第2話 魔王と勇者、妹を救出しに向かう
俺は勇美に言う。
「まず、明らかなのは、このメッセージを送ってきた相手は向こうの世界の人間だということだ。最低でも、向こうの世界の事情に通じていることは間違いない」
「そんなことは分っている!」
ふむ、勇美はかなり焦っているようだな。
妹が浚われたのだから当然だが。
「だから、落ち着けと何度言えば分かるんだ」
「なぜこの状況で落ち着けるんだ。ひかりがっ」
「落ち着くことが、ひかりを救出する第一歩だからだ。思い込みで暴走するのはお前の悪い癖だぞ」
「うっ。すまん」
少しは頭が冷えたらしい。
俺はつづける。
「誘拐犯は俺とお前の正体も知っている」
勇者シレーヌと魔王ベネスに当てたメッセージをこの鏡に送ったのだから当然だろう。
「そして、少なくとも通信の魔法を使えるようだ」
「そんなことは見れば分る」
まあそうだろうな。
「さらに言えば、誘拐犯はそれを隠そうとしていない」
「たしかにそうだな。それで?」
「つまるところ、この誘拐は金銭目的などではない。むしろ、俺とお前……いや、勇者と魔王を呼び出すための行動とだということだ」
「ひかりはそのために利用されたのか!?」
悔しそうにする勇美。
「そうだろうな。だが、そう考えるとさらに疑問が出てくる」
「なんだ?」
「俺とお前を呼びつけたいだけならば、なにもひかりを誘拐する必要などないということだ」
「むっ、それはたしかに」
俺たちの正体に気づいていて、俺たちを呼び出したいと言うだけならば、学校帰りに声をかければ良いだけだ。
廃工場とに連れて行くにしても、誘拐なんて手段を使わずにも他に方法がいくらでもあるだろう。
たとえば『元の世界に戻る方法を教えよう』とか言われれば、怪しみつつも俺も勇美もついて行ったかもしれない。
少なくとも、転生のことを知っているとなれば、捨て置くことはできない。
「しかし、それがどうしたんだ?」
「おそらく、このメッセージの主は、俺かお前に……あるいはその両方に思うところがあるんだろうな」
「思うところだと? もってまわった言い方をせずにハッキリ言え」
「……ハッキリとは俺もわからん。だが、想像するに恨みか」
「恨み?」
「勇者と魔王への恨み。それを強く感じるメッセージということだ」
「私たちへの恨み……それが動機でひかりを……」
勇美が両手を握りしめた。
その表情は悔しさに満ちていた。
「私に恨みがあるならば、なぜ私を襲わない!! ひかりは無関係だろうがっ!!」
「俺に言われても困る。いずれにせよ、俺たちがやるべきことは変わらん」
「……なんだ?」
「とうぜん、指定された場所へ向かうことだ」
「罠ではないのか? 今の私たちはただの小学生だぞ。私たちだけで助けられるか疑問だ」
「だったらどうした? 妹が浚われたんだぞ」
「……たしかに、そうだな」
今の俺たちに、魔王や勇者としての力は無い。
だが、それがどうした。
ひかりを助けない理由になどならない!
俺たちは1階に降りて、あかりに「もう1度近所を探してくる」と告げた。
「ちょっと待ちなさい」
「だいじょうぶだから、お母さんは家にいて」
俺はにっこり笑って言った。
大丈夫、ひかりだけは俺たちが絶対に救う。
だから、心配しないでくれ。
俺と勇美は街外れの廃工場へと向かった。
ひかり、絶対にたすけてやるからな。
俺たちは本物の影陽と勇美じゃない。
だが、ひかりは間違いなくあかりと日隠の娘だ。
必ずこの家に連れ帰る。
たとえ、俺たちの身に何があったとしても!!
廃工場の前に立ち、勇美が俺に言った。
「ここだな?」
「ああ。メッセージの住所はここだ。間違いない」
元々なんの工場だったか。
いずれにせよ、10年以上前に潰れたらしい。
入り口の門はさび付いていたが、それでも2人で押すと開けることができた。
「気をつけろよ。どこに罠があるかもわからん」
「ああ。
非常事態だし、さすがにそろそろ教えてやるか。
「使えるぞ」
「なに? この世界では魔法は使えないだろう」
「この世界でも魔法は使える」
勇美は驚きの表情を浮かべた。
「ばかな。転生初日に……」
「そりゃ、
勇美は驚きの顔を浮かべた。
「ならば何故黙っていた?」
「今はそれどころじゃない。いいから使ってみろ」
「……わかった」
勇美はぶつぶつと呪文を唱え、『
「どうだ?」
「昔ほど正確にはわからん。だが、あの建物の奥に反応がある」
ふむ、上出来だ。
廃工場の中に反応があるならば、ひかりで間違いないだろう。
「だが、どういうことだ?」
「黙っていたのは悪かったよ。病院の中でいきなり
俺が言い訳をすると、勇美が「違う」と首を横に振る。
「なに?」
「ひかりの横に、別の反応があるのだ」
「誘拐犯か?」
「そうかもしれないが、
たしかにそうだ。
誘拐犯は俺たちが……少なくとも勇美が知っている相手なのか?
たまたま通りすがっただけの相手の可能性もあるが……
いずれにしても、ひかりの居場所はわかった。
勇美が心配そうに言った。
「ひかりは無事だろうか」
「
「それはそうだが……」
「ならばひかりは生きている。助けに行こう」
「ああ、そうだな。絶対にひかりを助け出して、家に連れ帰る」
俺たちはうなずき合って、ひかりが捕らわれているらしき建物へと歩みを進めた。
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