第3話 やっぱり転生していました
「転生したタイミングで死ぬのかと思ったら……まだ6歳の子供だったなんて」
キャンベル伯爵家の書斎の机に座り、シェイラは足をぶらぶらさせていた。前世では絶対にしたことがない仕草が自然と出てしまうことに、この自分はアレクシアではなくシェイラなのだと改めて思う。
部屋の隅にある鏡には、シェイラの姿が映っている。はちみつ色のキラキラとした滑らかなロングヘアに、ローズクオーツを思わせる柔らかな瞳。
転生したのだから外見は全く違うものになると思っていたが、シェイラ・スコット・キャンベルはアレクシアの幼少期にそっくりだった。
(もし……アレクシアの子供の頃を知っている人に会ったら面倒なことになりそうだわ)
そんなことはありえないと思いつつ、ため息をつく。アレクシアの最期は決して良いものではなかったからだ。
一瞬、もう会えない彼の顔が頭をよぎる。
(本当の、最期までは覚えていないけれど)
クラウスは絶対に、アレクシアの側を離れたりはしなかっただろう。今ここにいることが、ひどく不自然で不安なことに感じられ、じんわりと涙が滲んでシェイラは慌てて頭を振った。
熱にうなされて前世の記憶を取り戻した日から一週間。
シェイラの熱はすっかり下がり、頭もすっきりした。アレクシアとしては今世に別れを告げる大病だと思ったが、どうやらただの風邪だったらしい。
(大体のことは知っているつもりだったけれど……風邪があんなに辛いなんて)
蘇る悪寒に、シェイラは体を震わせる。少なくとも、もう二度と風邪を引きたくなかった。
ところで、風邪が治り、気が付くとアレクシアとシェイラの記憶は一つになっていた。
すっきりしたシェイラが一番に確かめたことは、この時代はアレクシアが治めた時代からどれぐらい時間が経っているのかということである。
「100年経っても……意外と変わらないものね」
シェイラは、手元の資料をめくりながらため息をつく。
城が襲われたのは、プリエゼーダ歴852年の冬のことだった。今は、プリエゼーダ歴953年の春。ほぼ、100年が経っている。
100年も経っているのに、この国の文化レベルはあまり変わっていなかった。しかし、それは予想できた範囲のことでもある。
プリエゼーダ王国の社会を成り立たせているものは『魔法』だ。貴族しか使えないそれは、彼らの地位をより高める結果ともなっていた。この国を統治する彼らが、自分たちの優位を脅かすものの進化を許すはずがない。
(室内灯のように、魔力を込めなくても使える道具の開発は進んでいるみたいだけれど……。改良して飛躍的な進化を遂げるのは阻害されているみたいね)
前世の悩みをそのまま持ち越した現状に、ふう、と肩を落とす。
と同時に、今世での生家であるキャンベル伯爵家の現状にも頭を抱えていた。質素な屋敷に、伯爵位を持つ貴族としては粗末な調度品。
(私腹を肥やすことはせず、ほぼ領民のために生きているようなものなのに……。このキャンベル伯爵家が治める領地は……あまり良くない状態のようだわ)
(……そして、もう一つ問題が)
コンコン。
「!! はぁい」
シェイラは、手元の分厚い資料をサッと閉じると机の端に寄せる。そして、あらかじめダミー用に準備しておいた子供向けの絵本を広げた。
ノックの後、顔を出したのは使用人のパメラだった。
「こちらにいらしたのですね、シェイラお嬢様。お兄様お姉様がたがお庭で魔法の練習をするみたいですよ。加わらなくても……せめて、ご覧になってはいかがですか?」
「はーい。すぐに行くわ」
子供らしく答えてぴょんと椅子から飛び降りると、パメラは意外そうな顔をした。手には上着とシェイラが好きなビスケットの瓶を持っている。きっと、お菓子で釣って庭まで連れていくつもりだったのだろう。
しかし、シェイラがすんなりと従ったので面食らった様子である。
「大丈夫よ。逃げたり、お兄様やお姉様と喧嘩をしたりはしないわ」
「お嬢様……」
パメラは複雑そうな表情を浮かべている。それはそうだろう。風邪をひいて寝込む前までのシェイラは、この『魔法の練習の時間』が一番嫌いだったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます