第25話

俺がなにかに背中を押されるように、急いでドアに向かうと、青色の弁当袋を握った沙和ちゃんが立っていた。


「お弁当忘れてたから、届けに来てあげたよ。女の子といちゃつきながら、登校するのはいいんだけどさ、自分のすることはちゃんとして欲しいというか……」


そう言って、お弁当を突きつけるように渡してくる。少し怒った口調の沙和ちゃん。


「え、待って。俺、お弁当なんて作った覚えないんだけど。これってさもしかして……?」


沙和ちゃんは髪の毛の先をいじりながら、勿体ぶるように言うのだった。


「私の手作りだけど?そんな凝ってないからあんまり期待しないでね」

「いや、期待する!だって沙和ちゃんからの初の愛妻弁当だろ!嬉しくないわけない!」


俺がそう言うと、すぐに俺から後ずさりした沙和ちゃん。そして俺の事を蔑むように見てきた。


「愛妻っ!?本当に何言ってんの?これだから翔はモテないんだよ、変態だし」

「ちょっと待って……。俺の事モテないって言ってるけど、沙和ちゃんはモテてるの?」


俺がせっかく沙和ちゃんがとった距離を一気に詰めてみせる。目をグラグラ泳がせた沙和ちゃん。これはやましいことがあるのか!


「そりゃ、もうモテモテだよ。この学校の男は1回私を経験するというか?まぁ、彼氏はいないんですけどねぇ。作らないだけで……」


そう言って、ニヤニヤ笑って見せる沙和ちゃん。年上の余裕と言うやつを見せられた気分だ。ていうか、やっぱりモテるんだよなぁ。


「そりゃ、こんな可愛い子ほっとくわけないよなぁ……。早く俺のものにしたい……」


ん?俺が沙和ちゃんのことを眺めて思っていたことがもしかして口に出てたのか。まぁ事実だし仕方ないか。


俺が自分で自分の失言に納得していると、俺の前で狼狽えている、経験豊富なお姉さんがいた。


「え、あ、あぅ、は?」

「待って、ごめん。思っていることが口に出てた」


俺がそう言うと、ミッキーのように「ハッハッハ!」と奇妙な笑い方をした沙和ちゃんが小さい声でなにか呟いてからどこかに行ってしまった。



「……私が年上なのに」


そう呟いて私は敗走した。嘘までついて保った年上のプライドはあっけなく、翔によって砕かれてしまった。


影から見ていたバスケ部女子たちが話しかけてくる。


「姉御!ちゃんとお昼ご飯誘えたんですか?」


嬉しそうに近寄ってくる、思春期女子。やめてくれ、私が惨めに思えるじゃない。


「ん?私から誘うなんてやっぱり違うなぁって思ったんだよ。誘ってくるの待ってやるっていうか?そもそもどうでもいいし、そんなこと」

「ほかの女と食べるかもですよ?」


誰かが沙和ちゃんに、意地悪な言葉を投げかける。これはラブコメ脳の女子が発してしまう悪魔のささやき。


「そんなの余裕だし!!余裕だし……」

「姉御……。応援します!!」


少し丸くなってしまった背中の沙和ちゃんに、ついて行くバスケ部が一年の廊下で目撃されたのだった。


◆◆

星が欲しい



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