アンドロイドメイドのアリアさんは興味津々

魚谷

ACT00 起動

 僕の視線の先で、腰まで届く銀色の髪の女性がベッドで横になっている。

 透き通った肌に整えられた柳眉、通った鼻筋に、色づく唇。

 身につけた衣服は、無味乾燥な白いワンピース。

 彼女は僕が造ったアンドロイド。

 彼女の身体のあちこちにはケーブルが伸び、そのケーブルはさまざまな機器に繋がっている。

 一つ一つ、計器のスイッチを入れる。

 重低音が室内に響くと同時に、計器類が器に命の灯火がともっていくのを伝える。

 脳波は安定、身体の機構に異常なし。


 僕は、固唾を呑んで彼女が目覚めるのを待つ。

「――――……」


 やがてアーモンドのように円らな瞳を開け、彼女が目覚める。

 南の海を思わせる青い瞳。

 何度かまばたきをして、室内を見回す。


「……おはよう、調子はどう? 身体は動かせる? 僕の言葉が聞こえるなら、右手を挙げて」


 僕が言えば、彼女は右手を挙げた。

 それから自分の手を閉じたり、開いたりを繰り返してからゆっくりと上体を起こすと、僕を見る。

 僕はいくつもあるディスプレイのうちの一つを、手元にたぐり寄せる。

 そのディスプレイは、彼女の視神経と連動して、彼女が何を見ているかが分かる。

 しっかりと僕を認識している。


「……あなたは、誰ですか?」

 鈴を転がすような、涼やかな声。

「キミのマスターだよ」

「ます、たー?」

「僕が君を造った。君は自分が何者か、分かる?」


 女性は目を閉じると、桜色の可憐な唇が動く。


「PMS24-2203」

「それは君の型番。でもさすがに型番で呼び続けるのは不便だから、君に名前をつけたいと思うんだけど…………うーん、結局決めきれなくて……。だから君の名前は、君自身に決めて貰おうかなって」


 僕はノートを開く。

 ノートの見開きページには、最後の最後まで迷った名前の候補が書かれている。

 それを彼女に見せ、反応を見る。

 幾つかの候補を見せれば、彼女の手がそっと動き、めくれそうになるページを指先で押す。


「これ? よし、分かった。これだね。何て書いてあるかは読める?」

「ア、リア……」

「これからよろしく、アリア」

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