第13話 能ある鷹はうさぎを肉にする

「ケート、これは?」


「ちがーう。ただの雑草だよー」


「むう……」


 私とケートは、カリンの作業場を後にして、南門の先にある『アルテラ平原』へとやってきていた。

 そして、バスケットボールサイズの緑スライムがぽよんぽよんしているのを横目に、薬草を探していた。

 まあ、スライムを倒してる人が多いから、ぽよんぽよんしてるというよりも、ぽよんぽぐちゃって感じではあるけど。


「この辺りにはないねー。スライムを狩ってる人も多いし、薬草が生えてても、すぐ抜かれちゃってたりするのかも」


「それはそうかもだけど……だからって“ありませんでした!”はさすがにミトさんが可哀想じゃない?」


「分かってるよー。だから場所を変えようって言うつもりだったの!」


 むうむう! と口を尖らせたケートに笑いつつ、「それで、どこに行くの?」と話を進める。

 するとケートは、平原の東側……つまり、前回木材を取りに行った『東アルテラ森林』の方を指さした。


「木を隠すなら森の中……つまり、薬草が生えるのも森の中ですじゃ」


「全然関係ない例えやめてくれる? あたまわるそう」


「なんだとー! 一応これでも、テストは平均点なんだぞー!」


「それ、普通じゃない」


「……ふっ、能ある鷹は爪を隠しているのさ」


 意味ありげな顔でそう呟くケートに「その爪煎じて飲んだらいいのに」とか返しつつ、私達は二人で森へと足を向けた。

 するとスライムの数が次第に減って、代わりに白い毛玉が増えてきた。

 わー、うさぎだー!


「ケート、ケート! うさぎだよ、うさぎー!」


「はいはい。可愛いけど、一応モンスターだからねー。迂闊に近寄ると」


「うさぎさんうさぎさぐへっ」


「あ、良い体当たりボディーブローだ」


 今まで、攻撃を受けたのはキングフロッグだけだったのに、白兎の体当たりを受けて少し吹っ飛ばされてしまう。

 みぞおち……みぞおちはだめ……。


「そういえば、うさぎの肉が美味しいってNPCに聞いたなー」


「ウサッ!?」


 いや、うさぎはウサッとは鳴かないでしょ……。

 でも、可愛いからいいよねー。


「というわけで、『ウィンドブロー』」


「ウサァァ……」


「うさぎさーん!」


 目の前でぴょんぴょん跳ねるうさぎさんにほっこりしていたら、ケートが無慈悲な魔法を放ち……うさぎさんは鳴き声と共に光になっていった。

 だから、ウサァとは鳴かないでしょ……。


『ホワイトラビットの肉を手に入れました』


「あんな可愛かったうさぎさんが、ブロック肉になってしまった……」


「あ、肉出た? それ美味しいらしいから、後で焼こうね」


「あんたは鬼か」


 ええー、と心外ですみたいな顔をしてくるケートにぷんぷん怒りながらも、私達は森へとたどり着いた。

 ちなみに、その間うさぎさんには数回会ったけど、すべてケートが肉と皮にしていた……ケートには人の心がないのか。


「お、こっちにも薬草発見。やっぱり森の中になると、まだ手をつけられてない感じだねぇ」


「みたいだねー。日が遮られて、ちょっと見通しもわるいし」


「ただ、そのおかげで結構固まって自生してるからホクホクですわ」


 そう言いながらも、私とケートは薬草を集め、アイテムボックスの中に入れていく。

 一応、この先のことも考えて、沢山生えていても、その中の半分くらいを取る程度で抑えてはいた。

 生えなくなっちゃったら大変だからね。


「しかし、この森……あまりにも鬱蒼としすぎな気がする」


「そう? 森ってこんな感じじゃない?」


「いやいやセツナさん。街のすぐ近くにある森なのに、こんなに手つかずみたいな鬱蒼感を漂わせてるのは、少し不思議だよー」


 そう言われるとそうかも?

 でも、一応外から中へと続く獣道みたいなのはあったし……完全に手つかずってことは無いと思うんだけど……。


「たぶん、夜になったら強いモンスターが出るとか、そんな感じなんじゃないかなー。だから、街の近くや、道の近くは手が入ってるみたいな」


「なるほどー。ケートは物知りだねー」


「へへん。ちなみに、こういったところの奥には湖とかがあるのが定番です。ゲーム的な定番」


 そんな話をしながら、薬草を集め……時折でてくるうさぎをケートが倒して肉にしたりしながら、私達はゲーム内のお昼過ぎに街へと戻ったのだった。

 アイテムボックスのなかの、たくさんのおにく……。



 街に戻った私達は早速ミトに連絡して、噴水広場で合流した。

 ミトは相変わらず薬草を求め歩いてるみたいだけど、あんまり成果は上がってないみたいだった。


「というわけで、薬草をたんまり採ってきたんだけど、どうしよっかー?」


「とりあえず人の少ないところに行かない? やっぱり注目されてる気がするし」


「じゃー、リンのところにお邪魔しよう! ミトちゃんも入れるようにお願いしとくよー!」


 合流してすぐ進んでいく話に、ミトはついていけてない様子で「え、えっ?」と右往左往していた。

 そんなミトの手をがしっと掴んで、ケートは「いくぞー!」と、作業場の方に歩き出す。

 うん、まあ……ケートの強引さにはそのうち慣れていただけたら……。


「リン、ただいまー!」


「カリンさん、お邪魔します」


「ん」


 カリンの作業場に入った私達は、未だ作業中を続けているカリンの邪魔にならないよう、少し離れて椅子に座る。

 そして、お上りさんみたいにキョロキョロしているミトが、少し遅れて椅子へと座った。


「リン、紹介するねー。この子がさっき連絡したミトちゃん。【調合】持ちの生産プレイヤーさんだよー」


「あ、あの、ミトです。【調合】の他にも【錬金術】も持ってます。よろしくお願いします」


「カリン、よろしく」


「リンは【鍛冶】【木工】【細工】持ちの生産プレイヤーだよー。あんまり喋らないけど、嫌がってる訳じゃないから気にしないでねー」


 名乗ってすぐに作業に戻ったカリンの後、補足するようにケートが説明を加えた。

 ミトも、嫌がってるわけじゃないって言われて、少しだけ安心したみたい?


「ケート」


「んー?」


「【彫金】と【裁縫】、【染色】も」


「あ、もう取ったの? って、そっかー防具とか作ってると生えるかー」


「ん」


 どうやら私達が出かけた後に、さらに生産スキルが増えたらしい……。

 ほんとに全部やる気なの……?


「す、すごいですね。あと【調合】と【錬金術】【調理】を取ったら、キャラメイク時に取れる生産スキルが全部揃っちゃいます……」


「取らない。任せる」


「え、えっと?」


「リンはその三つを取らないから、ミトちゃんに任せるってー」


「ええええ!?」


 カリンの言葉を説明したケートの言葉に、ミトが大きく驚いて椅子から立ち上がる。

 そして、「あわ、あわわ……」と慌てた後、「がんばり、ます」と気合いを入れていた。

 これで受け入れるとか、この子もなんだかちょっと変なのでは?


「じゃあ、頑張ってもらうためにー、薬草をしんてーい!」


「うん。頑張ってね、ミトさん」


「はい! がんばります!」


 机に積み上げられた合計40個近くの薬草を前に、ミトはふんすっと気合いを入れる。

 そんなミトの姿に、私達は微笑ましくなっていたのだった。


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 名前:セツナ

 所持金:3,530リブラ


 武器:居合刀『紫煙』


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】【蹴撃Lv.1】【カウンターLv.1】【蝶舞一刀Lv.1】

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