『ゲーム原案小説用』フュージティブ 魔境への逃走 

コトスケ5

第1話

「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・。」


その者は森の中を必死に逃げていた。それは己が生存の為、そして自分達をここまで追い詰めた存在に復讐をする為に、今は生き延びて、噂に聞いた魔境へと向かう為に。


「どこかなぁ~。どこに居るのかなぁ~?」

「もうお姉ちゃん、そんなこと言いながらだと怖がって出てこないよ。」

「良いのよ。あいつ等何てしょせん“素材”何だから。素材が何を思おうと関係ないわ。」

「そうじゃないよ。怖がって出てこなかったらその“素材”も手に入らないんだよ?静かに近寄って見つけたら殺すで良いんだよ。」


逃走者の目線の先には幼い2人の少女。だが手に持った鉄の筒が脅威であることをこの生物は知っている。


魔王討伐後ゴブリンやオーク、吸血鬼等の殲滅が宣言されて数百年。人類と明確に敵対していた魔物達が異界より現れた“勇者”の知識によって狩り尽くされ、襲われる事の無くなった人類が一気にその数を増やした。


数は力とは良く言ったもので、人口の増えた人類は勇者のもたらした知識を元に文明社会を築き、魔物の撲滅宣言を出した。今やこの世界に残った数少ない魔物は人類達に高価な“素材”としか見られず。日に日に絶滅する数が増えて行く。


「さぁ出ておいでウサギちゃーん。あなたの剥製は高く売れるのよ~。」

「もうお姉ちゃんったら。」


勇者がもたらした“銃”と呼ぶ武器は、力の無い幼子でも簡単に魔物を狩る狩人にしてしまう。自分達の仲間も家族ももこの“銃”によって狩りつくされ、今や自分ひとりが残るのみとなってしまった。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・。」


草むらに隠れる物。ホーンラビットは荒い息を何とか潜めようと努力しながら、草むらから少女たちの動向を見守る。気付かずに行ってくれと、そう願いながら必死に姿を隠すホーンラビット。だがその願いは聞き届けられなかった。


おもむろに少女が何かを取り出し頭に装着する。目を覆うように作られたそれは、赤いレンズをしたゴーグルの様な物だった。


「見~付けた♪」

「やっぱりそれ便利だね。体温で獲物が見えるんだから。」

「高い買い物だったけどこれで一杯“素材”が手に入るよ。すぐに元は取れちゃうなぁ♪」


しばらくあたりを見回していた少女が自分の隠れていた草むらを見てニヤリと笑う。怪しい輝きを放つレンズが自分を見た時に、全身に鳥肌が立つのを感じた。


「あんまり傷つけないでよ。お姉ちゃんやり過ぎてあんまり高く売れないんだから。この前だってせっかくの群れだったのに半分近く半額にされちゃったんだから。」

「逃げるんだからしょうがないじゃん。それに一匹だけなら楽勝楽勝♪」


チャキッ


自分が見つかった事を悟りすぐに逃げ出すホーンラビット、すでに銃口は彼の背中を狙っていた。


「そのままそのまま~。はいズドン。」バァーーーン!


大きな音と共に何かが飛んでくる。だがそれは運良く傍に在った木に命中した。


「はいハズレー。もう何やってるのお姉ちゃん?」

「おっかしいなぁ?これ銃身曲がってない?」

「昨日メンテナンスに出したばかりなんだからそんな訳ないじゃん。じゃあ次は私ね。」


バァーン!!ズパンッ!!


「きゅっ!?」


次に音が響いたと同時に、ホーンラビットは足に鋭い痛みを感じた。痛む足を見ると、太ももに穴が開きそこから血が流れている。


「命中~♪さっすが私、お姉ちゃんより凄いんじゃない?」

「むぅ~妹のくせに生意気だぞ。それでどうする?このまま生け捕りにする?」

「足に当たったのは運が良かったね。生け捕りだったら倍のお金が貰えるよ。生きてる限り素材が剥げるからだって。」

「角も皮も内臓も使い道あるからねぇ。ポーションで回復すれば何度でも素材は取れるし。こりゃ高くなるぞー。新しいアクセサリー買っちゃお♪」

「私が仕留めたんだから私が7ね、お姉ちゃんは3。」

「そんなのずるいよ!!それじゃあアクセサリー買えないじゃん!!」

「知りませーん。最初に外したのが悪いんでーす。」

「なにおー!!」


足の痛みに動けなくなったホーンラビットの傍で喧嘩を始める少女達。もう自分は駄目なのか、家族の敵も取れないのか、恐怖と無念さで静かに涙を流すホーンラビット。その時、頭に不思議な声が響く。


『生きたいか?』


しわがれた老人の様なその声は、ホーンラビットにしか聞こえていない様で少女二人は反応しない。


『もう一度問う。生きたいか?』

「生きたい!!」


ホーンラビットは生きたいと、その声に答えた。するとどこからか自分の体に何かが流れ込んでくるのを感じる。


『ならば力を授ける。ここまで逃げてくるのだ。人類に復讐する為に。』


ドンドンと流れ込んでいく力がホーンラビットの中で暴れ、形になって行く。それと同時に頭の中に力の使い方が、知らない知識が流れ込んで来た。


力が自分の中で形を成し、安定した時に少女達の喧嘩も終わった。


「取り分は帰ってから決める。とりあえずこいつを連れて帰るよ。」

「足を縛っちゃえば動けないしね。さっさとこんな森から帰ろう。」


自分に向かって手を伸ばそうとする少女達。ホーンラビットは今手に入れた力を使いその手から逃れる。


「あれ?消えちゃった?」

「どこに行ったの?」


辺りを見回す少女達。その頃にはホーンラビットは少女達からかなり離れた場所の“空中”に居た。


『おぬしに与えたのは<超跳躍>。怪我をした足でもかなりの距離は跳べるだろう。魔境で待っている。死ぬでないぞ。』


ホーンラビットはその声に導かれるように頭浮かんだ魔境を目指す。途中人間達に見つかりもしたが、<超跳躍>の力によって難なく逃げ切ることが出来た。足のケガも治り、全力で跳躍できるようになったホーンラビットは、一足で銃の射程外に逃げられる様になっていた。


そして、とうとうその場所に辿り着く。密かに魔物達の間で噂になっていた場所。魔物達の最後の安息地、雲よりも高い場所に在る山々に囲まれたその場所は、魔境と呼ばれている。


「げぎゃっ、ぎゃぎゃぎゃぎゃ。」

「きゅっ!?」


そして、自分を出迎えたのは緑色の肌に高い鼻、黄色い瞳に髪の無い頭に杖を持ったゴブリンの老人だった。


※ここからは魔物の言語を人語に訳しています。


「ほっほっほ、驚いたか?ゴブリンはもう居なくなったと思っていたのじゃろう?」

「えぇ、人によって既に滅ぼされたかと・・・。」


「残念ながらわしが最後のゴブリンじゃよ。他の仲間は・・・どこかに隠れ住んでおればよいがそうは行かんじゃろう。人種はわしらの事を徹底的に排除しよったからの。」


「それであなたは一体?」


「魔境の管理をしている者とでも言っておこうかの。そして人類に復讐を企てる者の1人じゃ。」


「ですが人類は今や凄い力を手に入れています。かつてのあなたの仲間も、高位魔物であった吸血鬼でさえ破れてしましました・・・・。」


「ふふふ、人類が天敵を失って数百年。その間に奴等は賢くそして膨大な数に増えた。じゃがその所為で腑抜けたのじゃよ。安易な力に頼り、かつての勇者の様に自らを鍛える事を忘れた。わしは、古の技術を復活させたのじゃ。」


「それが私の<超跳躍>・・・・。」


「スキルと呼ばれるそれは、元来人にしか使えぬものじゃった。わしは、長い研鑽を得て魔物が使える様に改良したのじゃ。今、世界中に隠れている魔物達にスキルを配り、この場所に集まるように声を掛けておる。どれほどの数が辿り着けるか分からぬが、それでもかなりの人数が揃うじゃろうて。その時が、人類に復讐する時じゃ。」


怪しく光る老人の黄色い瞳に、自分と同じように復讐の火が灯っている事に気が付くホーンラビット。気が付かずホーンラビットは自分の口から願望が零れ落ちていた。


「私も人類に復讐を!奴等に一矢報いる機会を!!」


「良かろう。仲間になると言い。己を鍛え、その時を待つのじゃ!!」


ギャーギャーギャー!!ゲッゲッゲッゲ!!ホッホッホッホ!!グルルルル!!


老人の後ろにはいつしか、赤い瞳を輝かせた黒いシルエットが多く現れていた。ホーンラビットはそのシルエットに向かって歩き出す。笑いながら家族を、仲間を殺していった人類に復讐する為に。


人類殲滅まで後1000匹・・・・・。


______________________________________


その者はじっと動かない様に身を潜めていた。自分を追って来た奴に見つからない様に。存在感を極限まで薄め、手に入れた物を家族の元に持って行く為に。


「っかしいなぁ、ここら辺に逃げ込んだはずなんだけど・・・。」

「お前銃なんて構えてどうするつもりだよ。あれは生け捕りが基本だぞ?」

「牽制だよ牽制。それに入ってる弾は麻痺毒だから殺したりしねぇよ。」

「この前量を間違って殺した奴の話を聞いたぞ?大丈夫か?」

「マジで?ちょっと確認するわ。」


自分の隠れている木箱の上に乗り、何やらカチャカチャと弄っている追跡者。じっとその音を聞きながら、青い体を持つその生物。スライムはそのまま立ち去って欲しいと必死に祈った。


「よっと、大丈夫だったぞ。」

「ならいいけどな。しっかし街中にスライムが居るなんて運が良いよな。」

「あぁ、あいつ等水が無くて数減らしてるからな。見つけたのが噴水のあたりだし、取りに来たんじゃねぇか?」

「水源は今や俺達が全部管理してるからな。30年前だったらスライム狩り放題だったらしいぜ?」

「親父たちの世代かぁ、全く羨ましいぜ。」


木箱から離れて行く追跡者達。しばらくじっとしていたスライムも、脅威が無くなったと判断して木箱から出た。


体の中には汚い瓶に入った水が浮かんでいる。自分の家族、特に生まれて来た子供が水不足で瀕死の状態なのだ。これだけは確実に持ち帰らないといけない。


ゆっくりと、人に見つからない様に気を付けながら街中を這い回るスライム。そしてやっと街の出口にたどり着いた時に、その場面に出くわしてしまった。


「ひゃっほーーー!!スライム2匹ゲットだぜ!!」

「くそう良いなぁ。俺達が見つけた奴には逃げられちまったのに。」

「羨ましがってもこいつらはやらねぇぞ。さぁ汚水処理場に持ち込むか。高く売れるぞー。」

「っ!?」


話をしている人種が持っていたのは自分の家族だった。体が麻痺しているのかだらんと垂れ下がった体。そして体に通された槍。小さな我が子にさえその槍は突き刺さり、肩に担がれていた。


あれほど、自分の事は心配するなと、隠れていろと言ったのに様子を見に出て来てしまったらしい。運ばれて行く家族を何とか取り戻そうと辺りを見回すスライム。だが、スライム捕獲の話を聞いて一目見ようと街の人が集まってしまっていた。このまま飛び出していけば、自分も捕まってしまう。


見捨てるしか無いのか自分の家族を!!


体中が沸騰しそうな程に怒るスライム。その時、頭の中に不思議な声が響いた。


『救いたいか?』


声の主を探して辺りを探るスライム、だが声の主の姿は見えない。


『もう一度問う。救いたいか?大事な家族を。掛け替えのない仲間を。』


「当たり前だ!!」


『ならば力をやろう。』


スライムの体に不思議な力が溢れる。その力は物理的に体の中を暴れまわり、スライムの体は激しく波打っていた。そして波が収まると同時に力の使い方が解った。


スライムはその力を使い家族を追いかけて行く。“4本の足”で素早く掛けながら。救出のチャンスを待った。


汚水処理場と呼ばれた場所に連れていかれた家族。その場所はスライムを使って街から出る汚れた水を綺麗に処理する場所だった。だがそこは、何でも放り込めば大丈夫だという人種の傲慢さが現れた施設。排泄物や生ごみだけでなく、毒や化学廃棄物までもが一緒くたになって捨てられ、そのすべてをスライムに処理させていた。


そんな事をすれば、体に溜まる毒素を処理しきる前にスライムは死んでしまう。だが人類にとってスライムは使い捨ての道具の様な存在だった。いくらスライムが死のうが分裂して増えるのだからと一切気にしない。その所為で処理施設内のスライムの数が減っている事に気が付いてやっと慌てる始末だ。


今やスライムの数は数える程しかおらず、処理場ではスライムは高値で買って貰える。そして今、その値段交渉の場にたどり着いた。


「おいおい職員さんよ。それじゃ安すぎるぜ。」


「成体が1匹と子供が1匹ではこの値段ですよ。繁殖できる個体には高値が付いていますし、子供も成長すれば増やせます。これでもかなり高額なのですよ?」


「そこをもうひと声!!今度家買うんで金が掛かるんだよ。」


「はぁ・・・仕方ありませんね。久しぶりのスライムですしこれでどうですか?これ以上は出せませんよ?」


「おぉ助かる!!」


男の手から容器に入れられた家族が渡される。その後金を受け取った男は外に出て行った。


「誰か!!誰か居ますか!!」


職員が人を呼ぶと、1人の男性が姿を現した。


「これを処理室に、くれぐれも殺さない様に注意して下さいね?」


コクンッ


頷く男に職員は容器を渡し、自分の職務に戻って行く。受け取った男はそのまま部屋を出て、“施設の出口に向かった。”


他の人がやっていたように機械にIDをかざし、途中の部屋で容器が隠せる背負い袋を拝借した男はそのまま街を出る。


そして、茂みに隠れた所で男の姿が崩れた。


『おぬしの力は<擬態>、見た者に1度だけ姿を変える事が出来る力じゃ。さぁ、家族を連れて来るが良い。』


しわがれた老人の声に導かれ、今度は先ほどの職員の姿になって歩き出すスライム。途中、擬態の効果時間が切れ人に見つかるが、姿を隠し追跡者の1人に擬態して持ち逃げするポーズを取ると、面白い様に仲間割れを起こして逃げる事が出来た。


そして、スライムはたどり着く。魔物達の最後の安息地である魔境に。


「長旅ご苦労じゃったの。家族も無事で何よりじゃ。」


「貴方はゴブリン!!生き残っていたのですか!!」


「ほっほっほ、最後の一人じゃがの。力はうまく使えたかの?」


「貴方のおかげで家族を救い出せました。感謝いたします。」


「あのままでは私達はどうなっていたか・・・。感謝しますゴブリン様。」


「あいがと。」


口々にお礼をいうスライムにうむうむと頷くゴブリン。そしてその黄色い目を光らせながらスライムに問いかける。


「それで、おぬし達はこれからどうするのじゃ?」


「妻と子供は魔境で暮らさせて欲しいです。」


「ではおぬしはどうするのじゃ?」


「私は人種に復讐がしたい。」


「あなた・・・。」


「ぱぱ?」


「それはなぜかの?」


「私は見たのです。あの施設で多くのスライムが苦しみ、藻掻きながら毒を食わされているのを。私だけでは家族しか救えなかった・・・。私はあのような地獄から仲間を救いたい!!」


「その為に水に帰る事になろうともかの?」


「覚悟は出来ています。」


「駄目ですよ貴方!!貴方がそんな事をする必要はありません!!」


必死に止めるスライムの母親、子供のスライムは母親の頭に乗り、父親をじっと見ている。


「私自身がやりたいと思ったんだよ。君はその子を立派に育ててくれ。」


「そんな・・・。」


「ぱぱはすらいむのゆうしゃになるの~?」


子供の純真な言葉、しかしスライムの父親はその言葉がまるで天啓の様に聞こえた。


「勇者・・・勇者か。そうだな、人種に勇者が現れたんだ。魔物に勇者が現れても不思議じゃない。そうだね、パパはスライムの勇者になるよ。」


「うん!!がんばってねぱぱ!なかまをたくさんたすけてね!!」


「あぁ、約束だ!!」


体をこすり合わせる父スライムと子スライム。母スライムはその姿に自分が何を言っても覚悟が決まっていると、自分も覚悟を決めるべきだと判断した。


「もうこれ以上止めません。ですが、必ず帰って来て下さい。」


「あぁもちろん、約束する。」


「では行こうかの。仲間が待っておる。」


老人の背後に立つ赤い瞳をした黒いシルエット。スライムはポヨンポヨンと撥ねながらその中に入って行く。それを母スライムと子スライムは何時か父が戻って来る事を信じて、見送り続けていた。


人類殲滅まで後999匹・・・・・。


______________________________________


その生き物は自身の美貌ゆえに狙われた。数多くの同胞が連れ去られ、そして奴隷にされた。死してなお観賞用にと剥製にされる同胞を数多く見て来た。いや、見せられたのだ。泣き叫ぶ同胞に毒を打ち込み、動けなくなった所で生きたまま石の中に閉じ込めるその所業を。


「出て来ませんねぇ。」


「ラミアは仲間意識が強いって話じゃなかったすかね?」


「そのはずなんだがなぁ・・・。」


「もったいないっすよねぇ。下さえ気にしなければ美人ですし。」


「穴もあるしな。せっかく捕まえた一匹だったから楽しみたかったぜ。」


「それはお前がこいつを使って他の奴を誘き出せば好みの奴がいるかもしれないって言ったからだろ?」


「ちげぇねぇ。」


「俺だけの所為かよ。お前等も同意しただろうが。」


「まぁな。」


洞窟の外に居座る襲撃者達。その姿を見ながら洞窟に居たラミア達は指を咥えてみているしか出来なかった。


「どうします姉さま?」


「何とか隙を作って逃げないと・・・。」


「幸い襲われる前に子供達は逃がせました。無事魔境にたどり着いてくれれば良いのですが・・・。」


「問題は私達ですね。」


「えぇ、唯一の出入り口が塞がれています。」


「戦いましょう!あの子の仇を取らないと!!」


「奴らは私達に対抗する術を持っているんだぞ!!どうやって戦うというのだ!!」


話し合いは紛糾し、全くまとまらない。そうするうちに襲撃者の方が先に準備を終えてしまった。


「兄貴、持ってきやしたぜ。」


「やっと来たか。」


「何頼んでたんっすか?」


「雪女を閉じ込めた冷凍装置だよ。ラミアは蛇の魔物だからな。冷やしちまえば捕まえられる。」


「なるほど!!兄貴あったま良い!!」


「さぁ作業を始めるぞ!!」


襲撃者達はラミアの巣に向かって冷気を送り込む。その際装置から絶叫が聞えているが、全く気にした様子はない。


ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


洞窟に響き渡る絶叫、そしてだんだんと冷えて行く体に動きが鈍くなって行くラミア達。


「なんだ!!何が起こった!!」


「姉さま!敵の襲撃です!!あいつ等洞窟の空気を冷やしてます!!」


「あぁ、もうダメ・・・。眠い・・・。」


「寝ては駄目よ!!」


次々に倒れて行くラミア。そして最後のラミアの意識がもうろうとしている所に襲撃者達が姿を現した。


「おぉ!!よりどりみどりっすね!!」


「おれこの子にしようかな。ちょっと幼い感じがたまらねぇ。」


「じゃあ俺はこっちのお姉さんぽい奴にしようっと。これなら壊れても飾っておけるしな。」


「ちぇっ、小さいのは居ないのか。残念。」


「お前ロリコンかよ。ちょっと通報しとこ。」


「やめろよな!!魔物相手だけだっての。」


好き勝手に言いながら、仲間のラミアを運び出していく襲撃者達。意識の残っていたラミアは襲撃者達のそんな様子を睨むことしか出来なかった。


『助けたいか?』


そんなラミアの頭にしわがれた老人の声が聞こえる。


『もう一度問う。助けたいか?仲間を。』


「助けたいに決まっている。」


『では力を授けよう。』


その言葉と同時に体の中に力が溢れてくる。そしてその力は目の周りに集まりぐるぐると渦を巻き始めた。


目を内側から押されるような感覚に必死に瞼を閉じて対抗するラミア。そして、力の奔流が収まると同時に力の使い方が頭の中に浮かんだ。


「さぁて、残りも運び出すか。生け捕りだから高く売れるぞ。」


「そうっすね。売った金を使って宴会でもしやせんか?」


「良いなそれ!残った奴を売れば全員で宴会できやすぜ。」


「そうしたいならさっさと運び出せ。」


「へいへい。」


襲撃者達が他のラミア達を運び出そうとしたその時、1人のラミアが飛び上がった。


「シャーッ!!」


「なっこいつやられた振りをしてやがった!!」


「かっ体が動かねぇ!!」


「ラミアがこんな力を持ってるなんて知らねぇぞ!!」


ラミアの眼光に捕らえられた襲撃者達は、徐々に自分の体が動かなくなり、石になって行く事に気が付く。


「ひぃっ!!俺の腕が!!腕が石に!!」


「足が!!足が動かねぇ!!」


「畜生!!何だってんだ一体!!」


碌な攻撃手段を持っていなかった襲撃者達はそのまま石となり洞窟に転がる。動かなくなった襲撃者を見てラミアは自分の力が強大な物であると察した。


『与えた力は<石化の魔眼>。ラミアの祖先が持っていたと言われる力じゃ。その力を使い、仲間を助けて魔境に来ることを願っておる。』


老人の言葉に感謝しながら、ラミアは洞窟の外に飛び出した。連れされた仲間を救う為に、だがそこには絶望が広がっていあ。


「ラミアが飛び出して来たぞ!!」


「捕まえろ!!」


「中に入って行った奴はどうしたんだ?」


「知るか!!それよりも目の前の獲物だ!!」


外に居たのは沢山の人だった。先ほどの襲撃者達は唯の先兵で、本隊はこちらだった。銃を持ち、先程捕らえられた仲間を檻に運ぶ人々。その真ん中に自分は飛び出してしまった。


「シャーーッ!!」


「ぬあっ!足が石に!!」


「文献にあった石化だ!!目を潰せ!!」


「視線を切れ!!石になるぞ!!」


先程与えられた力でどうにかしようとするラミア。だが人種には危険な力の文献が残っていた。


すぐに物陰に隠れられ、魔眼の力が使えなくなる。そのうちに目を銃で狙撃され。何も見えなくなったラミアは四方八方から撃たれた銃弾に動けない程の瀕死の怪我を負った。


「魔眼持ち何てレアもの殺しちまって良かったんですか?」


「高い金より命だろ?それにたかが魔物にやられっぱなし何て癪じゃねぇか。こいつはここに吊るして見せしめにするんだよ。」


「様子を見に来たところを一網打尽って訳ですかい。リーダーも人が悪い。」


「魔物は殲滅が基本だ。金になるから生け捕りにするけどな。」


笑ながら襲ってきたらラミアに鉄の棒を差し込みその場に建てる襲撃者達。そして洞窟に残っていたラミアと、石化した仲間を連れて街に戻って行った。石化は魔法薬で治療し全員が元通り。ラミアの襲撃はなんの意味も無く終わってしまった。


『ダメじゃったか・・・。じゃが逃げて来た子供はしっかりと預かる。安心するのじゃ・・・。』


吊るされたラミアの見えない目には、悲しそうなゴブリンの老人の姿が映っていた。その言葉に、子供達は無事だったと安堵したラミアは、その生涯を閉じるのだった。


人類殲滅まで後999匹・・・・。




毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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『ゲーム原案小説用』フュージティブ 魔境への逃走  コトスケ5 @kotosuke5

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