第3話 隔離された生活
ソフィアが仕事と家事を終えて自分の部屋に戻ってこれたのは、日付も変わったド深夜だった。
大きな屋敷の端の端。
元は物置として使われていた部屋を、ギリギリ人が住めるように片付けた一室。
「……つか、れた」
埃くさくてマットも薄っぺらいベッドに、ソフィアは倒れ込んで呟く。
結局、今日は水しか口にする事ができなかった。
父に書類を渡したはいいものの、すぐに新しい仕事を積まれて食事を取る暇もなかったのだ。
まあ、万が一食事を摂れたとしても、自分のことを下に見ている料理人や使用人たちからカビの生えたパンと冷たい具なしスープを与えられるだけなので、もはやどっちでも良いと言う気さえするが。
窓が無い部屋は薄暗く、どこかドンヨリとしている。
使用人も掃除しに来ないし、ソフィアも他の家事に追われているためなかなか綺麗に出来ず、もはや寝るだけの部屋と化していた。
というか、妹マリンが定期的にやってきて“遊び”と称し部屋を散らかして去っていくので、途中から片付けるのも諦めてしまった経緯がある。
六歳の儀式の日までは父や母の部屋に近い、ちゃんと部屋で暮らせていたが、魔力ゼロを出してからこの部屋に追いやられた。
両親は自分自身じゃなくて、魔法を使えるかどうかの有無で見ていた事が明らかさま過ぎて、ショックで何日も泣いた記憶がある。
今はもはや、なんの感情も湧いてこないけど。
「そうだ、パーティ……」
母メアリーに日程を聞いたところ、パーティの日までいくばくも無かった。
明日、明後日と時間が作れるかわからない。
まだ体力のある今のうちに決めておかないと……。
鉛のように重い身体を鞭打って起き上がり、取っ手が壊れたクローゼットを開ける。
「どれ着ていこう……」
と言ったものの、どのドレスも地味だしボロボロだし、とてもじゃないがパーティに着ていけるような物は見当たらない。
パーティ用に新しいドレスをねだる、という選択肢は最初からなかった。
どうせ却下される。
まだまだ着れるでしょう、お前なんかにかける金はないと、突っぱねられる未来が目に浮かぶ。
過去に何度もあった事だ。
妹ばかり豪華なドレスを買い与えられ、自分は粗末なものを何年も使い回される始末。
でもこの理不尽は仕方がない、全ては自分が
「これとこれで……いいや」
ドレス選びはすぐに終わった。
状態でいうと五十歩百歩なドレスの中から比較的なマシな物を……という風に、消去法で選ぶしかないから。
テンションはミリも上がらない。
どうせ会場では皆の笑い物にされるだろう。
それもいつものことだった。
薄暗い部屋の中、ひび割れた鏡にぼんやりと映る自分のやつれ果てた酷い姿を見て、ため息が漏れる。
(もう、無理……)
クローゼットを閉じて、ふらふらとベッドに舞い戻る。
今はとにかく、消耗しきった身体と心を癒やさないといけない。
「ハナコ、いる?」
呟く。
すると。
『きゅいっ』
ソフィア一人しかいないはずの部屋の隅で、可愛らしい鳴き声とぼうっと淡い光。
その光がちょこちょこと動いたかと思うと、ソフィアが横たわるベッドにひょいっとやって来た。
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