部屋のなか

Take_Mikuru

部屋のなか

部屋の中には何もない。

家具もなく、人もない。

あるのは俺の体だけ。

エアコンくらいは欲しかったな。

でもそれも持っていかれてしまった。

誰だか分からないけど、

今朝起きたらオジサンが2人いて、

部屋中のモノを根こそぎ持っていかれてしまった。

辛うじてスマホがあるから何とかなっているものの、この先どうしようかが不安だ。

あ~、あと財布もあるから一応は何とかなる。

最悪一式買いなおせばいいだけの話だ。

それにしてもあのオッサン2人組は一体何だったんだろう。俺に特別何か言う訳でもなく、暴力の類を振るう訳でもなく、能面のような顔で黙々と家具一式を運び出すと丁寧に頭を下げて部屋を出て行った。あんなことあんのか。ぶっちゃけあまりにも丁寧だったから「ありがとうございました!」って俺も頭を下げちまった。俺が無意識に引っ越し業者を頼んでたのかもしれないな~って思って。でもやはりそのような記録は一切なく、真実は謎に包まれたままだ。一旦実家に戻ろうかとも考えたが、それもそれで嫌だなと思って今に至る。クソ蒸し暑い部屋で12時間。俺はただただ座ってオナニーをしている。スマホを持っていかれなくて本っ当に良かった。それすらなかったらいよいよ死んでたかもしれない。オナニーくらいしかやることないからな最近は。想像力が圧倒的に欠如してることから妄想オナニーも出来ず、朝から晩まで動画オナニー三昧だ。うん?全くもって楽しくない。動画も見過ぎると興奮しなくなっちまう。おそらく週1くらいで見るのが一番いいのだろう。週1だとあまりの刺激に自然と脳が発情し、ちんこもすぐにおっ立ってくれる。まぁ、こんなことはどうでもいいのだがな。

16度目のオナニーを終え、口を大きく開いた亀頭をチュッとしてから俺は立ちあがった。もう夜の10時を回っている。今日は何も口にしていない。腹が減ったから飯でも食いに行こうかと思う。でもここでまた1つ問題が。ダブルオッサンズに家の鍵まで奪われているのだ。もう本当に参っちゃうよ。まあ、別に部屋に何もないから鍵を開けっぱで出て行っても大して問題はないのだが、、、

そっか、ならそのまま出てしまおう。


外に出ると空気が暑くて重い。そのまま部屋の中に押し戻されそうなくらいの重量感に反吐が出た。今年の夏も何故ここまで気温が上がってしまったのだろう。毎年1,2度ずつ気温が上昇している気がする。地球温暖化とやらは遂に本気を出してきたらしい。学生の頃は正直そんな現象信じていなかったが、ここまで来るとその脅威に怯える他ない。本当にこのままどうなってしまうのだろう。

カタッ

うん?隣を見ると、隣のクソババァが俺のことを死んだ顔で見ている。チリチリな髪がボサボサに立ち上がっており、目は白目を剥いている。黒目はどこに行ったんだ。もしかしてダブルオッサンズに持っていかれたのだろうか。

「、、、あ、、、」

うん?何か声を発しているぞ。

「、、お、、、、おっ」

気持ちわりぃな。チリチリ頭の白目ババァに見つめられるのは決して気持ちよくない。これなら動画に出て来るエロババァの方がまだマシかもしれない。

「あ、あ、おじ、オジサンズ」

「え?」

聞き覚えのあるワードについ反応してしまった。

「だ、だから、オジサンズ、ふたり、きょう」

「オジサンズって、あの2人組のことか?」

するとクソババァの黒目が戻った。

「オッメェ、ババァにタメ語使ってんじゃねぇぞコッラァ!」

なかなか威勢のいいおば様じゃねぇか。

「あ、すみません、失礼いたしました」

俺は首に手をやり、頭を下げて見せた。

おば様は満足げに、

「おお、まぁ分かりゃあいいんだよ、ほれ、アメちゃんいる?」

機嫌を良くしたババァはきったねぇバラの載ったショートパンツから裸の飴玉を取り出して俺に差し出してきた。

「ああ、いやぁ~、ちょっと流石に裸はぁ~」

精一杯柔らかく伝えてみたのだが、再びババァは白目を剥いた。

「は、ハダカ、ダメ、ワタシ、ハダカ、ダメ」

急に日本語が出来なくなり、ババァは前を向いて、2秒に一歩踏み出すくらいのペースで歩き去って行った。

変なババァもいるもんだ。そして結局、黒目を奪われた訳ではなさそうだった。傷ついてるだけなのかもしれないな。俺がババァの裸を見たくないって勘違いして白目剝きやがったし。結局、ただの寂しいオバチャマなのかもなぁ~。

って考えてると俺まで寂しくなってきた。

俺も一人でこんなオンボロアパートに住んでいる。

彼女なし。

女友達なし。

そもそも友達なし。

おまけに職なしだ。

そして今日部屋中の家具を全て2人の毛もくじゃらのオジサンズに持ってかれてしまった。

うん?ちょっと待てよ。

俺ヤチン払ってないぞ?

あん?もしかして退去なのか?

俺、今日で強制退去なのか?

「シジミガワさ~ん」

急に後ろから優しい声で呼ばれ、何か嬉しくなって笑顔で振り向いてしまった。

「ハイ!」

するとそこにはうちの大家さんが笑顔で立っていた。

「シジミガワさ~ん、大分遅かったですね~」

何を言われているのか分からずキョトンとしていると、

「いやいや、誤魔化しはきかないですよ~」

大家さんは優しそうに笑っているものの、目の奥がメチェメチャどす黒い気がして、わりと本気でちびりそうになってしまった。

「あの、すみません、これって一体何のお話しなのでしょうか?」

「おいおい~、シジミガワさ~ん、そりゃないぜ~」

「いやあの本当によく分からないんですけど?、、、」

本気で不安になってきて、少々涙ぐみながら大家さんを見つめていると、大家さんは大きく溜息をついて言った。

「記念パーティーですよ~」

「記念?何のですか?」

大家さんはふとバカにするように笑ってから俺の目をしっかりと見つめて言った。

「俺とお前のウェディングだろぉ!!!!!」


辺りを見回すと、

確かにここはアパートではなく、結婚式場に隣接している宿泊施設のようだ。

今朝のオジサンズ達は単に俺の新居、あ、俺たちのって言った方がいいのか、

俺たちの新居に運ぶために俺の荷物を取りに来ただけだったようだ。

そしてさっきのクソババァは俺のハニーのお母さんだったようだ。

ただ単に俺たちの結婚が信じられず、白目を剥いてただけだったのか。

なんだ、もう何もかもがバカらしく思えてきたぜ。


俺のハニー、大家陸翔(ダイケ リクト)とは大学の頃に出会い、

こっそりと付き合い出したんだった。

この結婚はこの田舎町の同性婚第一号だったんだ。

俺も陸翔も緊張で昨日から一睡も出来ていない。

セックスしても眠れなかったぜ。

だからお互い個室でオナニーしまくって寝ようってことにしたんだった。

職人の陸翔はすぐに寝れたようだが、素人の俺には大分難しいタスクだった。


まぁ、

と諸々のことはさておき、

これから遂に念願の結婚式だ!

胸をウキウキさせながら陸翔に近寄ると、

俺らは思いっきり舌を絡めながらネット~リあっつ~いキスを交わした。


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