第177話 一回戦第八試合 決着
イケる。
俺の直感がそう伝えている。
今、バハルのブレスが飛んでこようとしている時、俺の気分は不思議と落ち着いていた。
それもこの手に握る、グレンのおかげだろう。
グレンはこの試合中もパワーアップを繰り返し、今や、俺の身長以上の長さにまで進化していた。
そして、内包する魔力も増していたのである。
来い。今の俺ならば、貴様のブレスを必ずや斬り裂いて見せる。
バハルはブレスの体制に入っている。今更他の攻撃をするわけもない。
口の周りの魔法陣が解け、バハルの前に巨大な風魔法の大筒が浮かび上がる。そして、口の中には先程のブレスが霞むほどの超高温のエネルギー体が見え隠れした。
その時は来た。
バハルは大きく口を開き、ブレスを発射した。大筒の効果により、ブレスは細く凄まじいスピードで発射された。
それと同時に、
「来やがれッ! ブレスだろうが何だろうが斬ってみせる!」
自らを鼓舞し、グレンを振り下ろす。
グレンとブレスがぶつかりあった。
今まで受けたこともない衝撃がグレンから伝わってくる。
腕はブルブルと震える。また、周りの超高温により、鱗が少しずつ黒く焼けていく。
耐えろッ! 俺の身体よ。このブレスを斬り、勝負に勝つのは俺だッ!
目を見開いてグレンを確認する。
グレンもありったけの魔力を放出しながら今もブレスとぶつかり合っていた。
そして、グレンにぶつかったブレスは四方八方に飛び散っていき、俺の周囲に炎の壁がいくつも出来上がっていく。
グレンはよくやってくれている。ここで俺がへばるワケにはいかん!
グレンを持つ指は真っ黒に焼けてくる。余りの熱さに、手の感覚が麻痺しているのだ。だが、焼けた指同士がくっつき、何とかグレンを支えていた。
ぐううぅ! 指に魔力を集中し、再生を高めるしか無いッ!
そこからは一進一退。ブレスで焼ける指と集中した魔力での再生が拮抗し、なんとかブレスを凌いでいく。
指に魔力を集中したため、顔の一部が焦げてくる。
くっ、左目が……、見えなくなっちまった……。だが……、もう少しだ。勝つのは……、俺だーーーーーッッッ!!!
最後の魔力を振り絞り、懸命に耐え抜いていく。
そして、ついにブレスが弱まった。
バハルも全霊の力を振り絞って放出したに違いない。これほどの熱量を生み出すにも魔力を膨大に消費するのだ。
後は……、俺の身体さえ動けば……、俺の勝ちだッ!
一歩、足を前に動かす。
焼けた足はかろうじて動く程度だった。動きが重い。
だが、俺の再生能力はじっくりと、確実に俺の身体を再生していく。
また一歩、足を動かした。
先程よりも動きは軽くなった。
そして、また一歩、前に出た。
煙が晴れ、バハルの姿がようやく確認できた。
奴は口をパクパクと動かし、信じられないものでも見ているかのように目を見開き、大粒の汗が額にびっしりと浮かんでは流れ落ちていた。
また一歩、前にでた。俺の再生能力はすでに足の感覚を取り戻した。意思に沿って足が動いたのだ。
「ぬぅりゃああああああぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
グレンを正眼に構えたまま、俺は目一杯のダッシュをした。
驚愕の表情をしたままのバハルは一歩も動かなかった。いや、動けなかったのだろう。それほどまで、あのブレスに全てを賭けていたに違いない。
グレンを前に突き出す。
グレンの先端はまるで吸い込まれるかのようにバハルの胸に突き刺さっていった。
グレンを通して、振動が伝わってくる。バハルの命の鼓動だ。
オレは手を目一杯回す。グレンがバハルの胸の中をグルリと周った。心臓の周りを破壊しつくすのだ。バハルの胸からブシュ! と血が吹き出す。
手に伝わる振動がどんどん弱まり、それが確かな手応えとして伝わった。
「俺の勝ちのようだな……」
バハルの目の周りには血が滲み、顔中の穴という穴から血が吹き出す。
「こ、この下等種がぁ……」
俺はグレンから手を離した。グレンは心臓から充分に血を吸い上げ、そろそろ食事も終わる頃だ。
俺は俺でやらねばならないことがある。それは……。
「……、ニュ、ニュートの剣がバハルを貫いたーーーーーッッッ!!!」
「凄まじい執念です! まさか、あのブレスを耐え抜き、そして、反撃までしてみせるとは……。私はニュートの戦力を大幅に間違えていましたッ! まさか、伝説の竜、神竜、破壊竜と呼ばれたバハルを上回るとは……、あり得ませんッッッ!!!」
「ん? ニュートが大きく口を開きました! こ、これは一体……、ッ! な、なんと! ニュートが、バハルの顔に噛みつきましたッッッ!!! い、いやッ! ニュートの口が大きく変化していきますッ! これは、の、飲み込むのかッ!」
「こ、これは……、バハルの能力を奪い取る気ですッ! 彼ら、蛇人族は獲物を喰って、その能力や思考パターンなど様々なものを奪うと聞いたことがありますッ! まさにその瞬間を見ることができるとはッ!」
ニュートは口をどんどん大きく開いていく。
ニュートはすでにバハルの頭部を飲み込んでおり、さらに齧り付くように肩口も口内へ入れていく。
その凄惨な食事を邪魔する者は誰もいないのであった。あの解説者達でさえも絶句して口を開けたまま、何も発することすら出来ないでいるのだった。
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