序8 動揺
神奈川炎上。それは現代史において最悪と呼ばれ未だに多くの爪あとを残している大規模テロの通称だ
深夜の神奈川・東京を中心に正体不明の者達が襲撃。江東区役所と神奈川県庁を占拠。神奈川に至っては県庁から半径約五キロにわたり爆破・放火し、一万人近い死傷者を出した。
「待ってくれ!あの時俺もあそこにいたんだ。今でもあの時見た名簿一覧は覚えている!その子の苗字……天宮は救助者リストにいなかった」
そうだ。天宮なんて苗字はなかった。いや現場は混乱していた。住民票データベースからデータを持ち出すときに漏れてしまった?だとしたらあの時いったい何人漏れたんだ。……いや敵側にいたのか?俺はもしかして彼女の家族を……
そこで不意に頬に痛みが奔る。目線を上げると、シーツを整え天宮をベッドに入れたジャックが立っていた。どうやらビンタされたらしい。
「落ち着け。今はあの時の反省をする場面ではない」
雪平さんもうなずく。
「そのとおりよ。今わかるのはどちらの問題も私達が軽々しく踏み込んでは行けないってこと。ジャックは忙しいだろうけどこの二つに関する裏取りをお願い」
「そうだな、広めるわけにもいかない。俺が調べよう」
「東雲先生はこのあと精神の高ぶりを押さえる香を焚くから彼女と一緒に吸ってから戻りなさい」
「あぁ、わかった」
天宮の寝ているベッドの隣に椅子を持って行き座った。それを確認した雪平さんは呪文を唱える。
「私は願う。二人に安眠を。二人に安らぎを。等しく一時の静寂を与えたまえ」
突如部屋を不思議な紫の煙が包むと同時に眠くなる。まるで誰かに包まれているような温かさ。安心さが全身を包み込み、体がここなら安心だと判断し、動かなくなる。
あぁ、なんて心地よいのだろうか。ずっとここにいたい。
そうして俺の意識は深い深い眠りに落ちていくのだった
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