まゆてん ~魔王と勇者、双子の小学生に転生す~
ななくさ ゆう
プロローグ
始まりの最終決戦、そして異世界転生
魔王城、王座の
足を組んで王座に座る俺に、若き女勇者が剣を向けた。
「魔王ベネス、覚悟!」
彼女の美しい顔は、魔族の青い返り血で汚れていた。
そうか、バレス将軍も敗れたか。
もはやこの城に……魔王軍に残る幹部はこの俺――魔王サトゥルス・ベネスだけというわけだ。
「よくぞここまでたどり着いた、勇者シレーヌ・フェニーチェよ」
勇者シレーヌは俺の言葉に意外そうな表情を浮かべる。
「私の名前を知っているのか」
俺は「ふっ」と笑って彼女を見下ろした。
「もちろんだとも。我が部下、我が臣民、我が一族を滅ぼした者の名すら知らぬでは、王たる資格もあるまい」
勇者は怒りで眉をゆがませて俺を睨んだ。
「何を言うか、貴様たちこそ、どれだけの人族を、エルフを、ドワーフを殺した!?」
俺は『若いな』と思う。
自らの正義にひとつたりとも疑問を持たぬ、若者特有の信念。
彼女のまっすぐな瞳は、俺にとって眩しすぎる。
うらやましいと思うほどに純真な少女だ。
だからこそ、こんな幼さすら残した少女を勇者と祭り上げ、戦いの全責任を押しつけた人族の大人たちには嫌悪感を覚えるのだが。
いずれにせよ、おれは魔王、彼女は勇者。
ならば、俺のすべきことはただひとつ。
魔族の王として、このうら若き勇者と最後の戦いを演じるだけだ。
俺はおもむろに立ち上がり、漆黒の魔剣を構えた。
――そして、最終決戦が始まった。
魔王と勇者の決戦は壮絶な命の取り合いとなった。
互いに傷つき、もはや体力も魔力もつきる寸前。
俺が最後の攻撃を仕掛けようと踏み出したとき――
「かかったなっ!」
――そう叫び、勇者は切り札を使った。
「魔王よ、しかと見よ! これが、大僧正様より授かった究極魔法だ!
自らの命と引き換えに発動する自爆魔法だ。
魔王城全てを吹き飛ばすほどの爆発。
それは魔王たる俺の命と肉体をも消し去った。
――そして。
俺はゆっくりと目を開いた。
光あふれる世界。
ここは――あの世というヤツか。
俺の横には美しき女勇者が倒れている。
そうか、彼女もここに来たか。
俺は心から思う。
まったく、愚かなことをするものだ、と。
俺の命を奪うのはいい。
これは戦争だった。
俺はもう60年も生きた。
彼女の言うとおり、何人もの人族やエルフ、ドワーフを殺した。
魔族の部下や臣民にもたくさんの犠牲を強いた。
今更自分が殺されたからと恨み言など言うつもりもない。
だが、彼女はまだ16歳だという。
そんな若者が、自己犠牲呪文を使うなど。
伝え聞くところに寄れば、人族の大僧正は90歳らしい。
90の老人が、16の少女に自己犠牲呪文を教えるとはな。
こんな無垢に正義を信じる少女に、なんということをさせるのか。
――いや、それは俺も同じか。
俺の部下にも10代の若者は多くいた。
彼ら、彼女らもこの戦争で殉職していった。
先代魔王だった俺の父と人族の先代国王が始めた戦争で、若者たちが犠牲になったのだ。
俺もまた、その戦争を止められなかったのだから同罪であろう。
――と。勇者が目を開けた。
「……ここは……? き、貴様は魔王!? なぜ生きている!!」
俺に剣を向ける勇者。
やれやれ。死してなお、その瞳にやどった正義の炎は消えないようだ。
さて、どうしたものか。
が、悩む必要はなかった。
俺と勇者の目の前に、巨大な白髪の老人が現れ、一方的に語りだしたからだ。
「ご苦労だったな、勇者シレーヌ・フェニーチェ、魔王サトゥルヌ・ベネス」
突然現れた巨人に、勇者は目を見開き叫ぶ。
「何者だ!?」
「我が名はゼカル」
「ゼカル……まさか、創造神ゼカル様なのですか」
「その通りだ」
勇者はその場に
彼女にとって、創造神とは絶対の神なのだろう。
一方、俺はゼカルを苦々しく睨みつけた。
「この
俺の言葉に、ゼカルよりも先に勇者が反応した。
「
やはり勇者は知らぬか。
人族の大僧正あたりは気づいているだろうと思うが。
いや、魔王を倒すことこそが正義であると勇者を洗脳したヤツラが、世界の真実を彼女に教えるわけもないか。
俺が説明してやってもいいが、どうせ信じないだろうな。
ゼカルはそんな俺と勇者を無視して語りかけてきた。
「ここは光の
やはりそうか。
要するにここはあの世で、俺と勇者は死んだからここに来たというわけだ。
勇者もそのことは理解できたらしい。
「ならば、私は、ついに魔王を倒したのですね」
祈るように両手を合わせ感涙の涙を浮かべる勇者。
まったく、おめでたい娘だ。
年端もいかぬ少女をここまで洗脳した人族の王と大僧正に、むしろ感心してしまう。
ゼカルは笑いながら続ける。
「その通り。汝は自らの命と引きかえに魔王を倒した」
「ああ、創造神よ! これで世界に平和が訪れるのですね」
無邪気にそう言う勇者に、ゼカルは笑う。
「汝らの戦い実に見事であった。
その言葉で俺は確信する。
「やはりそうか。始めから、この戦いはお前が仕組んだのだな」
この創造神は、自らの楽しみのためだけに、魔族とそれ以外の種族を作り出し争わせたのだ。
勇者は俺の言葉に訝しがる。
「どういうことだ?」
そうだろうな。
『魔族=悪、人族=正義』
そんな単純な図式に洗脳された勇者には理解できまい。
その無垢な姿に、俺は
ゼカルは俺たちに
「自らの命をかけて戦った偉大なる勇者と魔王に褒美を与える。どんな願いでもひとつだけ叶えてやろう」
なにが褒美か。
吐き気がする。
だが、勇者は神へ願いを申し出た。
「ならば、私の願いはひとつです。人々に祝福を」
勇者の純粋な願いに、ゼカルはうなずく。
「ふむ、よかろう。すべての命を祝福しようではないか」
なにが祝福だ。
そんな曖昧なもの、なんの担保にも実益にもならない。
「魔王よ、そなたは何を望む?」
そうだな。
こんなヤツに今更望むことなど何もない。
――いや。
「ならば、勇者を平和な世界に転生させてくれ。次なる人生では彼女が戦うことなく穏やかに暮らせるように。お前にはその力があるはずだ」
この創造神は人の命を司る。
全ての犠牲者は無理でも、せめてこの哀れな少女だけでも……
そう考えた俺に、勇者が叫んだ。
「何のつもりだ、魔王!? いまさら貴様の情けなどいらん!」
そうだろうな。
だが、それでも。
生まれながらに勇者としての使命を背負わされ、大人たちにいいように利用されたあげく、戦いの果てに自己犠牲呪文まで使った少女。
俺は彼女に、せめて来世では幸せになって欲しいと思ってしまったのだ。
「よかろう。平和な世界で死んだ幼き双子に、汝ら2人を転生させようではないか」
なに?
「別に俺まで転生させなくてもいいんだが?」
「魔王と勇者が平和な世界で双子に転生したらどうなるか。実に興味深いではないか」
こいつは!
来世においても俺と彼女を弄ぶつもりか!?
「転生先は異世界『地球』の『日本』という国だ。ふむ、氏名は
ゼカルはそれだけ言うと、俺たちに向けて右手を突きつけた。
ヤツの右手が怪しく光る。
俺はあわてて叫んだ。
「ちょっと待て!」
だが、ゼカルは俺の言葉など全く気にせずに力を行使した。
「では、次なる人生でも我を楽しませよ」
その言葉と共に、俺の意識は再びなくなる。
――そして。
次に目を覚ましたとき、俺はベッドの上に寝かされていた。
同時に人族らしき幼女が俺の胸に抱きついてくる。
「
知らない言葉。
しかし、自然と理解できる言葉。
俺はあらためて、周囲を見回した。
この部屋にいるのは俺を含めて3人。
俺と幼女以外のもう1人は、俺とは別のベッドに横たわっている少女だ。
彼女もまた、ゆっくりと目を覚ましたようだ。
幼女もそれに気がつき、嬉しそうな声を上げる。
「
勇美と呼ばれた少女は上半身を起こし周囲を見回している。
そして、俺の知っている言葉で呆然とつぶやおた。
「なんだ? ここはどこだ? 魔王ベネスは? ゼカル様は……?」
なるほどな。
ゼカルの言葉通り、俺――魔王サトゥルヌ・ベネスは異世界『地球』の『日本』に住む『神谷影陽』という少年に、勇者シレーヌ・フェニーチェは『神谷勇美』という少女に転生したのだ。
――これは、かつて魔王と勇者だった2人の新たな人生のお話。
――宿命の戦いを終えて平和な日本に双子として転生した少年と少女の物語だ。
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https://kakuyomu.jp/users/nanakusa-yuuya/news/1177354054884972491
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