第20話

「ほら、おいで」


そう言って沙和ちゃんは両手を広げた。俺の事を誘うように。


俺は頭を空っぽにして飛び込みたいと思った。仕方ないだろう。ベットに座った好きな子から、おいでなんて言われてまともに入れる男はいるか?答えは否。


それでも俺は我慢しなきゃいけないんだ。


「沙和ちゃん……ごめん」


俺は駄々っ子のようなことを言うと、寝室から飛び出していた。なんで逃げたんだって?それはそうだろう。


さっきまで拒んでいた女の子から手のひらを返されて何も無いわけないじゃないか!あれは罠だ。俺の事を手のひらで、転がそうとしているのだっ!


「危ないところだった……」


俺は深呼吸をして、気持ちを整えていった。俺が沙和ちゃんを落とすのだ。落とされてはいけない。服従するまで俺に恋してもらおう。


「へええぇ……ぐへへへっ」


気持ち悪い妄想をして、気持ち悪い声を漏らしながら笑った。


♣♣

一方その頃、寝室では戸惑う乙女が1人ポツンと座っていた。どんどん顔が赤くなるのを感じる。


「あ、あれ?あれぇええええ!?」


私は両手を広げたまま叫んでいた。


……恥ずかしい。恥ずかしいよぉ!あんなお姉さんぶって、失敗して!それに年下の子に謝らせて。え、なんなの?翔は思わせぶりなの?普通は抱きしめに来るんじゃないの?


「もう、やだぁぁぁあ……」


私は枕に顔を押し込むと弱音を吐いた。ベットで一緒に寝るなんてヤバいに決まってるよ。それに私が拒んだらあんなに悲しそうな顔をして……。


それで下手に出てやったら拒んでさぁ……。


「どうすればいいのよぉ……」


なんであんなガキンチョ相手にこんなモヤモヤしなきゃいけないの……。まず翔のことなんか興味無いし。なのになんであんなことを言っちゃったのよ。中学生の私。


「大きくなったらえっちなことでも何でもしてあげるなんて……。それに忘れないでなんて言っちゃって」


恋する乙女かよ……。いや乙女だったんだけどさぁ。あの時はそりゃ好きだったよ。認めますよ。

でもあれは一瞬の気の迷いで。ずっと一緒にいたから、離れたくないと思ったから言っちゃっただけ。


「……もう分からないし、知らない!あんなチャラ男で、女たらしで、ガキンチョな翔は好きじゃないの!決定!」


勢い任せに枕をパンチしておいた。少しへこんでしまった枕に顔を埋めてまた思ってしまうのだった。


翔は本当に私の事好きなのかなぁ……。


♣♣

恋する乙女ですねぇ……!?

星が欲しい。

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