窓の向こうの女の子
「怖い話、かぁ。……あ! そうだ。
あのね、怖くはないんだけど……」
そう言うと、Iさんは小学校の頃の奇妙な体験談を聞かせてくれました。
『窓の向こうの女の子』
小さい頃、身体が弱かったわたしはその日、体育の授業中に貧血で倒れた。先生に担がれ、保健室に運ばれて、その日は放課後まで――体育が5限目だったんだけどね――休むことになったんだ。
保健室には、わたし以外の生徒は誰も居なかった。
保健室の先生は5つ並んだベットを指差して「好きなベットを使っていいよ」とは言ったけど、流石に真ん中から使うのはちょっと……。なんて考えてから、端っこの、一番窓際のベットを選んだ。
横になると、貧血特有の微睡みにも似た倦怠感が押し寄せてきて、おまけに頭痛まで激しくなりだした。眠れそうにはなかったけど取り敢えず、目を閉じていたんだ。
……気付いたらいつの間にか眠ってた。
身体を起こして保健室を見回すと、先生は何処かへ行ってしまったみたいだった。時計を見るとまだ6限目の途中ぐらいだったから、倦怠感や頭痛は無くなっていたけれど、わたしはまたベットに横になった。
――具合悪いの?
声がしてわたしは跳ね起きた。
窓の磨りガラスの向こうに人の輪郭が見える。ぼやけていて、はっきりとは見えなかったけれど、女の子が窓の向こうから話しかけてきたんだ。
――怪我でもした?
――うぅん。貧血で倒れちゃった
わたしはそう答えた。女の子は少しほっ、としたように見えた。
――大丈夫? 辛くない?
――大丈夫だよ
クラスメイトかな?
でもなんでわざわざ窓から?
それに今は授業中のはずじゃ……。
わたしは窓のクレセント錠に手を掛けた。女の子の顔が見たかったから。……でも。
――開けないで
女の子はそう言った。
理由は話してくれなかったけれど、どうやら見られたくないらしい。
――このままで、お話しようよ
わたしは女の子とお喋りして過ごした。学校のこととか、友達のこととかそんな他愛のない話。誰なのだろう、という疑問はお喋りしている間にどこかに消えてしまっていた。
そして、授業終了のチャイムが鳴った。
――じゃあ、元気でね
わたしが呼び止める間もなく、そう言って窓の向こうの、ぼんやりとした女の子は去って行った。
※※※
「その子の名前すら教えて貰えなかったんだけど、結局誰だったのかなぁ……って。不思議でしょ?」
私は少し気になったことを、Iさんに質問しました。
「保健室があるところ? うーん。学校の前は墓地だったー、とかはまぁ、あったけど。幽霊とかじゃないと思うけ……え? そういうことじゃなくて?
その保健室が何階にあったって?」
そこで、Iさんの顔は一気に青ざめました。
「……二階だった」
犯匣 やしぬぎ もか @lattemocha
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