第169話 一回戦第七試合 巨人族代表 ギガース VS アヤカシ代表 グレン



「一回戦第七試合が始まりますッッッ!!! 東の方角! 巨人族代表ッ! ギガース!!!」


 まず現れたのは巨大な足だった。観客である天使たちの何十倍もある大きな足。そして、太い巨木のような脚部。そして見上げると初めて見える上半身。腰に皮を巻き付け、右手には棍棒、その先端から鎖が伸びており、左手にもつ鉄球に繋がっている。頭部も長大にして巨大。大きな下顎からは牙が二本、上唇の上に生えている。


「さぁ花道に巨人が入ってきましたッ! 今大会で最も身長が大きい戦士となっておりますっ! 一歩あるくごとに会場に重低音が響き、揺れが発生していますッ!」


「ギガースですが、身長は10メル以上、体重も1トン以上と破格の大きさとなっています! 今大会の舞台は彼が戦いやすいよう、80メル四方の大きさに設定されました。が、彼が舞台に立つと狭い印象を受けますね!」


「おっと、ギガースの身長に合わせて舞台の大きさが決まっていたのですね? しかし、彼も大きいですが、その手に持ったモーニングスターもまた破格の大きさですねぇ!」


「あの武器も伝説の武器でして、なんでも巨人族の神がその昔授けたものだそうです。そして、代々の巨人族長に受け継がれ、そして今代の族長、ギガースに手渡された由緒ある武器ということです。しかも凄いのがこれまでドラゴン族と戦い続けてきているのにあのモーニングスターは一度も壊れたことがないそうですよ!」


「そ、そんなにすごい武器だったんですね! ただの鉄球ではないということでした。さて、ギガースの入場の次は……」




「西の方角ッ! アヤカシの国代表! グレンっ!!!」


 西の方角から入ってきたモノは全身黒ずくめ。その姿は陽炎のように揺らめき、実態がわからない。ただ、手に持っている長大かつ黒身の刀だけがはっきりと見ることが出来る。


「さぁ、対するはアヤカシの国代表、グレン! こちらの戦士ですが何か新しい情報は入ってきてますでしょうか? ローファンさん?」


「えぇ、東国の神に直接伺って参りました! 何でも東国において、このトーナメントに出場するために壮絶な戦いが繰り広げられたそうです。そこで並み居る強豪たちを全て切り捨て、勝ち上がったアヤカシこそグレンだったとのことですね。あの刀と呼ばれる東国独自の武器でどこまで戦えるのか、楽しみですよ!」


「そうですね、相手は優勝候補にも名を連ねるギガース。激闘になることは間違いありません! さぁ、両者、入場しましたッ!」


「それにしても両者の大きさの違いは凄いことになってますね。方や、2メル弱、方や10メル以上ですからね。しかもギガースの武器は遠距離、近距離を問わず攻撃できるモーニングスターですから……、グレンがいかに東国一の剣豪であってもキツイ勝負になるのではないでしょうか」




「では、一回戦第七試合、巨人族代表! ギガース! VS アヤカシ代表! グレン! レディ…………、ゴーーーーーッッッ!!!」


 舞台内の結界が消えた直後、グレンの姿がフッと消えた。


 ギガースが素早く棍棒を操り、鎖をムチのように自分の右へ振ると、そこで大きな衝撃が走る。


 ギイイイィィィィィンッッッ!!!


 そこにはグレンの黒い刀とギガースの鎖がぶつかり合っていた。


「おっと、仕掛けたのはグレン。姿を消すようにギガースの右方向から迫ったようですが、ギガースも見えていたようですね。鎖を操り、進行を阻止しました!」


「ギガースの鎖を見てください! まるで生きているかのように動き、グレンの刀とぶつかり合っています!」


 ギガースは腕を軽く操作している。それだけで鎖はまるで生き物のようにグレンに襲いかかっていった。グレンも応酬し、鎖と刀が何度もぶつかり合う。


 激しく火花が散りながらもグレンは素早いステップで常に移動し、鎖を躱しつつ、ギガースへ近づこうとする。


 ギガースの鎖はグレンを近づけさせまいと、時に蛇のように近づき、時にムチのようにしなり、グレンの足を止める。


「グレンの体が消えるように移動しています! 私の目では追いきれませんが、ギガースには見えているようですね」


「えぇ、私の目にもグレンの動きはまるで見えません! ですが、ギガースはグレンの移動する場所にしっかりと鎖で攻撃をしかけていますから見えているのは間違いないでしょう!」


「しかし、あの鎖は一体……、生きているように見えるのは私だけでしょうか?」


「そうですよね。あの鎖は魔力を与えられることによって動いているそうです。手で動かしているように見えますが、あれは鎖の動きに手が連動して動いているだけで、鎖自体が動いているんですよ。もちろん魔力によって制御しているのはギガースですから動かしているのはギガースで間違いありません」


「なるほど、魔力によって鎖自体が動いているんですか! それで生きているように見えるんですね。しかし、グレンは厳しいでしょうか。先程から前に進むことが出来ないようです」


 グレンは大きく後方へジャンプし、距離をとった。


 そして刀を上段に構えると、口角を上げて笑みを浮かべる。


「距離をとったグレンですが、笑ってますね! 強敵とやり合えるのを楽しんでいるかのようです!」


「先程は瞬間的な移動で攻撃していましたが、少しやり方を変えるのでしょうね。グレンほどの剣豪ともなればやり方は色々とあるでしょうから、期待しましょう!」


 グレンは頬が引きつるほど口角を上げると、また消えるように移動した。そして、現れた先に鎖が襲いかかる。


 だが……、


「ん? あーっと、鎖がグレンを攻撃しましたが、まるで残像のようにグレンの体がまた消えてしまったッ! こ、これはーーーーーッッッ!!! 一体どういうことでしょうかッッッ!!! 私の目にはグレンの体が5体あるように見えますッッッ!!!」


 突如として出現した5体のグレン。ギガースは眉毛をピクリと動かしつつも鎖へ魔力を込めていく。そして次々と攻撃を始めるのだった。


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