第168話 第六試合 決着



「ル、ルシフェルが奪い取った弓を放ったーーーッッッ!!! か、会場が再び爆炎に包み込まれるーーーッ!」


「まさか、マリーンが腕を切られてもギブアップしないとは思いませんでしたね。普通の神経ならば負けを認めてもおかしくない状況でしたが……、ギブアップしなかった以上、試合が続けられてしまいましたッ!」


「もはやマリーンの生存は絶望的かーーーッ! ん? 煙の中になにやら黒い誰かが動いております!!! 煙がすごくてよく見えませんッ! 一体、舞台で何が起こっているのでしょうかッ!」




   ***




 ルシフェルはこめかみをヒクつかせ、目の前の存在を睨みつけていた。


「貴様……、私の邪魔をするのか? それとも、そこの女に変わってお前が相手をしてくれるとでも?」


 ルシフェルの前には黒い鎧を着込んだ人形ひとがたの男がいた。その男は先のルシフェルの一撃を見事に受けきり、後方にいるマリーンを守ったのだ。


 周囲は爆炎が舞い、外からこの舞台の中はほぼ見えなくなっている。


「あいにくだが、アンタの相手をしている暇はない。俺はコイツを回収するだけ。もう気は済んだだろう? 見逃してもらえると助かるんだがね……」


 黒い鎧の男はルシフェルの剣を彼に戻すように軽く投げた。ルシフェルはそれを掴みつつも視線は離さない。


「見逃す? 貴様ほどの強者をか? 私は強者を求めてここに来た。今の試合はいささか消化不良でね。是非とも貴様もいただいてしまいたいのだがね」


「ならば、このトーナメントを優勝してみろ。そうすれば相手をしてやる。アンタの気が済むまでな」


 ルシフェルはさらなる激闘の予感に満足したようにうなずいた。


「ふむ、その言葉、忘れるなよ」


 ルシフェルは剣を鞘に収めた。そして、未だ煙が晴れない中、振り返るのだった。


 黒い人形は素早く、気を失っているマリーンを抱きかかえ、その姿を消す。


 舞台にはルシフェルがただ一人残されるのだった。




   ***




「あああーーーッッッ! 舞台が晴れてきましたッ! 立っているのはルシフェルただ一人! よって勝者、天使族代表! ルシフェル!!!」


 舞台が大歓声に包まれる。


「凄まじい歓声です!!! さすが我らのルシフェルですね!」


「えぇ、全くです。マリーンは跡形もなく消え去ってしまいましたね。最後までギブアップせずに戦い切るなんて、敵ながら見事、としか言いようがありません!」


「それにしても、煙の中で動いている人がいるように見えたのですが……、気のせいだったんでしょうかねぇ?」


「ま、そういうこともあるでしょう。第一、ルシフェル先輩のあの一撃が炸裂した中、誰かがその炎の中に入るなんてこと、出来るわけもありませんしね」


「うーん、そうですね。さぁ、舞台は早速、修理の部隊が補修し始めています。いやぁ、第六試合も盛り上がりましたね」


「えぇ、なんといってもルシフェル先輩の人気は凄まじいものがありました」


「ですが、ローファンさん、ここから第七試合、第八試合には巨人族代表のギガース、それからドラゴン族代表のバハルが登場しますね」


「えぇ、非常に楽しみな試合が待っているといっていいでしょう! もし、巨人族とドラゴン族の対戦が実現すれば、永年を戦い合ってきた彼らの戦争に決着がつくかもしれませんからね!」


「それは楽しみです! さぁ、舞台の修理が終わったようですね。では、第七試合が始まりますッ!」




   ***




「ううぅっ…………、お、お姉ちゃん……。うわあああぁん」


 チコの目には涙が溢れかえり、そのまま泣きじゃくってしまう。


 だが、誰もチコを慰めようとするものはいなかった。村のモニター前に集まっていた誰もが英雄の死に涙していたのだ。


「す、すまねぇ……、マリーン。まだ若いお前を死なせることになっちまって……。こんなことなら俺が行けばよかった……」


 村長の頬にも涙が流れていく。村長は泣きながらもチコの頭をギュッと抱きしめた。


「チコ。すまなかった……。村長である俺の判断ミスだった……」


 チコは村長の胸で止むことなく泣き続けるのであった。


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