ノルウェイの虎

夢水 四季

出会い

真っ暗闇のノルウェイの森で、俺は一匹の虎と行き遭った。


 ここはノルウェイだ。ノルウェイのはずだ。

 針葉樹林に囲まれた、冷たい土地。

 クマ、トナカイ、キツネならまだ分かる。

 何でここにトラさんが⁉

 えーっと、虎に遭った時の対処法は……、死んだフリ、いやクマと一緒かよ⁉

 虎はじーっと俺を見つめている。俺を狙っているのだろう。ああ、思えば短い人生だった。今まで日本で暮らして来て、ちょっとしたノリで北欧旅行に行ったりなんかして。海外をなめていた。目の前に虎がいるのは事実、きっとどうやったって助からない。

 ただ一つ心残りなのは、俺が未だに童貞だということだけ!

 ああ、もし転生できるなら、今度はイケメンでモテまくりの人生イージーモードがいい。


 虎の口が開いた。


「おわあ、こんばんは」


 俺の思考が止まる。

「え、今、しゃ、しゃべった?」

「我が臆病な自尊心と尊大な羞恥心……」

「萩原朔太郎か中島敦か、ちゃんとキャラ決めとけよ!」


 いつの間にか辺りはすっかり朝になり、虎の姿は消えていた。



                                   終わり


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ノルウェイの虎 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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