第14話 突然の来訪者
あれから一体どのくらいの時間がたったのだろうか。
下校中玲は何も言わなかった。対する僕も何も言わない。
無言でただ手をつなぎながら一緒に歩くだけ。
それだけなのに、僕にとってはとても幸福な時間で、満たされた時間で、心が落ち着く時間だった。
そして今の僕の隣に彼女の姿はない。
いつもなら学校終わりにそのまま僕の家による彼女だが、今日は何故か遊びに来ずに、自身の家へと帰ってしまった。
その事に一抹の寂しさを感じるのと同時に、つい先ほどまで繋いでいたこの手に残る温もりは、僕の中でより玲を愛しく思う感情を加速させる。
「し・ん・や・く・ん、あ・そ・び・ま・しょ・?」
そんな僕の余韻をぶち壊すように、扉の向こうから唐突に女性の声が聞こえてきた。
声の主は僕の母親でもなく、まして玲では断じてない。
第一、今僕の両親は、仕事で海外出張中で、自宅には僕一人しかいない
そんな状況下で僕の家に侵入できて、玲以外の人物となると選択肢は、おのずと一つになる。
「はぁ……どうぞ。雛菊さん」
「あは。わかっちゃった?」
扉からひょこりと姿を現したのは、玲の家のメイドである守谷雛菊である。
僕は正直この人があまり得意ではない。
何せ彼女は会うたびに僕の身体をべたべた触れてくるのだ。
一応それが彼女なりの好意からくるものだとはわかるのだが、その触り方がどことなくいやらしくて、僕はそれが嫌だった。
「一体何の用ですか? 玲なら来てませんよ」
仏頂面でそういう僕に対して、雛菊さんは対照的に凄くニコニコしていて、とても嬉しそうだ。
「そんなの知ってますよ~玲様は今自室で一人自分を……おっと、これ以上は言えませんね」
人の事をおちょくる様なその態度に少しイラっとした僕は、知らず知らずのうちに眉間にしわが寄っていく。
「それで一体何の用なんですか?」
「ああ、それは深夜君が一人で寂しいだろうから遊びに来ちゃいました」
舌を可愛らしく出してテヘッという彼女。顔立ちはかなり整っているので、素直に可愛いと思ってしまう自分が悔しい。
「そんな事してていいんですか? 仕事はどうしたんですか、仕事は」
「え? 仕事? 何それ?」
「それマジで言ってます?」
「あは。冗談ですよ。もう深夜君のま・じ・め・さ・ん」
うわぁ……なんだろう。この感情。今すぐこの人の顔面殴りてぇ……
「第一、私は今仕事をしてますよ!! 一人寂しい深夜君を慰めるという大事な仕事が!!」
胸を張って自信満々に言っているところ、大変恐縮なのですが、そんな仕事今すぐ止めてしまえと言いたい。
「いや、貴方の仕事は玲のお世話をすることでしょう。断じて僕の世話をすることでは決して……」
「まあまあ、別にいいじゃないですか。それよりも深夜君、何かしたいことないですか?」
「したいこと……?」
別に僕がしたいことは特にない。強いているなら、明日も学校があるので、早く寝て明日に備えることくらい……
「例えばリアルなメイドさんに性的ご奉仕してもらいたいとか」
「そんな欲あるわけないでしょう。頭腐ってるんですか」
「えぇ……でもメイド服に興味あるんですよね?」
どうしてこの人がそれを知っている!? もしかして玲が話したのか?
いや、ないな。それは絶対ない。少なくとも玲が誰かに話しても、この人に話すことだけは絶対にないな。
「いいんですよ? 私の事好きにして」
雛菊さんはそう言ってスカートをたくし上げ、太ももと黒のガーターベルトを見せながらこちらを誘惑しているような素振りを見せる。
「へぇ……メイド服ってこういう作りなんですね」
「あれれ? 深夜君もしかして今物凄い冷静?」
「ええ、まあ」
確かにメイド服も好きだし、そこにガーターベルトがついているデザインのは非常にエロいとは思うのだが、この人がやっても別に何とも思わない。
僕だって相手を選ぶ権利はある。
「う~ん。じゃあこれは?」
そう言ってさらにスカートをあげ、純白のパンツが大胆にもお目見えするがそれでも僕の心は動じない。
それどころか、余計冷静になっていた。
「雛菊さん。はしたないですよ」
「えぇ~私としてはもっと見て欲しいのに~」
この人は痴女なのだろうか?
嫌そうな顔な僕に、彼女は意地になっているのか、より見えやすいポージングを意識して大胆にも見せてくる。
「ほら、ほら。もっと、見て!! なんなら触ってもいいよ!!」
「ちょ、距離が近いですって……」
ぐいぐいと僕に体に密着させてくるせいか、彼女の胸が僕に自然と当たっている。
「いや、触らないですし、あと胸当てないでください。邪魔です」
「どう? どう? 私の胸の感触? 気持ちいい?」
男に普通それを聞くか。いや、まあ気持ちいいか気持ちよくないかで言えば気持ちいけれど。
そんな事馬鹿正直に答える義理はないし、だんだん疲れてきた。
ああ、玲に会いたいなぁ……
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