ミトが軽く指で弦を弾く。

 まだまだ試作なだけに、ひどい音がしたけれど……私が弾くよりも不思議といい音だった気がした。

 もしかすると、そういったスキルを持ってるのかも?


「ミト、弾ける?」


「え? これは弾けないですよー? 一応【演奏】のスキルは持ってるんですけど、今までゲーム内で弾いたこともないので、レベルも1のままですし」


「初期?」


「はい、キャラメイクの時に取りました。リアルでも少しだけギターをやってるので、こっちでも弾けたらなーって」


 なるほど、それで少し音が違ったんだ。

 このゲームには、戦闘スキルや戦闘補助スキル、生産スキルに採取スキルといろいろなスキルがある。

 けど、その中に含まれない……いわゆる『趣味スキル』と呼ばれてるスキル群もあったりする。

 ミトの持ってる【演奏】は、そんな趣味スキルに入ってるスキルだった。


「ん」


「え? あ、はい。ありがとうございました」


「ミト、進捗」


「私の方ですか? えっと、ひとまず数種類作ってみたんですが……」


 そう言ってミトが取り出したのは、色とりどりの液体が入った瓶。

 入れ物……無かったのかな?



「吟遊詩人に似合う飲み物ってなると……お酒か、フルーツジュースなどが近いのかなって……」


「ん、正解」


「良かった。ただ、その中でどれにしようか迷ってて」


 そう言って苦笑したミトの前で、私はそれぞれを小皿に少量取り出して、香りや味なんかを確かめる。

 もちろんお酒は飲めないので、お酒は指につけたものを舐め取る程度だけど。


「お酒、困難」


「そうなんですよね……。年齢制限もあってお酒を飲めないので、どうにも完成度が」


「ならジュース」


「ですね。でも、ジュースもどれにしたらいいのか、分からなくて」


 そう、お酒を選択肢から外しても、まだまだ取れる手はたくさんある。

 ジュースだって、一つの果汁を使うか、複数の果汁を合わせるか……また、比率をどうするか、調味料を加えるかで味は変わってくる。

 絞ったままだったり、煮詰めたり……調理方法も様々あって、果汁のジュースといえど、そのバリエーションは本当に沢山。


 けれど、今回のイベントでは、ある種の正解が用意されているようにも思えた。

 イーリアスの街は、西洋の神話に出てきそうな街並みをしていて、『イーリアス公開決闘場』はどこぞのコロッセオを彷彿とさせてくる。

 そして、あの時代のコロッセオ……その周辺で、よく飲まれていたものといえば……。


 葡萄を使ったワインに蜂蜜酒、あと安いビール。

 お酒以外だと、果汁を煮詰めた甘いジュースに、牛以外のミルク、それから酢を水で割ったものなんかもあったはず。

 蜂蜜は今回のイベントでは使用可能素材には入ってなかったから……。


「葡萄、ミルク」


「葡萄とミルクですか?」


「ん。牛以外」


「牛以外のミルク……馬乳がたしか使用可能リストに入ってましたね」


 言ってミトはウィンドウを表示させ、なにやら調べ始めた。

 たぶん、公式サイトで使用可能アイテムリストを確認しているんだろう。


「あ、ありました。アルテラホースの乳が使えるみたいです。あと葡萄は、アルテラの街で期間限定販売されていたので、買ってきたのがあります」


「ん。馬」


「馬……? あ、馬乳はどうやってってことですか? えーっと、アルテラの街で飼われてるみたいですね。理由は分からないですけど」


「ん」


 そうと決まれば、すぐに動くべき。

 NPCから買えるアイテム数には、限りがある。

 需要と供給のバランスが崩れると……すぐには買えなくなってしまうだろう。


 だからこそ私は、ミトの手を引いて共有作業場から飛び出した。

 こういうときは、自分で動くのが一番早いから。


「わわ、カリンさん!?」


「走る。ゲート」


「あ、はい! イーリアスの中心広場のゲートですね!」


「ん」


 言うが早いか、私達の前にゲートが見えてきた。

 そのゲートに向かって……私とミトは、飛び込むように飛び込んだ。


 結果、アルテラの街に入った瞬間、二人してコケたけど。


-----


 名前:セツナ

 所持金:7,280リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.12】【幻燈蝶Lv.3】【蹴撃Lv.5】【カウンターLv.8】【蝶舞一刀Lv.5】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る