第11話 魔王と勇者、担任&教頭と対決する
校長先生が現れると、教頭先生と田中先生はあきらかに動揺した。
田中先生はあわてて定規を背中に隠すが……もう遅い。
定規を振り回して俺を追いかけていたのは隠しようもないだろう。
「こ、これは……その、ちょっと……なんといいますか、えーっと」
弁解しようとして、しかし言葉にならない田中先生。
校長先生は田中先生を追求する。
「どう見ても、児童に体罰を与えていたようにしか思えないのだが?」
「そ、それはその、なんといいますか、えーっと」
冷や汗タラタラの田中先生。それをみて、教頭先生が言った。
「そ、そうだぞ、田中先生。校長先生の仰るとおりだ。児童相手に定規を振り回して追いかけるなど言語道断だ」
うわぁ、すごい変わり身の早さだ。
情けないことに魔王軍にもいたなぁ。下の者には威張りまくるくせに、
「そ、そんなっ。教頭先生、私は……」
「黙れ! それ以上しゃべるな!」
「酷すぎます! トカゲの尻尾切りですか?」
「うるさいっ!」
呆れるくらいに醜い大人の争いである。ため息が出るな。
校長先生が俺に尋ねる。
「キミ、神谷影陽くんだったな。大丈夫か? 怪我は?」
「問題ありません」
「ふむ、それは何よりだ。一体どういうことか、誰か説明してもらえるかな?」
田中先生は「あわあわ」言っているし、教頭先生の下手クソな弁明など聞きたくもないな。かといって、言葉より先に手が出る勇美に話させるのも良い結果は生むまい。
やはり、俺が説明するか。
「そうですね……」
俺は校長先生に話した。
事故にあうまえ、ササゴから影陽がどんなイジメを受けていたか。
田中先生にどんな扱いを受けていたか。
そして、今朝の一連の出来事。
校長先生が田中先生をギロリと睨んだ。
「なるほど。田中先生、何か弁明はありますかな?」
「そ、それは……もちろんありますともっ! この双子は我がクラスの問題児です! 佐々倉くんと私を罠にかけようとしているだけです」
ま、彼としてはそう主張するしかないだろうな。
こんな教師の言い分など聞きたくもないが、無理に言葉を挟むとこっちが何隠しているように感じられるかもしれない。どうせなら言うだけ言わせてやろうか。
「そもそも、佐々倉くんがそんなイジメなんてするわけがありません。彼は教頭先生の甥です。とても優秀な児童です。我がクラスの誇りです」
安っい誇りだなぁ。
「たしかに先ほどは私もやりすぎましたが、この双子は教師にまで暴行してきたのです。私の腹を蹴飛ばされましたし、教頭先生にも襲いかかろうとしたんですよ」
おお、その点だけは本当だな。
勇美の口より先に手が出る癖はなんとかすべきだ。
勇美は「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「そこの2人が私たちに対して暴言を連発しやがったからだ」
「ほら見てください。暴行は否定しないじゃありませんかっ。私はこの不良双子に教育的指導をしただけです」
まあ、勇美には教育的指導は必要だな。
それは認めるよ。
お前にその資格があるとは認めないが。
なんにせよ、勇美にこれ以上しゃべらせると、色々と面倒なことになりそうだ。
続きは俺が話すとしよう。
「ま、たしかに勇美にも問題はありますね。ですが、先ほどは言い忘れましたが、田中先生と教頭先生は、俺たちに『事故にあったのならそのまま死ねば良かった』みたいなことを言ってあざ笑ったんです。暴力は肯定しませんが、勇美が怒るのも無理はないでしょう」
校長先生は「なるほど」とうなずいた。
「それが事実ならば、むしろ私が教頭先生と田中先生を殴りたいくらいの暴言だな」
今度慌てたのは教頭先生だ。
「校長。私がそんなことを言うわけがありません! 残念ながらこの児童達は平気で嘘をつく不良のようです。田中先生がお怒りになるのも致し方がないでしょう。教師をおとしめ、まして、私の甥を凶悪ないじめっ子に仕立て上げるなど言語道断です」
ふむ。
確かに証拠なんてないが……影陽の日記を見せるか?
いや、あんなもんいくらでもねつ造できるしなぁ。
さて、どうすうるか。
かつては魔王などと呼ばれた俺だが、それなりに平和主義者のつもりだ。
勇美のように暴れたくはない。
第一、そんなことをしたらこっちが悪いと示すようなもんだ。
やはり、論破してやるしかないか。
ちょっと面倒だが、なに俺なら口げんかでもこんな2人には十分勝てる。
幸い、校長先生は児童の話も教師の話も公平に聞いてくれる公正な方のようだし。
俺は意識して冷静な口調で話す。
こういうとき、信頼を得るためには怒鳴ったり感情的になったりするのは悪手だ。
むしろ、相手よりも冷静な対応をして信頼を得るべきなのだ。
「嘘をついているのはどちらでしょうかね。田中先生や佐々倉くんが俺にどんなことをしてきたか。クラスの皆はちゃんと目撃していますよ」
俺の言葉に田中先生がニヤリと笑う。
「なるほど。ならばこれから他の児童に話を聞きましょう。それでどちらが正しいかはっきりするでしょうな」
ずいぶんと自信満々だな。
いや、考えてみればそれも当然か。
他の児童達だって、ササゴや先生は恐い。
それに、影陽へのイジメに参加していた奴らも多いのだ。
クラスメートが本当のことを話すなんて、田中先生はカケラもおもっていないのだ。
「すぐにわかりますよ。この双子が大嘘つきの不良児童だと」
ふむ。
ちょっと迂闊だったかな。
このままクラスメートの話を聞くのは分が悪いかもしれない。
ならば……
……と俺が考えていたとき、「嘘つき!!」とそらが声を張り上げた。
田中先生がそらに向かってニヤニヤと笑った。
「そうだよな、青井くん。この双子は嘘つきだよな?」
「違うっ」
「なに?」
「嘘つきなのは田中先生の方だ!!」
そらは田中先生を指さしてそう言った。
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