第18話 第一層ボス攻略戦

 ゴゴゴゴゴ……と音を立てて開いた門を、私とケートは二人並んで通り抜ける。

 すると門はゴゴゴゴゴ……と音を立てて自動で閉まった。

 自動で動くなら、開ける時点で自動にしてほしい。


「では、セツナはん、ポーションは持たれましたな?」


「……ええ、持ってるけど」


「うむうむ。HPやMPが危険になる前に飲むのじゃぞ……苦いらしいが」


「うぇ……」


 部屋に入ってすぐ、ケートは立ち止まり、私へとそう言って聞かせる。

 苦いのかー……極力飲まずに終わりたいなー……。


「さてと、それじゃーやってみますかー!」


「ん、はーい」


 伝えることを伝え終えたのか、いきなりケートはテンションを上げて足を進める。

 そうして過剰に気負うこともなく、さも当たり前のように部屋の中央へと足を進めた私達の前に、低い声と共に黒い風が舞い……巨大なサソリの姿を現した。

 大きさ、形、共に変化なしだねー。


「グラァァアァ!」


「セツナ!」


「ん、行ってくる!」


 前回と同じく突っ込んできた巨大サソリに、私はぶつかりに行く勢いで一気に距離を詰めていく。

 そして、鋏の間合いに入った瞬間、巨大サソリはその右腕を振ってきた。


「それは見えてるよっと」


 飛び越えつつもその鋏の殻を柄のかしらで叩きつけ、ガギィンと大きな音を立てる。

 ケートが言うには、こうやって音を立てて気を引くのも、前衛の仕事なんだって。

 ヘイト操作とか言ってたっけ?


「グラァッ」


「上からの針も見えてるよっと」


 着地を狙うように差し込まれた尻尾の針は身体を反らして避け、ついでに根元を斬りつける。

 うんうん、良い感じの手応え。


「お顔がお留守だよー『プチフレイム』!」


「グラアァァ!」


「こらこら、よそ見はだめだよー。【蝶舞一刀】水の型『水月』!」


「グラァァァァ!?」


 私を攻撃すればケートの魔法が飛んできて、ケートを見れば私が関節を切り裂いていく。

 特に相談も合図もしないけど、私とケートは上手いことタイミングを合わせられていた。

 以心伝心ってやつかな……ケートに言ったら調子に乗るから言わないけど。


「グラァッ!」


 っと、そんなことを考えていたら、巨大サソリが両手の鋏をぶんぶん振り回し始めた。

 さすがに鬱陶しくなってきたのかな?


「ケート、一旦引くー!」


「はーい! そんじゃ、ぶっこむぞー! 両手同時、超『アースニードル』ゥ!」


「グラァ!?」


 鋏を避けながら退がっていた私の周りから、地面が隆起し無数の石槍が突き上がる。

 殻は貫けないにせよ、邪魔になるように生えた槍のおかげで、私は難なく巨大サソリの間合いから抜け出すことが出来た。

 いやー、魔法って便利だねー。


「効果が高いのはやっぱり【火魔法】なんだけど、まだレベルが足りてなくて、『プチフレイム』以外は使えないんだよねー」


「まあでも、一回の接敵で二割以上削れてるし……大丈夫じゃない?」


「いやいや、こういうのは大体半分以下とか、残り三割とかで強くなったりするんだぜ」


 というわけで、私とケートはとりあえず状況が変わるまで同じ流れで削ることに。

 私としては、巨大サソリの尻尾を切り離したいんだけどなー。


「グラァァアァ!」


「っと、行ってくるー」


「はーい」


 『アースニードル』を破壊し尽くしたことでフリーになった巨大サソリへ、私はまた近づいて接近戦を挑む。

 今度は尻尾が先で、避けた方に鋏が来てるぞっ!


「おっとと。鋏は硬いから切れないんだよねー……でも、尻尾はすぐに戻しちゃうし」


「グラッ」


「仕方ないなー。それじゃ少し本気を出しちゃうぞ!」


 そう言って、私は腰から鞘を抜き、左手で鞘を保持する。

 そして直後に突き出された尻尾を避け、繰り出される鋏に納刀したままの刀を当てて、クルリと旋回。

 勢いを残したまま抜刀し、鋏の付け根を斬り裂いた。


「グラァ!?」


「遅い! 『水月』!」


 反撃されると思ってなかったらしい巨大サソリの鋏を蹴り飛ばし、飛び込むように顔を斬りつける。

 そしてシャンッと綺麗な音が響き、殻すらも無視して巨大サソリの顔に刀傷を生み出した。


「ナイスセツナ! 『プチフレイム』あんど『プチフレイム』ゥ!」


「グラァァ!? アアァァァァ!」


「まだま……ッ、ケート!」


「わ、わわっ!」


 ケートの攻撃でHPを半分まで減らされた巨大サソリは、身体を少し後退させると……頭上に持ってきた尻尾の先端から、多数のトゲを発射した!

 ちょ、ちょっとそれは卑怯!


「うぎゃっ!」


「ケート、大丈夫!?」


「へいきへいきー。結構刺さったけど、思ったよりダメージないから。ただ、MP含めちょっと回復するから、タイマンよろしくー!」


「あ、うん!」


 発射したことによる硬直なのか、動かない巨大サソリに、私はズシャズシャ攻撃を与えていく。

 このまま削れたらいいんだけどなー。

 ちなみに、そんなズシャズシャ音の反対側では、ケートが「おえ、まっず……うぇ……」と、乙女にあるまじき汚声をあげていた。

 うん、飲まなくていいように頑張ろう。


「グラァ」


「おっと、復活」


「しかーし、ケートちゃんも復活! くらえ、両手『プチフレイム』超連発!!」


 硬直復活直後に、頭めがけてケートの火魔法めった刺し。

 さすがに超連発してる状況で近づいたら、私も巻き込まれるので退散退散っと。


 そうして私がケートの元に戻ると、ほぼ同時に「グラァァ……!」と怒りに震えるような声が響き……なんと巨大サソリの色が変わった!

 えっと、金色……?


「第二形態ってやつかな。殻についてた傷も治ってるみたい」


「うわ……面倒くさい……」


「ま、残りHPは三割を切ってるし、これ以上変化するとすれば後一回ってところかな? とりあえずさっきと同じ感じで、様子見してみよー」


「グラァァァ!」


 ケートが言い切るのが先か、巨大サソリは雄叫びを上げて私達の方へと突っ込んでくる。

 だから私もまた、まっすぐに巨大サソリへと突っ込んだ。


「グラァ!」


「ふっ!」


 ギンッと音がして、柄の頭を叩きつけた手が一瞬痺れる。

 ……さっきより硬くなってる!


「『プチフレイム』!」


「……グラ?」


「ケートの魔法も効いてない感じ……?」


 飛んできた魔法すら、当たったところで“何か?”という感じの反応を見せる巨大サソリ。

 硬くなりすぎでは……?


「うーむ……セツナー! ちょっと時間稼いでー!」


「およ? りょーかーい!」


 斬りつけても弾かれ、魔法も無視されと……長期戦になりそうな雰囲気が出始めた時、ケートからの突然のお願い。

 何をするつもりかは分からないけど……時間を稼げって言われたら、稼ぐしかないよね!


「なら、本気でやるよ! 硬くなったって意味がないってこと、教えてあげる!」


「グラァ!」


 薙ぎ払われる鋏を避け、突き出される尻尾を弾き、また振られる鋏を飛び越えて、私は頭上に納刀したままの刀を振りかぶる。

 そして刃はそのままに、空中から渾身の力で、鋏の付け根へと柄の頭を叩きつけた。


「グラァ!?」


「日本刀っていうのは、何も刃で斬るだけの武器じゃないの。時には敵の兜や鎧を砕いたり、体勢を崩すために柄で殴ることも、ね」


 呟きながら、地面を転がって体勢を立て直す。

 叩きつけた瞬間、ゴキャッてひどい音が鳴ってたし、かなりのダメージになったはず。

 それに、これだけ時間が稼げれば……。


「お待たせ、セツナ! ぶっつけ本番、【魔法連結】……『フォールディングスピア』!」


「グラッ!?」


 ケートの宣言と共に、巨大サソリの頭上に青と黄色が半々になった魔法陣が現れ、そこから岩で出来た大型の槍が、水流に押し出されるように飛び出してきた。

 なるほど、『ウォーターフォール』と『アースニードル』の合体技なのかー。

 でもぶっつけ本番って、めちゃくちゃするなぁ……。


「グラッ、グラァァ!?」


 あ、貫けてはないけど、突き刺さった。

 かなり硬い殻だから、刺さるだけでも充分すごいよね。


「あと一割切った! セツナ!」


「はーい! 一気に決めるよー!」


「グ、グラァ!」


 ケートがつけた傷の場所へ、一気に駆けようとする私を止めるため、巨大サソリはまっすぐに尻尾を突き出してくる!

 けれど私はもう、それを避けることもせず、まっすぐに突き進み……【幻燈蝶】を発動した。


「グラッ!?」


 貫ぬけると思った瞬間、対象が消失すれば、人も……もちろんモンスターも驚いてしまうもの。

 だからこそ、私は今、あえてこのスキルをつかったのだ。


「セツナー! やっちゃえー!」


「【蝶舞一刀】水の型……『水月』!」


 手に取るように分かる空間から……巨大サソリの傷口の真上で身体を復元し、私は反応出来ていない巨大サソリへと刃を抜く。

 シャン……と空を切り裂くような音が響いた後、私は静かに着地し、その刃を鞘へと納める。

 鞘と刀がかっちりハマった瞬間、チッと音が鳴り……それが合図だったように、巨大サソリの身体は光へと変わっていった。


 またつまらぬものを、斬ってしまった……かな。


『第一層ゲートキーパー、ブラックスコーピオンが初討伐されました。討伐者はセツナさん、ケートさん。討伐者には、初討伐成功報酬と、討伐の証として、称号“第二層到達者”をお送りいたします。また、最速到達の証として、第二層ゲート前に、プレイヤーネームを記載した石碑が設置されます』


「っしゃー! やったぞごらー!」


「ケート、言葉が汚い。でも、やったね」


「いっひっひ、一番乗りだぜい! いひひ」


「もう……笑い方も汚いって」


 アナウンスが終わると同時に、飛び込んできたケートを受け止めつつ、喜びで性格と顔がおかしくなってるケートに苦笑する。

 そんな私に「いやー、金色になった後、全然攻撃通らないから、ダメかと思ったんだよねー」と、ケートもまた苦笑した。


「そうなの?」


「うむー。だから最後のアレに、MPのほとんどを使い切っちゃった」


 もう最後の悪あがき、って感じだったらしい。

 これがムリだったら、もう今回は諦めよう、みたいな。

 でも、悪あがきに全力を出した魔法は……殻を貫いた。

 だから私達は、こうして勝ちを拾えたのだ。


 そのことにちょっと感動しつつ、部屋の奥に現れた門をくぐろうとしたところで……ピコンというメッセージ受信の音が鳴った。


「にひひ、リンからメッセージだ。『祝』だって」


「カリンさんから? 私はミトさんからメッセージ来てたよ。『おめでとうございますー!』だって」


「たぶん一緒に打ってたんじゃないかなー? だから別の相手にって感じで」


「たぶんね」


 お互いのメッセージに返信して、私とケートは顔を見合わせる。

 そしてどちらともなく手を繋いで……門をくぐったのだった。



 第一章『変わらないまま広がる世界』了


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 名前:セツナ

 所持金:3,530リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.9】【幻燈蝶Lv.3】【蹴撃Lv.4】【カウンターLv.6】【蝶舞一刀Lv.3】

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