第10話 おいしい新魔法

 喫茶エルマンのケーキは、色とりどりのフルーツが乗り、さらに挟まれてもいて、キメ細やかなクリームとマッチし、すごく上品にまとまっていた。

 リンゴっぽい赤や、キウイのような黄緑、アクセントみたいに乗せられていたレモンなどなど……小さなケーキのなかに沢山の美味しさが詰め込まれていて、まるで宝石箱みたいだった。

 目の前で頬張るケートも、さっきまで緊張していたのが嘘みたいに、美味しそうに頬をとろけさせてる。


「おいし~い! ふへへへ」


「あ、ケート、鼻にクリームついてる」


「えっ」


「うごかないで……はい、とれた」


 ケートの鼻の頭についていたクリームを指で取って、はしたないけどペロッと舐めてみる。

 うん、甘くて美味しい。


「ん? ケート、どうしたの? 顔真っ赤だよ?」


「な、なな、なんでもない! おいしいなー!」


「……?」


 バタバタと手を振って、ミルクティーを飲んで、わざとらしく声をあげるケート。

 変な子だなー?


「そ、それより、セツナはなにかスキル増やせるようになってないの!?」


「え? んーと、習得可能スキルはー」


 「こんな感じー」と言いながら、ウィンドウを操作してケートに見えるようにする。

 そのウィンドウを覗き込んだケートは、「この中だったら、【蹴撃】しゅうげきと、【カウンター】がお勧めかなー?」と教えてくれた。


「なんとなく分かるけど、どういったスキルなの?」


「【蹴撃】は蹴り攻撃のスキルだよー。たぶんストーンゴーレムを蹴ってたから習得可能になったんだと思う。でも、これもしかすると攻撃以外にも効果がありそうなんだよねー」


「攻撃以外も?」


「うん。ほら、セツナって懐に飛び込む時に、地面を強く蹴って飛ぶでしょ? あれも強化されるんじゃないかなーって」


 そう言われてスキルの詳細を見てみると、『蹴りの効果があがる』としか書いてなかった。

 蹴りの効果……たしかに、ジャンプとかも全部蹴りではあるけど……。


「あと、【カウンター】は読んで字の如く! 相手の攻撃中や攻撃直後にダメージを与えると、威力があがるよ! セツナの場合は、避けて斬るとか、弾いて斬るとかが多いから、発動しやすいと思う」


「なるほどー。でもケート、私すっごく気になってるスキルがあるんだよねー」


「あー、わかるわかる。私も気になってるんだよねー」


「わかるー? この【蝶舞一刀】ってスキルなんだけどねー。なんと詳細がまったくわからないよねー」


 そう、選択してみても、スキル詳細には『刀、蝶のように舞う』しか書いてないのだ。

 刀を使って舞いを行う剣舞ってジャンルはあるけど、それに近いものなのかなー?


「まあ、取ってみたらいいんじゃないー? よく分かんないけど、装着スキルは10までいけるし」


「それもそっか。じゃあ、とりあえず【蹴撃】と【カウンター】。それに【蝶舞一刀】は取っとくね」


「うんうん! ちなみに私もスキル増やしたよー。ひとまず【火魔法】と【風魔法】。これは、他の元素魔法を取ってる人なら、他の魔法がレベル上がったら取れるようになるやつー。あとは【魔法連結】っていう、魔法と魔法を合体させて、変化を起こすスキルー」


 えっと……それって、どういうこと?


「簡単に言うと、土魔法の『ロックショット』に風魔法の『ウィンドブロー』を重ねて、もっと速度を増して飛ばせるようになったってことー。まあ、作って登録しておけば、すぐにやれるようになるんだけどねー」


「へー、便利だー」


「たぶんこれ、ほんとはもっと後に取れるスキルだと思うんだよね。杖の形状からみても、普通は魔法使い一人でひとつの魔法を発動って感じだろうし」


 そうなんだ?

 今のところケートしか見てないから、魔法使いは両手で魔法を打てるものだと思ってたけど……違うんだ?

 そんなことを考えていたとき、カウンターの向こうから「おや、そちらのお嬢さんは【魔法連結】を使える魔術師様でしたか」という、少し驚いたような声が響いてきた。


「は、はい!」


「ふふふ、お若いのに素晴らしい腕をお持ちなようですね。では是非、わたくしの祖父が使っていた魔法を使ってやってください」


 そう言って、ナイスミドルマスターは紐で縛られた紙のロールをケートに差し出した。

 ケートは顔を真っ赤にさせながらも「い、いいんですか?」と、わたわたしてる。

 ……ちょっとおもしろい。


「ええ、私には使えないものですから。是非」


「わかりました。ありがたく使わせていただきます!」


 ケートがロールを受け取ると、ロールは光になって、ケートの中に吸い込まれていった。

 ふぁ、ファンタジーだ!


「『クリエイトゴーレム』……? あの、これってどんな魔法なんですか?」


「土魔法と水魔法、そして火魔法を合わせることで作り出すゴーレムです。術者の意のままに動かせるため、祖父は一人で旅をするときの、頼もしい仲間だ、と言われてました」


「なるほど。壁役になるのかー。魔法イメージを変えれば、もしかすると攻撃にもいける……?」


「ふふ、是非がんばってくださいね」


「ありがとうございます!」


 楽しそうに微笑んだナイスミドルに、ケートはワクワクした顔でお礼を言って「そうと決まれば、いくぞー!」とお店を飛び出していった。

 私はそんな突然の奇行に驚きつつ、ケートの分もお金を払ってから後を追いかけるのだった。

 あとでお金は請求しよう。


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 名前:セツナ

 所持金:2,830リブラ(-1,400)


 武器:初心者の刀


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】【蹴撃Lv.1】【カウンターLv.1】【蝶舞一刀Lv.1】

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