無人駅

橘暮四

プロローグ

  黄土色と黒色の、独特な配色をした表紙をめくる。スケッチブックの一枚目には、波打つ日本海が描かれている。褪せた防波堤に打ち付ける白波を、鉛筆だけで表現するのが難しかった。もう一枚画用紙をめくる。二枚目には、森の入り口に立つ古びた鳥居とその先に続く階段。まだら模様になって鳥居に差し込む、涼しげな木漏れ日が上手く描けていると思う。続いて三枚目。海沿いの道にひっそりと佇んでいる自販機と、その側にあるベンチ。潮風に吹かれたのか、ベンチに塗られたペンキの色は褪せてしまっていて、剥き出しになった木目の模様が酷く悲しげに見えたのを覚えている。そして、四枚目。そこにはB4サイズの空白が広がっている。まだ何物にもなれていない、そして何物にもなれる空白が。今日はこの空白に何を描こうか。この町にやってきて四日目の昼下り、僕は垂れてくる汗を拭いながら、寂れた田舎町を歩いていた。

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