第14話 双杖『蓮華』

「そういえば私、リンにお土産があるんだよねー」


「ん?」


「なんとー……お肉でーす!」


 そう言って、机の上にドーンと置かれる肉の山。

 つまり……あのうさぎさんのなれの果てだった……。


「肉……」


「そう、お肉! リン聞いた? アルテラ平原の兎肉は焼くと美味しいらしいよー?」


「焼く、肉」


「たべたい? たべたい?」


 端から見ているだけで分かるほどに、ケートはにやにやと笑っていて……カリンをいじっていることがよく分かる。

 しかしその対象たるカリンの……カリンの顔が、ヤバいくらいに崩れていた。

 え、そんなに?


「ミト、お願い、します。肉、肉を」


「あ、はい! 頑張って焼きます!」


 垂れそうになるよだれを手で押さえながら、カリンは深々と頭を下げた。

 というか、ちゃんと喋ってたよね!?

 ちゃんと喋れたんだね!?


「にひひ、見て分かると思うけど、リンはお肉に目がないんだよー。前も、報酬がお肉ってだけで最高級品の装備を作っちゃってたし」


「職人としてそれはどうなのよ……」


「本人が納得してるなら良いんじゃない? ほら、今もミトちゃんがお肉焼いてる横で、タイミングを教えてたりするし」


 ケートの言葉に台所エリアの方を見てみれば、悪戦苦闘するミトの横で、カリンが「今、そう」と指示を出していた。

 ……二人とも【調理】スキルは持ってないはずなんだけど、なんでカリンが教えてるんだろう。


「数個ほど失敗しちゃいましたけど、ひとまず人数分出来ました! 【調理】スキルも取れるようになったので、次からはもう少し成功すると思います!」


「いやいや、十分だよー!」


「でもこのお肉、焼いただけで食べるの?」


「ふっふっふ、そこは抜かりないぜよ。ちゃんと塩を買っておいたぜい!」


 そう言って、机の上に白い粉をデン! と置くケート。

 多分、うさぎの肉が美味しいって聞いた時に、買ってたんじゃないかな?


「ケート、ナイス」


「ふへへ。それじゃいただきまーす!」


「いただきます」


「はい、どうぞです」


 手を合わせて、お肉にかぶりつく。

 熱々で肉汁もすごいけど……濃厚で美味しい!

 隣のケートも顔を真っ赤にしながら、美味しそうに頬ばっていた。


「とても美味。ジビエ食材として知られる兎肉には独特の臭みがあって、焼いただけでは食感の強い鶏肉みたいになるものだけれど、さすがゲーム内だけあって、手軽で美味しい食材になっている。この肉であれば、シチューなどのスープにも合わせやすい」


「……え?」


「さらに、先ほど生の状態で触らせて貰ったところ、本来では筋が多い肉であるはずが、ナイフで手軽に切れたのも良い。これならば、細かく切って串焼きにするのも良いかもしれない。塩こしょうなどのスパイスと合わせることで、手軽で美味しいモノが作れるはず」


「ねえ、ケート。アレ、カリンさん?」


 流暢に語られる肉への感想に、私は隣で肉の味を堪能しているケートの脇をつつく。

 するとケートは「あー、うん。お肉を食べてる時だけ、口調が変わるんだよねー。あと表情が豊かになる」と苦笑した。

 いや、口調とか表情って言うか……もう人が違うじゃん!?

 ほら、ミトも隣で『え、誰……』って言わんばかりに固まってるし!


「とても美味だった。ありがとう、ミト」


「え、あ、いえいえ! そんな!」


「ん、仕事」


「あ、はい?」


 お礼を言った直後に、また無表情に戻り、カリンはスッと作業に戻っていった。

 じ、自由だー。


「たべたー! おいしかったー! ほら、ミトちゃんもセツナも、早く食べないと冷えちゃうよー!」


「あ、うん。そうね」


「は、はい」


 お腹いっぱいになったらしいケートの言葉に頷きつつ、私とミトはゆっくりとお肉を堪能したのだった。

 うん、美味しい。



「ケート」


「はいはい?」


「完成」


「およ、指輪リング?」


 作業に没頭していたカリンが、机の方へとやってきて、ケートの手の上に二つのリングを置いた。

 宝石のハマった金色のリングだ。


「王冠、杖」


「え、王冠から作った杖なの!? って、これ杖!? 宝石はどこから!?」


「王冠の中」


「あ、見えなかったけど王冠の中に埋まってたのか。というか、これ杖って……」


 言いながらケートは両手の中指にリングをはめる。

 なんか一気にゴージャス感が出たね?


双杖そうじょう『蓮華』」


「うわ……これ、魔法威力46もある。最初の杖の約3倍じゃん……」


「分裂。落ちた」


「あー、なるほど。本来、杖は一つなのをむりやり二つにしたから、性能が少し下がったのかー」


 つまり、折りたたみ式とか分解方式の道具が、そうじゃないものに比べて、少し脆くなるのと同じ原理らしい。

 本来、魔法使い用の杖は一本であり、両手に持つなら二本準備しないといけないところを、このリングは二つで一つ……つまり、杖一本ってことになる。

 だから性能が少し落ちた、ということらしい。


「でもカリンさん。それだったら、二つの杖にしちゃったら良かったんじゃないの?」


「いや、そうじゃないんだよー。二つで一つだからこそっていう特殊効果がついてるんだよね……」


「え、そうなの?」


「うん。でも、これはちょっと……カリンやりすぎ」


 そう言ってケートが見せてくれた詳細には……魔法の多重発動ができる、と書いてあった。

 多重、発動……?


「たぶん、これ……一回の詠唱で二つ魔法が出るんだよね……。だから、両手にあると、それがさらに倍」


「え」


「だから、いや、やってみた方が早いか。『ウォーターボール』」


 両手を前にして、ケートが魔法を唱えると……青色の魔法陣が左右に2つ、合計4つ出てきた。

 そして、ケートはそれを消して、今度は『ロックショット』と『ウォーターボール』を同時発動させた。

 すると……。


「えっと、8個?」


「あ、あはは……8個だね……」


 そう、片方に青色と黄色の魔法陣が2つずつ……つまり、両方で合計8つの魔法陣が浮かび上がっていた。

 これはちょっとヤバい。


「ケート、MP」


「MP消費はー……4つ分っぽいね。杖一つで発動してるって換算なのかも」


「いやいや、それはちょっと」


「そうだね、これはちょっと」


 どうやら、ひとつの魔法を唱えると、倍の2個、魔法陣が現れ、2回分のMPが取られる。

 しかし、杖が二つある関係で、さらに倍……4個の魔法陣が現れるという謎の状況になっていた。

 これはさすがにひどい。


「デメリット」


「うん。これはメリットとデメリットが背中合わせって感じかなー」


「どういうこと?」


「一応、装備の効果は意識して消すことが可能なんだけど、魔法の発動自体は消せないんだよね。だから、一回の発動で、両手に1個ずつは確実に魔法が発動しちゃうってわけ。そうなるとダメージの分散もあるし……魔法はイメージだから、集中出来なくてイメージが崩れると、発動失敗もあり得る。言ってしまえば、咄嗟の時にミスする可能性が増えたって感じかなー。まあ、イメージ次第ってことは、こういうことも……両手集中、超『プチフレイム』」


 説明しながら、両手を組み、祈るようなポーズを取ったケート。

 すると、普段の魔法陣よりも巨大な魔法陣がひとつ現れた……。


「……8個分、全部をひとつに纏めてみた」


「これは、ちょっと」


「うん……」


 フッと魔法を消して、ケートは私に困ったような顔を見せる。

 しかし、これを作った張本人は……満足した顔で、作業に戻っていったのだった。


「あ、ミトちゃん固まっちゃってる」


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 名前:セツナ

 所持金:3,530リブラ


 武器:居合刀『紫煙』


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】【蹴撃Lv.1】【カウンターLv.1】【蝶舞一刀Lv.1】



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補足

 ケートの新武器『蓮華』ですが、ケート本来の武器である両手杖のように、一本で作っていれば、魔法攻撃力100前後の火力武器になっていました(元々、魔法攻撃はMPを消費する関係もあって、威力が高い)

 その場合も多重発動の効果があったため、単純計算で約100×2=約200の攻撃力だったんですが、今回は分割したため46になっています。

 ケートのように両手同時発動ができない場合は、46×4=184(MP消費2発分)と劣りますが、同時発動で46×8=368(MP消費4発分)というヤバいことに。

 ただ、ダメージは、モンスターの基礎耐性で減少されるため、威力が低い攻撃はカットされやすくなります。(同じことが、掲示板①のスライムvs棒使いで起きてます)

 そのため、考えようによっては、4発分のMPを消費してるにも関わらず、ダメージ出てない、という状況にもなりえるのです。(ちなみに、1本で作った場合、4発分の火力は約400なので、蓮華より高いです)

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