第二章『名前をつけるなら』

第21話 イベントがあるらしい

 私とケートが第二層にたどり着いてから、リアル一週間が経過していた。

 その間に、第二層にたどり着く人も増えてきて、第二層の街『イーリアス』も、活気づいてきていた。

 そして……。


「緊急会議~。来週末のイベントについて~」


「そのやる気のでない声はどうにかならないの?」


「ええ~、こんなに良い声なのに~?」


「ケート~?」


「は、はい! しゃんとします! しゃん!」


 イーリアスにある共有作業場の一角で、私とケートは、苦笑するミトと無表情なカリンに会っていた。

 そう、この二人も、私達とパーティーを組んで第二層に移動できるようにしていたのだった。

 まあ、戦ったのは私とケートだけなんだけど。


 ちなみに、イーリアスの中心広場にはゲートがあって、そこを通るとアルテラの街にすぐ戻れるのだ。

 とても楽だよね。


「イベント、二つ」


「そう! リンの言うとおり、今回のイベントは二つが同時開催! サービス開始記念イベントってことで、気合い入れてるんだろうねー」


「へー。それで、内容はどんな感じなの?」


「チッチッチ、慌てるでないよセツナ殿。今から説明するからさ」


 そう言ってケートはなにやらウィンドウの操作を始め……数秒ほどで、「ほい、これをみてー」と私達に見えるようにウィンドウを大きくした。

 これは、えーっと……公式サイトのお知らせ?


「ここに書いてあるんだけど、二つのイベントは来週末の土日と連日で開催予定なのさ。まず土曜日の一日目に行われるイベントが、生産プレイヤー向けのイベント。その名も、『君の閃きを見せてみろ! ジャンル別創作バトル』!」


「……ダサ」


「言うてやるな、これでもきっと頑張って考えてるんだから。で、内容としては『装備品』『楽器』『飲料』の3ジャンルで競う、完成度ポイントランキングって書いてあるね。なんでも、完成したアイテムをイベントNPCに出品すると、その完成度に応じてポイントがつけられるみたい。んで、そのポイントでランキングの順位が決まって当日に表彰って感じかな。NPCは時間限らずずーっと受付にいるんだってーブラックかな? あ、それに、優勝アイテムは期間限定課金アイテムとして販売されるんだってさー!」


 なるほど……。

 つまり、良いものを作れば作っただけ評価が上がるってことかー。

 あと、ブラックな情報は別に要らない。

 可愛そうになるだけだし。


 最後の課金アイテムに関しては、期間終了後に売上の何割かが支払われるらしい。

 すごいなぁ……。


「条件あり」


「うむ。リンの言うとおり、出品できるアイテムには条件があって、指定されてる素材のみを使用してることって決まりなんだにゃー。しかもその素材は第一層でも揃えられる素材ばかりだから、かなりの人数が参加できると思うよ」


「そ、そうなんだ……」


 つまり、良い素材を使って良いものを作る、っていうのはダメ。

 さらに、イベント間際にゲームを始めた人でも参加できるように条件がつけられてるってことかー。

 ぐぬぬ……なかなか考えてるじゃない。


「それで、私は『飲料』。カリンさんが『装備品』と『楽器』を作る予定です。……というか、すでに試作を始めてるところです」


「そっか。ミトさんのスキルなら『飲料』に向いてるよね。ポーションとか完全に飲み物だし」


「はい! なので、がんばります!」


 グッと拳を握って気合いを入れたミトを、私とケートは微笑ましく見守る。

 カリンはー……よく分かんないや。


「手伝えることがあったら言ってね。素材くらいは取りに行くし」


「だにゃー。いつもサポートして貰ってばっかりだからにゃー、こういうときはじゃんじゃか使ってくれい」


「ん」


「はい! ありがとうございます」


 その言葉に、ケートはにししと笑うと、「それじゃもう一つのイベントねー」と、話を切り替えた。

 一つが生産プレイヤー向けだとすれば……もう一つは、まあそうですよね。


「もう一つは戦闘プレイヤー向けのイベントですじゃ。『君の力を見せてみろ! 第一回最強決定戦』! だにゃー」


「うわ、ダサ……」


「それは目をつむってあげてほしいのじゃ」


 あまりにも直接的すぎて、もうダサい以外のなにものでもない……。

 もうすこしこう……ひねれなかったのかな?


「はいはい、イベント名からは思考を切り替えてねー、説明するよー」


「あ、うん」


「これは本戦と予選があるイベントになってて、予選は土曜日の二日目にやるみたい。イベント特別空間に、数十人ごとで転移してのバトルロワイヤル! くぅー! これは熱い!」


「えぇ……?」


 説明しながら突然盛り上がってるケートにドン引きしつつ、私はイベントの詳細を読む。

 なるほど、大体30人くらいで分けるのか。


「で、本戦は予選ブロックごとの生き残り1名が、この街のシンボルでもある『イーリアス公開決闘場』でトーナメント的に競い合うって感じかなー。あ、日曜日の一日目にやるのと、この本戦はプロモーションビデオとして公式に出るんだってー。こちらは一試合ごとに一律いくらで出るみたいだにゃー」


「ふむふむ」


「決まりとしては、回復アイテムの使用が禁止ってくらいかな? 運営に問い合わせしたら、装備の効果で回復が早まったりするのは大丈夫だってさー」


 つまり、ケートの装備は使えるってことだね。

 でも、この予選……魔法使いにはかなり厳しくない?


「厳しい戦いになるよー。でもそれは私だけじゃないんだなー」


「そうなの?」


「うむ! 天才魔法使いケートちゃんは、すごーく有名人になってるけど……同じくらい有名なのがセツナはん、あんたでっせ」


「あ」


 そう言われればそうだっけ……。

 しかも、私達は装備も結構目立つから……狙われること間違いなし?


「まあ他にも、グレートウルフを倒したグレンさん達も狙われるだろうねー。有名な人を倒せば、それだけ箔が付くってことで」


「弱肉強食だぁ……」


「うひひ。でもセツナは大丈夫だと思うけどねー。たぶん本戦にはいけると思うよー」


 あっけらかんと言うケートに首を傾げてみるものの、ケートは笑ってみせるだけで、理由は全く教えてくれない。

 むう、そう言われたら頑張らないといけないじゃない。

 でも本戦に出るとプロモーションビデオに……ぐう。


「とりあえず、イベントまで私達はスキル上げって感じ?」


「それもあるけど、対人戦に慣れといた方が良いかなー。一日数回程度は私とPvPしとこうかー」


「はーい」


 そんなわけで、私とケートはひとまずスキルレベルを上げるために、街の外へと向かう。

 もちろん、カリンとミトからのお願いがあれば、すぐに動くっていう約束はして。


 初イベントかー、どうなるのかなー?


-----


 名前:セツナ

 所持金:7,280リブラ(+3,750)


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.12】【幻燈蝶Lv.3】【蹴撃Lv.5】【カウンターLv.8】【蝶舞一刀Lv.5】

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