第22話 勝ったなガハハ!?

「たいっちゃん!?」


「..................」


「おい、たいっちゃん!?放課後だぞ?」


「........あ、ああ分かってる」


「さっさと行ったほうが良いんじゃねぇのか?遅いと従姉妹に怒られるって言ってたよな?」


「そうだな..........行くわ」


「おん、行ってら」


 ノリィの言葉で我に返った俺は、教科書がずっしりと詰まったバッグを持って教室を出る。放課後の教室には俺とノリィ以外に当番くらいしか残っておらず閑散としていた。


 午後から降り出した雨は未だに降り続けていて校舎に雨音が響いている。

 俺はバッグを肩に担ぎ直し、廊下を抜けてすぐ横にある階段を降りていく、靴箱まで距離はないのでちょっとスキップすれば数秒で着く。


(っと傘が確かここに......)


 天気予報で午後に雨が降ることを把握していたので当然傘を持ってきている。別に近いからといって雨に濡れる必要はない。


 俺は傘立てにあるだろう傘を取り出し......って



「俺の傘取られてんじゃねぇか......」


 そこにあるはずの俺の傘は無く、代わりにあるのは何もないという事実だけ。普通に今日傘忘れた奴らが取っていた可能性もあるが、恐らく今日接触してきたアイツらだと思う。


「近いって言っても結構降ってるからなぁ........」


 外はざあざあとした雨が降り注いでおり、傘をささずに行った場合かなり濡れるのは目に見えている。バイト前に服がじっとり濡れるのは避けたい。


 Q.ならどうやってカフェまで行くのか?

 A.近くのコンビニで傘を買う


 っていうのがいつもの俺の考え


 だけど今日はちょっとだけ違った


 何故だか今日は



 水を浴びたい気分だった。




 ❖☖❖☖❖




「あっ遅い!って何でそんなに濡れてるの!?」


「あはは、悪いな傘忘れちまって」


「借りるなりコンビニで買うなりあるでしょ!」


「へいへい、すみませんした」


 更衣室で俺を待っていた美久が俺の姿を見て頬を緩ませた後、目を見開いて驚いていた。まぁビショビショの状態でバイト来るなんて思わんだろうしな。


「ほら!体拭いて!タオルあるから!」


「おっサンキューな助かるわ」


「もっと私に感謝を 捧 げ な さ い !」


「すっごい綺麗で綺麗な美玖様ありがとうございます。とても綺麗で綺麗です」


「そう!私は綺麗なの!!!」


(綺麗って言ってれば何でも言う事聞く説が立証されてきたな.......)


 そして、美久が投げてきた大きめのタオルを受け取った瞬間、◯木に電流が走ったごとく大変な事実に気づいてしまった。


「今気づいたんだけどさ......」


「何よ、タオルに文句は受け付けないわよ?」


「お前いつも俺の着替えの時、部屋から出ていかないよな?」


「!!!!」


「ほぉ?やはり自覚があるか......」


「べ、別に従姉妹なんだからいいでしょ!ほらさっさとつべこべ言わず脱ぎなさい!」


「なぁ......それって本当にアリなのか?俺のコンプラまでは見られてないとはいえ、流石に従姉妹でもアウトじゃねぇか?」


「い、今頃の子は皆......高校生でも従姉妹に半裸くらいミセテルワヨ?」


 体をよじりつつ、頑なに目を合わせようとせず、おまけに片言まで..........


「お前嘘下手くそか、バレバレだわ」


「え!?ってなんで分かるのよ!!」


「全部お前が喋ってるからだよ、体と言葉でな」


「ムキィィィィ!!!!」


「ちょ、ちょ殴るなって!!っていうか何で中瀬さんの時はあんなに嘘上手かったんだよ!!」


「あ、あれは......あんたに這い寄る蟲を退治するために必要だったからよ!」


「俺のになんてこと言うんだよ!!!ひどくないか!?」


「言葉のあやってものがあるでしょ!!」


「労りの心もう一回学んでこい!!!」


「あんたは女心を理解して来なさいよ!!」


「「むむむぅ〜!!」」


 しばらくの間俺たちは睨み合うことをやめなかったので、流石に遅いと美久母に怒られてしまった。でもニヤニヤしながら怒られても申し訳ない気がしないだろ、何だよ痴話喧嘩って





 〜〜〜〜







「あんたどうしたの?上の空って顔してる」


「へ!?あ......ああ別に少し疲れて眠いだけだ」


 受付に着いてから約一時間が経ち、駅前の人通りが多い時間帯になってきた。客足も多くなっていて、手が離せなくなるほどの混雑というわけではないが、十分忙しいと言えるだろう。


「ふぅーん、疲れてるだけじゃないでしょ?それ」


「え!?そう思う?」


「あんたの顔なんて毎日近くで見てるんだから分かるに決まってるでしょ?」


「なるほどね」


 確かに今の俺は疲れていると同時に心ここにあらずといった感じだったかもしれない。それはリリィちゃんのこととか奴隷組との出来事とか図書室での出来事とか色々あるけど


「あんたがシャキッとしてないとカフェのリピーター消えちゃうでしょ?」


「そんなに影響力あると思ってないけどな」


「ばーか何言ってんのよ」


 そう言って美久は俺の肩を軽く叩くと、俺の正面に周り上目遣いで見つめてきた。


「少なくとも私は受付にセイが立っていて嬉しいと思う」


「.........ありがとよ」


「あぁー照れてるぅ!可愛いねぇセイ君はー!」


「褒めるなら普通に褒めてくれないか!?」


「私が褒める時は貴重なのよ!」


「へいへい......でもありがとよ」


「うん......本心だからね?」


「言われなくてもお前のことだから分かってるよ」


「えへへ......私だから......か」


 なんとなく俺たちにはこれくらいの距離感が合っていると思う。気兼ねなく話せる友達みたいな関係くらいが丁度良くて理想的だ。


「ねぇ..........セイはさ」


「ん?どうした?そんな改まって」


「もしあの子達が本気で誘惑してきたら好きにならないって確信はある?」


「あの子達?.......ああ中瀬さんと九条さんか」


「そう.........その二人」


 確かにあの二人は魅力的で人気があるのは十分に理解している。ただ好きになるか否かなら話は別だ。


「九条さんは俺好きじゃないと思うから違うとして.......中瀬さんは多分好きにはならないと思う」


「それは...........どうして?」


 ズキッ


「俺が許してくれないからな.......特に昔の俺を」


「中瀬さんでもセイは信じられないの?」


「信じる信じないで割り切れるならいいけどさ」


「うん」


 ズキッ


「俺はあの時の傷が癒えないかぎり人と付き合える気がしないからな......中瀬さんと付き合ったら......半端な俺を許せなくなりそうだ」


「皆許してるよ、私も含めて.......あの子だって!」


 ズキッ!!


「...........この話やめにしないか?美久」


「セイ......」


「もう恋愛的な『好き』とか『愛してる』とか『信じる』とかどうでもいいんだよ俺は」


「.........」


「そんなものに惑わされるのはもう沢山だ」


「........」


「ほら?もう良いだろ?団体っぽいお客さん店の前に居るし、さっさと業務戻るぞ」


「うん、分かったよ......」







 わざわざデートをしたり

 思わせぶりな態度を取ったり

 とズレてきていることを

 まだ彼は気づいていない。



 ❖☖❖☖❖





「今日も一日お疲れさまと」


 今日も長かったバイトが終わりやっと家に帰ることができた。半日ぶりの自室はやはり最高である。


「さっさと鍋焼きうどん作ってそれで......うん?」


 目線の先にはパソコンのデスクトップ画面


 表示されているのは


『新着のメールが八件届いています』


 という文字。


 俺はすぐさまメールの宛先を確認した。



「お!hazeさんからだ!」


 送り主はクランメンバーのhazeさんだった。


『久しぶりだねhazeだよ』

『そろそろ君のバイトが終わったと思うから』

『メールさせてもらった』

『迷惑でなければ良いんだけど』

『ああ、そうだ要件がまだだったね』

『今週の土曜日に僕とオフで遊ばないかい?』

『良い返事を待ってるよ』

『またね』



「土曜日......だと?」


 土曜日か.......それはあまりにも都合が悪すぎる。何故ならば......


『今週の土日に彼をデートに誘おうと思っているんだけれど私達のデートについてきてそのサポートをしてほしいの』



 九条さんの誘いも受けてる以上はどちらかを優先する必要がある。もしそうなった場合、恐らく九条さんを取ることになるだろう。流石に対価を払っている以上仕事としてやらなければいけないからだ。


 俺としては是非とも行きたいと返信したいがアイツとの予定次第っていうのが非常に厄介だった。


 まぁでも土日だろ?二分の一なんて50%だ。神様も空気読んでズラしてくれるだろ



 俺の勘はこういう時当たるんだよね

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る