繋がる異世界、やって来たダークエルフと次期魔王!?

積木仮面

第1話 ある世界にて

 ある世界。

 辺りを毒沼や森林に囲まれた威厳のある城。

 「魔王城」と呼ばれるその城内にて。

 窓から光が差す廊下で角を生やした大男と下半身が蛇のような少女が向かい合っていた。


「父上! 妾も残って戦う訳にはいかぬのか!?」

「ジャドクナ、お前は生き延びねばならんのだ。我亡き後の次期魔王として」


 声を荒らげるジャドクナと呼ばれた少女に対して、少女から父と呼ばれた大男……この世界の魔族と呼ばれるものを率いる魔王は冷静な様子で言葉を返す。


「そんな……それでは死ぬ前提ではないですか!」

「我とて死ぬつもりは無い。だがこの戦、どれだけの被害が出るか……」


 そう言いながら魔王は窓の外に視線を向ける。

 その視線の先には、眩い光を放つ巨大な柱が遠くに見えていた。


「あの様子だと戦神の召喚も近いか……こちらも魔神を早く召喚せねば」

「ヒト勢力の切り札の戦神。そして、妾達の……魔族の切り札である魔神。父上、本当にその2つをぶつけねばならんのか?」


 少し落ち着きを取り戻したジャドクナは魔王たる父にそう問う。


「あちらがその気であれば仕方のないことであろう。それに魔神の投入は以前から考えていた事だ。ここ1000年程前から続く、ヒト勢力による異なる世界からの戦力の召喚……これは我々魔族も行ってきた事ではあるが、それを続けてきたことによってこの世界は荒れ果ててきている。そして、何より我々がこちらに召喚することによって、あちら側の世界から無理矢理連れて来られる者を無くすためにも……ここでヒト勢力との決着をつけねばならぬのだ」


 と、静かに拳を握りしめながら魔王は力強い口調で答えた。

 それに対し彼女は、腕を組んで少し考えた様子を見せたのち、その口を開いた。


「父上、確かにその通りではあるが……重要な局面であるならば、妾の力も必要じゃろう!?」

「この局面であるからこそ、お前にはお前の役目がある」

「妾の役割……しかし、妾は」


 彼女が魔王に迫りながら反論しようとしたその時。


「失礼いたします魔王様。魔神の召喚と、まだ完全とはいえませんが例の転移術の準備が完了しました」


 頭に布を深く被った白いローブの男が彼女の背後から突如として現れて一礼すると、魔王にそう報告を入れた。


「準備はできたようだな……ジャドクナ、話はここまでだ。もう後戻りはできぬ」

「父上!」


 魔王はジャドクナを無視してローブの男について行き、それを彼女も追っていった。  





 しばらくして3人は、床に巨大な薄く光る魔法陣が描かれた大広間にたどり着いた。


「この魔法陣は一体……」

「これはお前をあちら側に飛ばすためのものだ」


 ジャドクナが魔法陣の中心付近に行ったことを確認した魔王はそう言うと、そこに向けて腕を伸ばす。


「なっ……! 父上、何を!?」


 彼女がそれに気づくも既に遅く、魔王の放った拘束魔法で身動きを封じられてしまった。


「許せ、ジャドクナ……転移術を起動せよ」

「はっ」


 魔王の指示でローブの男が床の魔法陣に手を当てると、それの輝きが増し始める。


「父上……!」

「お前はあちら側で生きよ。念のため、彼も共に行ってもらうことにした」


 その言葉を聞き、天井から魔法陣の中心。ジャドクナの隣に何者かが飛び降りてきた。


「スチャッと! 魔王様! ドクナ様のことはお任せください!」

「お、お前はハル!?」


 その方を見て驚く彼女にハルと呼ばれたのは褐色で長耳の人物。

 魔王には彼と呼ばれていたが、その容姿はとても中性的で女性に近い。


「彼の実力は、場合によっては我が直属の部下達にも匹敵する程だ。それに昔からのお前との関係もある。きっとお前達ならばうまくやっていけるだろう」

「待て! ハルは確かに昔からの付き合いだが部外者じゃろう!?」

「それについては問題無いですよ、ドクナ様! 魔王様が特別に魔族軍に加入させてくれましたから!」

「はぁ!?」


 彼女がハルに呆気にとられている間に魔法陣の輝きがさらに増していく。

 そして、白ローブの男が床から手を放し、立ち上がる。


「魔王様。準備が完全に終了いたしました」


 その報告を受けると魔王は、魔法陣の中心から距離を取った。


「ジャドクナ、ハル。どうか無事でな……」

「父上、妾は……!」


 転移術の発動が近づいていることにジャドクナは気づき、魔王の方に視線を向ける。

 しかし、もう転移対象者である2人の視界は光で満ち始めており、彼女達の視界では魔王の姿が徐々におぼろげになっていった。

 そのまま2人の視界は光で完全に覆われ、その意識は魔王城の上空に昇り始めた。

 彼女がぼんやりとした意識の中で最後に見たものは、魔王城から現れた2本の角と大きな翼を背中に持つ巨大な魔神と、それと対峙する光り輝く甲冑姿の戦神。それらの姿だった。





 世界は変わり、地球と呼ばれる星。

 西暦2030年。

 星連邦日本地区、中央都市第8区の一軒家。

 その庭の中に突如、強い光とともに魔法陣が展開された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る