第11話 お金がないから物々交換

 一度ログアウトして、お昼ごはんを食べた後に合流した私達は、アルテラの外にはいかず、アルテラの街が見下ろせるやぐらの上にいた。

 というのも、2時過ぎっていう少し遅めのお昼を食べてログインしたら、夕方すこし前だったのだ。

 夜になると門も閉まっちゃうし、リアル夜の8時くらいにならないと門も開かないしね。

 つまり、大体リアル時間3時から8時くらいまでは門が閉まっちゃうの。


「こうやって見下ろすと、アルテラの街って結構広いよねー」


「うむうむ! ちょうどいいから説明しとくと、噴水広場を中心に大通りが三本あるでしょ? ひとつは南門に続いてて、他二つも一応門には繋がってるってところなんだけど」


「大きなY字って感じだよね」


「そうそう。その大通りを境に、街の東が『商売区』。さっきの喫茶店とかはあそこにあったよね! で、反対の西側が『冒険区』。共有作業場とか、素材の買い取りとか、訓練所なんかもある場所だよー」


 言われて西側を見てみれば、たしかに煙が上がってるところが多かったり、広く空き地になってるような場所が見えた。

 あそこが訓練所なのかな?


「で、南門の反対側にある北側が『住民区』っていって、役所とか住んでる人の家とかが多いんだってー。こっちは私達にはあんまり関係ないかなー?」


「そうなの?」


「……まあ、最初はそう思ってたんだけどねー。ほら、さっき喫茶店のマスターに魔法を貰ったじゃん? なんていうかさーNPCがプレイヤーとほとんど変わらないっていうのは理解してたけど、お爺ちゃんの話とか……ほんとに生きてるんだなーって感じちゃったんだよね」


 「あはは、そう書いてあったのにねー」と、恥ずかしそうに苦笑するケートに、私はぽんぽんと頭を撫でる。

 私はプレイヤーとかNPCとかあんまり気にしてなかったから、あれだけど……。

 でも、ケートは優しいんだよね、結局。

 だから、プレイヤーとNPCがほとんど違わないって実感しちゃったから、NPCになにかがあったら、ケートは飛び出していっちゃうだろうなーって思う。


「でも、無茶はしないでほしいかなー?」


「ん? なにがー?」


「なんでもなーい。 ケートの髪は柔らかくていいですなー」


「ふっふっふ、リアルではもっとサラサラですぜ、奥さん」


 だれが奥さんよ。


「さてと、段々と暗くなってきちゃったし、降りて街の散策でもしよっか」


「はーい」


「まずは、ポーションなんかのアイテムの値段とか調べとかないとねー。チラッとは見たけど」


「あ、そうだケート。さっきの喫茶店のお金払って」


「うぐっ……すみませんでした」


 ケートからしっかりと、料金700リブラを回収したところで、私達は夕暮れに染まった街を散策することにしたのだった!



 そして結論。

 お金がいくらあっても足りない。


「回復ポーションの小さいやつがひとつ100リブラで10%……。10%ってことは、ほぼかすり傷くらいってことだから、実用的なのは普通サイズの30%。でも、それだとひとつ1,000リブラ……」


「小さいのを3個飲むのはダメなの? 回復量は一緒だよね?」


「あー、ダメなんだって。飲んでから2分くらい待たないと効果が出ないんだってさー。あと、単純にお腹がたぷたぷになる」


「……それは厳しい」


 そう、冒険の必需品であるポーションですら、実用的なのを買うと1個で初期金がなくなるのだ。

 もっといえば、今着てる布の服も……お店で買うと1,500リブラもする。

 うん、お金がない。


「こうやって考えると、さっきのケーキセットがめっちゃ高く感じる!」


「でも、1リブラ1円だとすると、まあ納得できる感じじゃない?」


「そーうーだーけーどー!」


 反論に同意しながらも、ケートはガクガクと私の肩をおお、うえぇ……。

 しばらくして解放された私がフラフラしてるのを尻目に、ケートは次々にアイテムを見ては「これはいる。こっちはまだいらない」と、厳選していた。

 とりあえず私は冷たい飲み物がほしい、です……ぅ。


「あの~、薬草、薬草を売ってくれませんか~。もしくは、ポーションとの交換でも大丈夫です~」


「ん?」


 私がお店の軒先で視界を落ち着けてると、そんなことを言いながら大通りを歩いていく女の子の姿が見えた。

 私と同じ布の服を着てるってことは、プレイヤーさんかな?ウェーブしてて長い緑色の髪をした、可愛らしい雰囲気の子で、身長はたぶん私達よりすこし低くて、カリンと同じくらい?


「ねえケート。変な子がいるー」


「んー? あー、薬草の買い取りかー。たぶんあの子【調合】のスキル持ちなんだろうねー。調合素材に薬草が必要なんじゃないかな?」


「なるほどー。でも今、薬草持ってないからダメだねー」


「いや、話しかけるだけ話しかけとこうかな。消耗品製作ができるプレイヤーとは、早めに知り合っておきたいし」


 言うが早いか、ケートはお店から飛び出していき、女の子の前へと立ちふさがって腕をワシャワシャと動かし始めた。

 いや、うん、身ぶり手振りも含めて話するのはいいんだけど……声が聞こえてなかったらただの変態さんにしか見えないよー?


「というわけで、連れてきた」


「あ、あの、調合見習いのミトです。これ、どういう状況なんですか?」


「私にも分からないよー。ケート、なんて説明したの?」


「ん? 君が欲しい。卑しい私めと一緒に、暫しの時間を……って」


 うわぁ……。


「ごめんね、変な人で。変な人だし、おかしいところもあるし、いろいろ変だけど、人なのは間違いないから安心してね」


「えへへ……照れる」


「褒めてないよー?」


 なぜか照れ始めたケートに疑問を抱いていると、連れてこられたミトがクスクスと笑い始めた。

 ケートの奇行がツボに入ったのかな?


「それで、ケート。連れてきてどうするの?」


「はい! 今は持ってないけど、ゲーム内明日に薬草をとってくるから、ポーションにして欲しいなって思ってます!」


「え、そうなの? まあ私は別に良いけど」


「うちの相方もこう言ってるので、どうっすかねミトの旦那」


 ええい、手をすりすりしながら詰め寄るな。

 ミトが怖がるでしょうが!


「え、えと大丈夫ですけど……いいんですか?」


「んー? なにがー?」


「私、まだ全然【調合】のレベルが高くないので、失敗しちゃうかも知れないですけど……」


「もんだいなーいよ! 私達としては、ポーション代を割くよりも物々交換の方が今はありがたいしね! まあ、薬草いくつで何個のポーションが出来るのかは分かってないんだけど、完成したポーションの内の何割か貰えれば!」


 ふふん、と胸を張って言いきったケートに、ミトは「でしたら、大丈夫です。こちらこそお願いします」と、笑ってくれる。

 相変わらずグイグイいくコミュニケーションだなぁ。


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 名前:セツナ

 所持金:3,530リブラ(+700)


 武器:初心者の刀


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】【蹴撃Lv.1】【カウンターLv.1】【蝶舞一刀Lv.1】

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