第27話 二人三脚!?

「ふぅ........出来るだけの準備はできたよな.......」




 俺はあの日バイトから帰ってきてすぐにhaze九条さんの誘いに了承した。

 そしてこの誘いを受けた以上絶対にクリアしなければならないことが二つ存在する。




 1つは彼女を楽しませること。


 男が女になっただけでhazeさんはhazeさんだ。

 クラン結成時から一緒にプレーする戦友であり、自分の悩みを相談できるほど親密な仲だ。そう簡単に態度が変わるわけがない、それは九条さんだとしても変わらない。


 楽しませなければ道理に反するだろう。




 もう一つは俺の正体が加賀美大晴だとバレないようにすること。


 別に九条さんがhazeさんだったことはこの際どうでもいい。

 それよりもバレたことで今までみたいな関係でいられなくなる方が問題だ。

 俺が彼女を振った後今まで通りの関係を保てると思うか?そんな時にセイの正体が俺だってバレたら学校生活どうなると思う?




 幸い九条さんの計画は恋愛相談の時に把握することが出来ていたことに加えて、デートのにまで時間があったおかげで、対策を練ることができたしも済ませることもできた。



 準備は完了という訳だ。




「いざ尋常にってか.........」





 ❖☖❖☖❖




 今俺はとある遊園地にいる。



 もちろんhaze九条さんとのデートの為だ。


 だがそれは裏を把握している話であって

 実際はとかいう地獄絵図なのだ。



 もう少しマシな場所があったと思うんだが.......。



「考えても受けた以上はしょうがない。まずは状況確認だな」


 俺はスマホを取り出してに電話を掛けた。



 プルプルプルプルプル.........



 しばらくするとスマホから声が聞こえてきた。


『もしもーし』


「ああ、聞こえてる。そっちの調子はどうだ?」


無問題モーマンタイよ。いつでもいける』


「それは心強いんだが.......まだ怒ってないよな?」


『直前で謎の訓練の理由ワケを聞かされた俺を尊重しろ』


「さーせんでした」


『ところで本当にこの作戦でいけるのか?俺次第すぎるだろこの作戦』


「頼むまじで頼れる奴お前しかいないんだ』


「はぁ.....一応、喉の調子は悪くない。それにのど飴とか双眼鏡とか擬装用の服も持ってきた。これで無理なら諦めな』


「いや充分だ。これならバレないはず」


『分かった......って六時の方向から対象K接近!』


「まじか!それじゃまた後で!頑張れよ!!」


『お前もな!』



 俺は通話を切って後ろから近づいているだろう対象Kに意識を集中させる。



 ガヤガヤとした遊園地の入口でも彼女が近づいてくるのがはっきりと分かった。



「こんにちは、SEI君」



 俺は声が聞こえてくるのと同時に後ろへ振り返る。



「こんにちは!hazeさ.........え?架純サン?」



 背後にいたのは九条架純その人。


 金髪お嬢様ヘアに白く艶の目立つトップスが圧倒的なボディラインを描いており、青緑色に染められたタイトスカートと黒いパンプスが清楚で慎ましさを演出している。


 全体的に大人らしいが体のラインをやけに強調しているように見えた。



「う.......うん今ままで言えなくてごめんね。私がhazeなの」



 そう言って彼女は帽子とマスクをバッグから取り出し、その場で付けて見せた。確かに前オフ会であった時のhazeさんと瓜二つだった。



「ほ.....ホントだ......本当にhazeさんなんだね」



「どう......かな?幻滅したりしない?」



「hazeさんが架純さんでも俺はそんなこと思いませんよ。ただ、知り合いで驚いたなぁ......位です」


「そ、そうなんだ///良かった!!」



「それよりも話し方とかこれで大丈夫ですか?もっと畏まったほうが......」


「できれば今日はセイ君と恋人みたいに過ごしたいです.......ダメですか?」



「!!......は、はい。じゃあ......架純」


「ひゃあぁあぁぁぁぁ!!」


「っと大丈夫?息が荒くなってるけど」


「だ、だめ!目見ちゃうと緊張しちゃうから!!」


「あ、うん。しばらく待つよ」


「うぅぅ........カッコよすぎて目が見れない........」




 ギャップがえぐい。何だこの生物は?

 俺が知っている九条さんはドがつくほどのSで人の都合一切考えない唯我独尊ワガママ女なのだが?

 今俺の目の前にいるのは溶けたケーキみたいに甘ったるいドロドロの女。

 顔を抑えながら体をよじるよじる、まるで海藻。


 こんな少女漫画から出てきたような

 存在がいるなんて........



「ちょっとだけ離席してもいいですか?セイ君」



「あ、ああ、ここで待ってるから安心して行ってきてね」



「は.......はい////......それでは後で」



 そうして彼女はどこかに走っていった。



 そして視界から彼女の姿が消えた瞬間に俺は一通のメールをある男に送った。


『出番だ、頼む』


『任せろ、準備はできてる』



 俺の大根演技がある以上

 この作戦の根幹はこの男に任されていると言っても過言ではない。


 俺はただ祈るように男の無事を祈った。







 ❖☖❖☖❖





「遅いわ!連絡したでしょ!」

「お.......おう」


(これでもたいっちゃんのメールからすぐに来たんだが)



「彼を待たせてるから先に要件を言うわ」

「おう」


「彼がカッコよくて目線を合わせられないのだけどどうすればいいかしら」


(いきなり何言うかと思えばそんなことかい)



「何か言ったかしら?」


(こいつ?心を読めるのか?)



「なんでも.......ないです」

「そう......それで助言は?」


「目を見ない.....足元を見て動きを察する........そう写輪眼の如.......足元を見るとか」


(あ、やっべいつもの癖で)



「なるほどね.......足元を見る........分かったわ」

「おう」


(ふーあぶねぇあぶねぇ)


「セイ君が覗き込んできたり、ふとした時に目が合ったらどうすればいいの?」


(この女大丈夫か?)


「別の人の顔思い浮かべるとか.......慣れるとか.....ぶんn......くらいですね」


「分かったわ、別の人.......慣れる.......」



(よし!これでいいよな......)



「助言はありがたいのだけど.......あなたおかしくないかしら?」


(え!?)



「別に何も変わりはない」


「マスクに帽子ってどこの不審者よ......それにいつもより声が濁っているし」

「......気のせいだ」


「ふぅん、ならいいわ」

「お、おう」


「改めて助言は感謝するわ」

「お、おう」



「語彙が一つしかないけれど......」

「否......気のせいだ」



「なら私は行くわね。また後で」

「おう.......またな」









(もう姿は見えない.........っし)



「ふぅー.......無理がありすぎだろこの作戦」



 俺はマスクと帽子を取って一息ついた。


 そんなナイスガイな俺は清水典明しみずのりあき


 普段は俺の押しの名前から取ってノリィという愛称で呼ばれている。



 そんな俺はあいつから1つの依頼をされた。



『土曜日俺の影武者してくれないか?』


 俺はこの依頼を聞いたとき

『何言ってんだ?』と思った。

 しかも影武者......嫌な予感しかしない。



 俺はすぐに断ろうと思った。



 だが



『頼む!!この通りだ!!頼む!!!』


 俺が三度しか見た事がないこの男の土下座。

 そこまで親友にやられちゃ黙って逃げるわけにはいかねぇ。



 俺は快くオーケーと返事をした。




 その後は


 声真似練習やら、服装どうするか問題やら、会話矯正やら


 色々とあった。




 が




「まさか女王様の相談役を仰せ使わされるとはな」



 俺がわざわざリリィちゃんの朝活配信を途中から飛ばしてまで来たんだ。



 流石に上手くいかなかったら........。



 あれ確定だよな。





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