side;沙和
今、私は翔に誘われて屋上へときている。決して浮かれてなどいない。ただ誘われたから来ているだけである。まあ、あの金髪のかわいこちゃんと食べなくてよかったのかなくらいは思っているけど?
ていうか変なもの、お弁当に入れてなかったよね?それもこれもあの泥棒猫が……。
おっとっと。後輩になんて言葉を。だめよ、駄目。
朝はいらいらしてたっていうのもあって、何をしていたか思い出せない。何をしていたっけ?
◆◆
「髪の毛、焦げちゃったし。最悪だぁ。ふつう知り合って、二日くらいで一緒に登校とかする?それも異性同士で……。そりゃさぁ、私が一緒に行きたいよぉ、なんていえば言ってくれるんだろうけど……」
私はなぜか二人分のお弁当を出してきて二人分のお米を詰めていた。
「いえるわけないじゃん!ベットの時だって勇気を出して誘ったのにさぁ?何なの。翔はあたしのこと本気で好きなの?」
そんなことを言いながらもずっと翔のことを考えている。わたしはのりを切りながら、どうすればアピールをできるかを考えていた。
私だって素直になろうと思えばなれるんだから。翔よ、ドキドキするが良い。年上のお姉さんを怒らすとこうなるのだ。
私は衝動的にのりをハートの形に切っていたのだった。それを白米の上にのせて……。
「ふふふ。これで、翔もイチコロだぁ!」
私は嬉しくぴょんぴょんとはねていた……。
◆◆
はずか死ぬ……!
え、え、え、まって。何してんの、私。全然、翔をイチコロじゃないよ。私が殺されてしまう。
ていうか、ハートののり弁を本人が見るところを一緒に見るってなんの地獄か。ダメだ。これは何とかして逃げなければ……。
そんなことを考えているうちに屋上が近づいてくる。そ、そうだ。図書委員だ。それを使えば、屋上から逃げ出せる。そう思ったのだ。でも、金髪ちゃんとこの後食べるかもしれないし、それよりも。
私と食べることを楽しみにしている、翔を傷つけるということは私的に絶対に嫌だ。そうこうしているうちについてしまった。
翔は屋上に一つだけ設置されたベンチへと向かう。景色はとてもきれいである。嬉しそうに私のことを待つ翔。あぁ、変わってないな。あの時から。
「急がなくても時間はたくさんあるって」
「いや、沙和ちゃんと過ごす時間は少ないんだ。少なくとも、別の学年の俺にとっては」
「それはそうなんだけどね」
私はすこしだけ翔と距離をとって座る。ハートの海苔を見られて、逃げ出したくなったときように。捕まえられないようにするためである。
「じゃあ、沙和ちゃんの愛妻弁当食べよっかな。楽しみだなぁ」
「愛妻じゃないわ。ていうか、そんな大したものではないからそんなに期待しないでよ」
いやいや、大したものではあるんだけどね……。なんていわれるのかな?乙女かよって馬鹿にされるかな。いつもクールぶってるしな。精一杯頑張ったんだから、どうせなら、ドキドキしてくれたらなんて……。
私は息をのんで見守った。お弁当のその行方を。翔がお弁当を開く。私のハートにどんな反応をするのかを。でも、そんなこと以前の問題だったのだ。
湿気によってしわしわになった謎の物体がその中にはあった。それはハートかすらもわからない。汚いまである。
「あはは、ね?ふつうだったでしょ?」
まぁ、どうせこんなもんだよね。私にヒロインは向いてないんだよ。島から出てきた田舎っ子だしさ。変に期待して最悪。
あぁ、翔に苦笑いなんてされたらなんていえばいいんだろうなぁ。うまく笑えるかな。笑えてるといいなあ。私は恐る恐る翔のほうを見てみた。
「沙和ちゃん……」
翔は私の作ったお弁当を見て、満面の笑みを浮かべた。今も変わらない子供の時のような笑みで。
「沙和ちゃんハートじゃん!うれしい!やっぱりかわいいな。沙和ちゃんは」
それだけ言うと、翔はまた美味しそうに再び食べ始めた。
「美味しいな、これ。沙和ちゃんの愛があふれているよ、うんうん」
おかしい。おかしなあ。嬉しくてたまらないはずなのに、泣き出してしまった。
そして私は絞り出すような声で言うのだった。
「なんで気づくのよぉ……あほ、あほ翔!」
「え、えぇ!?ちょっと泣いてる?もしかして俺がきもいこと言ったから?ごめん、ごめん!」
そういってあわあわする翔。そんな姿を見ていたらバカバカらしくなってきてわらってしまった。
笑い出した私を見て安心したんだろうか、翔は笑顔になって、私のことを抱き寄せた。いつもなら急いで抵抗に入るのだが今は少しだけ。
「昔はよくしてくれたよね。今は立場が逆になったけど」
そう言って私のことを包み込んだ。おっきくなったなぁ。ていうかさ、このままじゃ私……。
もう引き返せない。たまらなく翔が好きなんだ、私。
◆◆
星が欲しい。
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