高宮 翠 女装慣れ計画

第1話 計画……始動?




 とある住宅街の一室で――


 蓮華はカタカタ、カチカチとキーボードとマウスの音が響かせていた。

 画面には先日撮った動画。

 その動画を編集し、より良くしていく。


 そして、編集作業が区切りのいいところまで進んだところで。


「んー、疲れたぁ……」


 蓮華は椅子に寄りかかり両手を上に伸ばした。

 酷使していた腕が伸び、固まった筋肉がほぐれていく。

 その心地よさに声を漏らせば編集の疲れも少しずつ抜けていく気がして。


「よーし、あと一息!」


 気合を入れなおして再び編集画面に目を向けて。


「頑張ろう!」


 残りの作業を終わらせるべくマウスを握り締めたその時だった。


 ピコン!


「おっ?」


 不意に画面の端に現れた一つの通知。

 そのままその通知を開くと、それはよく使っているSNSからのメールで。


「もしかして……」


 蓮華はすぐに内容に目を通す。

 すると、その内容は待ちに待っていたものだった。


「来たぁっ!!」


 目を輝かせた蓮華は飛びつくようにメールのリンクを開く。

 そして送り主からのメッセージを開けば、そこには丁寧な文章でこう綴られていた。



『チケットの件ですが、三枚は確保できました。ですが、これ以上は難しいと思います』


 送り主の性格が分かるような丁寧な文章。

 そこには蓮華が心待ちにしていた言葉が書かれていて。


「やったぁっ!」


 テンションが上がった蓮華はガッツポーズ。


『ありがとうございます! 十分です!』


 すぐに返事を送る。

 すると、相手もまだ開いていたようだ。すぐに返事が返ってきた。


『いえ、気にしないでください。恭ちゃんの頼みでしたので私も嬉しかったです。彼はなかなか私に頼みごとをしてくれないので』


『すいません。脱線してしまいましたね……チケットは恭ちゃんに渡しておきます』


『他にも何かあればご連絡ください。できる限りの事はいたしますので』


 次々とメッセージが流れていく。

 そこには、蓮華の想い人の親友について書かれていて。

 

「愛されてるなぁ……」


 ポツリと。

 短いながらも送られてきたメッセージにはそんな彼への想いが伝わってきて……


 思わず蓮華は苦笑しながらメッセージを眺めてしまった。

 とはいえ、そのまま眺めている訳にはいかず蓮華もキーボードを叩き始めて。


『ありがとう! とりあえずは大丈夫だと思う。じゃあ、会うのは当日だね』


『そうですね。楽しみにしています』


『私も! 会った時は「初めまして」でいいのかな? 少し変な感じだけどww』


『確かにそうですね。 「久しぶり」も変な感じですし……』


「ふふふっ!」


 まだ会ったこともないのにね。

 そう思いながらも、気兼ねないやり取りに思わず笑みがこぼれる。


『まあ、それは会った時のノリでいこう!』


『分かりました』


『それじゃあ、私まだ少しやることあるからまた今度ね! 月末! 楽しみにしてる!』


『私も楽しみにしています。頑張ってください』


『ありがとー!』


 最後のメッセージを送り、蓮華はSNSの画面を閉じると。


「よし! やる気出てきたー!」


 蓮華は両の拳を上に向けた。


 やる気も出たし、楽しみも増えた。

 早く作業を終わらせよう。


 蓮華は肩を回しながらPCの画面に向きあう。

 そして、すぐに画面に起きている異変に疑問符を浮かべた。


「あれ?」


 PCの画面はデスクトップを映している。

 そこまではいい。

 SNSの画面を閉じたのだから、PCの画面がデスクトップを映しているのはあり得ることだ。


 だから蓮華はデスクトップの下側にあるタスクバーに目を向けたのだが……


「編集ツールは?」


 起動しているものが表示されているはずのタスクバー。

 そこには普段使っている編集ツールの表示が無くて。


「えっ? 嘘でしょ!?」


 ここまで二時間は作業していたのだ。

 それが水の泡になるのはかなり痛い。

 蓮華はすぐに編集ツールを起動させ、作業途中のデータを確認しようとするが。


「無い……」


 二時間掛けた作業の結晶は、どのフォルダを確認しても見つからなかった。


 蓮華はすぐ時計を確認する。

 すると、時計はちょうど十一時を指していて。


「…………」


 編集中の動画は明日公開すると約束しているのだ。

 つまり、作業を終えるには絶対に日を跨ぐ訳で。


「勘弁してよ……」


 明日は眠い一日になりそうだ……

 蓮華は明日のことを思って一人ため息をついた。



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