美少女騎士(中身はおっさん)とクラスメイト達 その03



「どうしたんだい、殿下。ニヤニヤして」


 ガブリエルとメルの様子を横目で眺めながら、レンは隣の席のルーカスにだけ聞こえるよう、囁くような小声で問う。


「あ、いや、ガブリエルがね。いつもは何事も大雑把で豪快な男の子なんだけど、メル・オレオ嬢が隣に座った途端、急にうつむいて静かになっちゃったなぁ、って思ってさ」


「へええええええ! それは興味深い。でも、ボクもクラスメイトの恋は応援してあげたいけど、メルのお相手は彼ではちょっと難しいかもね」


 レンが、滅多に見せない年頃の少女っぽい表情になる。そんなレンに殿下もつられてしまう。


「ええ? なになに、それ、どういうこと? メルにはもう誰か決まった人がいるの? 私にもおしえて!」


「こらこら『殿下』。前世の口調に戻ってるよ」


 はっ。


 あわてて周囲を見渡す。正面のメルとガブも含め、ふたりの会話に注目している者はいない、と思う。


「……コホン。レンと話しているとどうしても昔を思い出しちゃって」


「はははは、ボクも同じさ。お互い気をつけよう。それはそうと、……昨晩もおそかったのかい? 本当に顔色よくないよ。ボクもちょっと心配だな」


 レンまでもが、いつにもまして真剣な表情をする。最近あまり眠れなくて、……とは口にしない。前世の妹に心配をかけたくない。


「ええと、国立電信電話研究所や電機部品メーカーとの打ち合わせがちょっと長引いちゃって……」


「ふむ。またまた殿下はなにか画期的な『発明』をしてしまうのかい?」


「えええええと、その、トランジスタを……。とはいっても、私も専門外だから、原理だけは知っていたけど、実際の量産方法についてはこの世界の技術者達の力を借りなきゃどうしようもなくて……」


「なるほどね。たしかあちらの世界でトランジスタが開発されたのは、第二次世界大戦終結直後くらいだったかな? ……しかし公国のような小さな国だけでは半導体産業を発展させるのは難しいだろう。開戦に間に合わせるためにも、ぜひ同盟国である東洋の列強、わが皇国も一枚からませてくれたまえ。ボクと君、皇国と公国は一蓮托生じゃないか」


 転生してもかわらないなぁ、レン。前世で姉である私に何かおねだりした時の表情と同じだ。


「ははは。初めからそのつもりだったよ、皇国の巫女様。その代わりと言っちゃなんだけど……」


「わかってるさ。つい先日世界に先駆け我が皇国で『巫女の予言』通りにカビから発見された抗生物質の精製と商品化に関しては、両国での共同研究ということにしよう」


「助かるよ。こちらこそなんとしてでも開戦に間に合わせなくちゃならないし」


……でも、これって、この世界の未来を決定しかねない重大な問題のひとつだと思うけど、こんなノリで簡単に決めちゃっていいのかなぁ。


「ふふふふ。ボクは生真面目な殿下がいま何を心配しているのか、手に取るようにわかるよ。でも、ボクらが異世界知識を使うのは、なにもこれが初めてじゃない。他の転生者達だって同じ事をやっているんだし、気にするだけ無駄さ」


 そ、そうかな。そうかもしれないね。そもそもアレの開発に比べれば、たいした問題じゃない……か。


「それよりも、殿下。今日が何の日か覚えている、……よね?」


 え? えーーーと、なんだっけ。この身体の誕生日はもう過ぎたし、公王宮での誕生パーティは月末だし。


 ルーカスは、きょとんとした顔でレンを見る。


「やっぱり忘れていたか。我々にとって極めて重要な日、……皆既月食だよ。公国の標準時で今晩22時過ぎだ。守護者になってもらってから、ウーィルははじめてだろ、月食。もう話をしたのかい?」


 え? ……あっ? あああああ? そうだった。ま、まずい。すっかり忘れていた。


「ど、どうしよう。ウーィルに伝えなきゃ。いますぐ騎士団に電話すれば、……いや、今は仕事中か。電報の方がいいかな」


「ふふふ。その様子じゃあ、まだ知らないようだね、殿下」


 え? なにを?


「ウーィルに急いで電話する必要などない、ということさ」


 だから、それはどういう意味?


 いつものことだが、この前世の元妹は必要以上に遠回しのくどい言い回しをする。たまにイライラさせられるほどに。






「ちょっとちょっとレンと殿下。今度はあなた達ふたり? なに親しげに内緒話をしているの? 私にもおしえて!」


 ほら。さっさと重要なことを言わないから、向かいの席のメルが会話に割り込んできたじゃないか。


「ふふふふ。知っているかい、メル。今日の午後、転入生が来るらしいよ?」


 え?


 メルが驚く。もちろんガブも、そしてルーカスも驚いている。


「ええ? こんな中途半端な時期に? っていうか、なぜレンは知ってるの?」


「それはね。転入生が私と同じ皇国の出身、.......という設定になっているからさ。辻褄を合わせるために騎士団にいろいろと協力した皇国大使館から情報をもらったんだ」


 は?


 レン以外の三人が同時に首をひねる。その様子を見て、レンが笑う。


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