美少女騎士(中身はおっさん)と同僚女性騎士達


 公都。中世時代からの伝統を誇る公国騎士団の駐屯地。


 魔導騎士ウーィルはシャワーを浴びている。訓練終了後、女性騎士用のシャワー室で汗を流しているのだ。


「うーん、この身体。素早いのはいいけど、やっぱり小さすぎるよなぁ」


 ウーィルはふと身体を洗う手を止め、しみじみと自分の腕を見る。


 それは、あまりにも細く短く柔らかく、そしてか弱い。我ながら、とても剣を振るう者の腕とは思えない。この姿になる前、魔導騎士ウィルソンのゴツくて固くて毛だらけ傷だらけの腕とは大違いだ。


 一応ことわっておくと、オレは決していまのこの身体がイヤというわけではない。そりゃ突然こんな姿になった直後はおおいに混乱したが、前の身体のまま死んでしまうよりは百倍ましだ。


 さらに、どうせ元に戻れないのだから嘆いても時間の無駄でしかない、というのもある。なにより、この身体の能力、時空の法則を司る守護者とやらの能力は、魔導騎士としておおむね満足のいくものだ。ドラゴンにもヴァンパイアにも負ける気がしない。


 しかし、それでも不満がないわけでもない。


「もう少し身体が大きかったら、あのヴァンパイアをとり逃がすことはなかっただろうになぁ」


 この身体、一撃で相手を切り伏せるには最強だ。しかし、対等の素早さをもつ相手に間合いに入られて肉弾戦になってしまうと、どうしても力が足りない。手足が短すぎる。……もっとも、元のウィルソンの身体だったら奴とまともに闘えた、とも思えないが。


 結局、あのヴァンパイアの正体はいまだに不明らしい。学園には公王家の守護を任務とする騎士達が多数貼り付いているそうだ。だが、騎士とはいえ彼らはあくまで普通の人間だ。ヴァンパイアに対抗できるとは思えない。


「殿下のことが気に掛かる。あの男(?)、ちょっと頼りないところがあるからなぁ。本能的に護ってあげたくなるというか。いっそオレが24時間身近に貼り付いてやりたいものだが……」


 とはいえ、学園にヴァンパイアが入り込んでいるという事実そのものが秘匿されている状況で、魔導騎士が出張っていくことは難しいだろう。オレ達、悪い意味で目立つからなぁ。


 ……いや、でも、しかし、だ。別に、魔導騎士が公王家の人間を護ってやりたいと思うのは、当然のことだ。オレが殿下の側にいてやるくらい許されるのではないか? レイラに頼んでみるか? 殿下の側に居たいと訴えたら、レイラはどんな顔をする? きっと……。


「……ち、ちがう。ちがうぞ。オレが心配なのは殿下のことだけではないぞ。あそこにはメルもいるんだ。親として心配なのは当然だろ?」


 実際にレイラ隊長が聴いているわけでもないのに、ウーィルは言い訳を始めてしまった。声に出して言い訳せずにいられなくなったのだ。そんな自分がおかしくて、おもわず苦笑してしまう。


 まぁ、学園にはレンさんがいる。あのヴァンパイアもほとぼりが冷めるまで、そうそう無茶はできないだろう。






「ウーィルちゃん先輩! どうしてそんな渋い顔しながらシャワー浴びてるっすか?」


 うわ、ビックリした。


 隣のシャワーブースから覗き込む顔。ナティップちゃんだ。シャワーのしずく、濡れた髪が貼り付いた顔が色っぽい。


「な、なんでもないよ。……オレ、何か言ってた?」


「えーと、ヴァンパイアがどうとか、……殿下が心配だとか、いつも側に居たいとか、二人でいちゃいちゃしたいとか」


 うそだぁ!


 ナティップちゃんがにやりと笑う。瞳がキラキラ輝いている。……これはうやむやに誤魔化すのはむずかしそうだなぁ。


「あー、何も聞かなかった事にしてくれると助かるかなぁ。あとでパンケーキ奢ってあげるから」


「わかったっす。……それはそれとして、いつも疑問に思ってることがあるっす。ウーィルちゃん先輩、そのほっそい腕でどうしてあんな長い剣を振り回せるんすか?」


 その疑問はオレももっともだと思うのだが、その答えは自分でもよくわからんのだよ。……っていうか、子供じゃないんだから、ひとのシャワーを覗くんじゃありません!


「腕だけじゃないっすよ。腰も足も胸もなにもかも、まるで小学生みたいじゃないっすか」


 なんだと! さすがにそれは失礼じゃないのか?


 って、こらこらこら! どうしてオレがシャワー浴びてるブースに無理矢理入ってこようとしてるんだ、この娘は。


「まぁまぁそう水くさいこと言わないで。おなじ魔導騎士小隊の女性騎士仲間じゃないっすか。洗いっこしましょう、っす」

 

 うわぁぁ、狭い。狭いぞ。裸のナティップちゃんと密着状態だ。抱きつくな。オレの身体をまさぐるな。身長が違うからプルンとした胸がちょうど目の前にある。触れる。あたる。なんて柔らかい。擦れるぅ。


「えへへ、ウーィルちゃん先輩、ホントお肌すべすべプニプニで幼女みたいっすねぇ。……やっぱり公王太子殿下ってロリコンっすか?」


 なななにお言っているんだ、おまえわ。


 ナティップちゃんがちょっと腰を落とし、正面からオレと目線を合わせる。興味津々の瞳で問いかける。


「参考のため私だけに教えて欲しいっす。ウーィルちゃん先輩とあの殿下、二人きりでどんなデートするんすか?」


 そ、それを聴いていったいなんの参考にするんだ、君は?


「それ、実は私も気になっていた!」「私も」「私もよ!」「私もききたい!」「おしえて!!」


 うわぁぁぁ! いつの間にか、同じくシャワーを浴びていたはずの女性騎士が沢山あつまっている。もちろんみな裸のままだ。


 公国騎士団。実戦部隊に女性騎士は多くはないが、音楽隊や公王宮守備隊、その他事務方を含めれば、駐屯地内ではたらく女性はそれなりの数になる。


 そんな若い娘達がオレを取り囲み、みな聞き耳をたてているのだ。全員全裸で。


「ききき君たちは、いったい何をやっているのかね。女子シャワー室の中とはいえ、若い女性が裸のままうろうろするんじゃありません」


 オレはおもわず目をそらす。彼女達の裸体を見ることができない。


 女性の身体を見るのが恥ずかしい、……などと、この年齢になって言うつもりはない。そうではなく、彼女達の親の気持ちになってしまうのだ。


 たとえば、だ。見た目は女性だが中身がおっさんである人間。要するにオレみたいなのが他にいたとして、そんな野郎がメルと一緒にシャワー浴びるなんてこと、親として許せるか? オレなら絶対に許せねぇもん。


「そんな堅苦しいこといわないで。みんな同じ女性騎士仲間じゃないすか! さぁ、素直に吐くまで逃がさないっすよ? 殿下とはどこまでやっちゃったすか?」


 ナティップちゃん(全裸)が、オレの幼女の身体(全裸)をがっしりホールド。その周囲を若い女性騎士達(全員全裸)が取り囲む。


 やめてー。だれかだすけてー。


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