美少女騎士(中身はおっさん)とパジャマパーティ その02
殿下の車が去って行く。それを見送りながら、ウーィルは独りごちた。
うーーむ。中身おっさんとしては、もうちょっとスマートに若者と接してやりたいのだが、殿下が相手だとどうも上手くいかないなぁ……。
今まで感じなかった肉体的精神的な疲れを一気に自覚してしまった。今日はさっさと寝よう。
我が家のドアをあける。そこは、勝手知ったる自分の家。……のはずだった。しかし。
なんだ、これは?
一目見て、あ然。その惨状に、ウーィルは声を失う。
ここはオレの家。先祖代々の貧乏公国騎士、オレオ家だ。
部屋数は無駄に多いが、リビングは決して広くはない。家具も少ない。そして、オレもメルも片付けや掃除はまぁそれなりにマメにやるほうだ。妻がうるさかったからな。
要するに、……要するに、だ。オレオ家はいつも綺麗、……とまではいかなくても、散らかってはいないはずなのだ。
なのに……、この床に散らばる大量の空の酒瓶は、なんだ?
そのうえ、家族三人が同時に腰掛けるのがやっとの小さなソファの上に、……見知らぬ少女が寝っ転がっている。おそらくメルと同じ年代の少女がふたり。折り重なるように。
……い、生きているんだよな?
おそるおそる近づく。気持ちよさげな寝息を確認して、ほっと一息つく。
よくよく見れば、ふたりとも妙齢の育ちの良さそうな少女だ。スケスケのネグリジェから覗く白い肌、はみ出した長い脚がなまめかしい。
んんん? この豪華な金髪縦ロールお嬢様には、見覚えがあるような……。
「ウーィル! おじゃましているよ!」
振り向けば、キッチンのテーブルにも少女がひとり。グラスを掲げて陽気に笑っている。
腰まである白髪をラフに束ね、前開きに帯の奇妙な寝間着。肩の上に小さな白ネコ。
「レ、……レンさん?」
「やっと帰ってきてくれたね! ボクは君と話したいことが沢山あったんだ、姉のことでね!」
酒臭い!
ああああ、レンさんの前のテーブルにも空の酒瓶が。
こ、こ、これは、オレがこの姿になる前、気分のいいときにチビリチビリと晩酌していた秘蔵の高級スコッチじゃねぇか。うわぁ、一滴残らず飲み干されている!
「お、お嬢様方、いったい何を……」
「何って、パジャマパーティさ。留学生であるボクはまだこちらに知り合いも少ないからね、週末になっても寄宿舎にいるしかない。そんなボクを、メルが自宅にご招待してくれたのさ。そこからはトントン拍子、仲の良い貴族のお嬢様方も庶民の家に泊まってみたいと言い出して、夜を徹して恋バナを語り合っているうちに盛り上がり、いつの間にか酒盛りに……」
ケラケラ笑いながら楽しそうに語るレンさん。
うわぁ。いったい何本酒瓶をあけたんだ? 我が家に有るはずの無いいかにも高級そうなワインは、もしかしてお嬢様方が持ち込んできたのか。
オレは頭を抱える。レンさんはともかく、彼女達の実家から怒られたりしないだろうな。
そ、そういえばメルは? この騒動の元凶である我が娘は?
「おねーちゃん!!!!」
背後から飛びかかる影。首に手を回し、いきなり全体重を預けてくる。
うわっ!
なんとか抱き留め支えてやれば、わが娘の真っ赤な顔がすぐそばで笑う。
「えへへへ、おねぇちゃーーーん、おかえりぃぃぃ」
いつと同じ寝間着、上半身丸首のシャツだけの娘。やっぱり酒臭い。
お、おまえ。オレだからなんとか支えられたけど、普通の人間にそーやっていきなり飛びついて抱きつくのは危険だからやめさない。
「おねえちゃんにしかやらないもん。あ、あとは、お父さんとジェイボスさん」
あの犬コロもだめだ! 別の意味で危険だから絶対にダメだぞ!!
「えええええ? 自分ばっかり殿下と仲良くしてるくせにぃ」
……はぁ? なんのことだ?
くっくっくっくっく。
隣でレンさんが含み笑い。そして、両手で広げるのは、……雑誌? 公都でもっとも売れている週刊誌のグラビアページ?
「ウーィル。当人達はまだ知らないだろうけど、いま公都はこの話題でもちきりなんだよ!」
見開きの大きな白黒写真。イマイチ不鮮明なのは、対象まで距離があるものをむりやり拡大したからか。
……ん? これはああああああ!
目を見開き凝視。そしてオレは再び頭を抱える。
それは、おそらく公王宮の正門の外から撮られた写真。百メートルほど先の正面玄関前に豪華な馬車が停まっている。
たぶんルーカス殿下と思われる少年が手を取る相手は、……馬車から降りるセーラー服。
そして、タイトルに踊る大きな活字。
『ルーカス殿下、お妃候補は美少女魔導騎士?』
『すでに陛下公認、婚約発表はハイスクール卒業後か』
『きっかけはドラゴン退治?』
『国内外、各界からお祝いの声あいつぐ』
うわぁぁぁ。どうしてこうなった!
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