第9話 玲とメイド

SIDE:玲


ーー深夜の趣味や傾向はわかった、後はどう行動に移すかね……


 自室で私は、先ほどの出来事を思い返していた。


 私のとった手段はかなり強引な手段で、内心かなり申し訳ないことをしたと思ってはいる。


 ただああいう手法を取らねば深夜は頑なに口を開こうとしないので、私としてもやむをえない為に使った手段であると言える。


「それにしてもまさか深夜が競泳水着好きだとは思わなかったわ……」


 私はこのことに、珍しく……というか生まれて初めて頭を悩ませていた。


 私は水泳部員ではないので当然競泳水着など持っていないし、一言に競泳水着といっても様々なタイプがある。


 その中で一体深夜がどういったタイプのものが好きなのかまでは、どんなに泣き落としをしても深夜は「これだけは譲れない」と頑なに教えてくれなかったのだ。


 深夜への詰問……もといお願いは、ただ悩みの種を増やしただけでなく、収穫も私にもたらした。


 その収穫というのは、深夜が女性のどういった部分に魅力を感じるかだ。


 私の見立てでは、深夜はどうやら女性の胸に魅力をあまり感じておらず、太ももやお尻といったそういう部分にフェチズムを感じている。


 どうしてそれがわかるかといえば、もし深夜が胸に興味があるのならば、競泳水着ではなく、もっと別のもの……それこそ水着でいうならビキニが好きであると言うのが普通だからである。


ーーなんだか複雑な気持ちね


 私は自身の胸を見る。そこには推定Fは軽く超えるであろう大きな胸が大きな存在感を放っていた。


 普通大きな胸というのは男性を魅了する上でこの上ないアドバンテージを誇り、かくいう私も自身の胸がここまで大きく育ってくれたことを嬉しく思っていた。


 それは偏に深夜を魅了する上で有利に働く、そう思っていたが故だったのだが、どうやら現実はその反対。胸は小さいほうが深夜を魅了する上では有利であったようだ。


 不幸中の幸いといえるのは、太ももやお尻の肉付きも日ごろからランニングをしているおかげかかなり引き締まっている点である。


「玲様」


 そう私に呼びかけた主は、サファイアを思わせる美しい青の瞳に、月光に欲映える純白の髪を黒のリボンで一つに束ねた、まだ少女の幼さを残していながらも少しずつ大人へと変わっていくそんなあどけなさを残した端正な顔立ちをした女性であった。


 私はこの女性をよく知っている。


 彼女の名前は、守谷雛菊もりやひなぎく。私の家で雇っている私専属のメイドだ。


 どうして私の家にメイドがいるかといえば、私の家が裕福なのもあるが、もっと複雑な事情がそこには存在している。


 ただそんなことは、今はどうでもいいだろう。


「雛菊。何か用かしら?」

「玲様がお困りの様子でしたので、何かお役立てできないかと思いまして」


 胡散臭い笑みを浮かべながら雛菊はこちらに一礼して見せる。


ーー絶対何かよからぬことを考えている


 私は雛菊の事を思に仕事の面から信頼はしているが、彼女の人間性的な側面から見て信用は決してしていない。


 それが例え昔からの付き合いで、深夜に匹敵する長さの時を共に過ごしているとしてもだ。


「結構です。第一、なんですかそのしゃべり方。気持ち悪い」


 普段の雛菊は今よりも圧倒的にフランクな喋り方をする。


 一応私の事は、主人なわけなので、様づけはするものの、そこに尊敬の念は一切なく、あるのは彼女なりの親愛のみ。


「む、気持ち悪いとは失礼ですね。これでも私は玲様の事を主として尊敬しているというのに……雛菊は悲しゅうございます。ヨヨヨ……」

「全くいつの時代にそんな泣き方をする人がいると思っているの?」

「流石玲様。私程度の嘘泣きでは全然聞いてくれませんね」


 当たり前である。第一、私はコイツが泣こうが喚こうが知ったことではない。


「これがだったらきっと私のこと本気で慰めてくれるのにな~」

「ちょっと気安く深夜の名前を呼ばないで。殺すわよ」


 私は語気を強め、そう威嚇するが、そんな私の様子に雛菊は全くひるまない。


 それどこころか、ケタケタ不気味に笑っている。


「ええ~いいじゃないですか。私だって彼とはなわけなんだし~」

「誰と誰が幼馴染ですって?」

「だから私と深夜君ですよ。だって私が彼と初めて会ったのが7歳の頃だったわけで、そこからずっと関係は続いているわけですし、もうこれは完璧に幼馴染でしょう?」


 理論上確かに、こいつと深夜は幼馴染といってもいいかもしれない。


 ただしそれは私が絶対に認めない。彼の幼馴染は。それ以外の幼馴染なんて絶対に認めない。


「そもそも貴方が深夜と会えたのは、私のおかげでしょう?」


 私の唯一にして、最大の失敗であり、汚点はこのメイドを深夜に紹介したことだ。


 まあその頃の私は深夜の事は、異性として全く興味がなかったので仕方がないことではあるのだが、あるのだが、失敗は失敗なのだ。


「確かに玲様のおかげかもしれませんが、それはそれ。これはこれということで」


 そうやってすぐに論点をずらそうとするのは、このメイドの特徴だ。


 こうやって話をうやむやのぐちゃぐちゃにしるのが、コイツは大好きなのである。


 本当、いい性格していると思う・


「まあいいわ。深夜の事が好きじゃないなら」


 私にとって一番大事なのはここだ。


 私以外の女性と深夜が結ばれるのは絶対に嫌だが、その中でも雛菊だけは別格。


 コイツだけは絶対に深夜と結ばれてはいけない。


 コイツは、絶対に深夜を不幸にする。


 仮にそんな事態になったらその時は私が殺るしかない。


「いえ、普通に彼の事好きですよ?」

「は?」

「だから私は深夜君の事好きですよ?」

「それはどういう意味で?」

「そんなの決まってるじゃないですか」


 ここで幼馴染として好きなら百歩譲って許してやろう。だがもう一つの選択肢を言ってみろ。その時は……


「勿論男の子としてに決まってるじゃないですか」

「ぶっ殺す」

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