第161話 打ち合い



「そこじゃっ!」


 バッジの剣は時間を経過すればするほど冴えわたってきているようだった。いや、単純にボクの動きに慣れてきたという所だろうか?


「くっ……」


 ボクの自慢の爪にヒビが入ったため、すぐに魔力を込め直して修復する。


 バッジのヴァンパイアキラーとも言える聖剣はボクの爪よりも固く、何度か打ち合うと、爪が割れてしまうのだ。しかもあの大盾は、何度も攻撃を受けているにも関わらず全くビクともしなかった。


 ボクの心には後悔の念が湧いてくる。この数万年、周りに敵がいないことをいいことに全く実戦や訓練なんてしてこなかったのだ。


 あの時、動いてさえいれば……、などと思ったところで、目の前に強敵が現れてからでは遅かった。


「嬢ちゃんの動きは洗練されてねぇんだ。全く戦い慣れてない。こんなんじゃぁ、すぐに動きが読まれちまうってもんだ。いいか? 熟練の戦士ってのは攻撃するタイミングを読まれないよう、動きに隠すんだ。ホラッ! こうやってやるんだよ!」


 バッジの一撃を受け止めた爪が3本も断ち切られる。瞬時に魔力を流して爪を復活させるが、バッジの猛攻は止むところを知らなかった。さらなる攻撃によって、ボクの爪はどんどん叩き折られていった。たまらず、大きく後方ジャンプして逃げると、細い魔法を連射しつつ、バッジが近づいて来れないよ牽制した。


 ふぅーっ、ふぅーっ……。


 ボクはこの期に及んでもなお、バッジを強敵として認めたくはなかった。だが、もうあとがないのも事実だった。


「ボクをここまで追い込むとはね、感心したよ。だけど、勝利だけは譲れないんだ。ボクはこれでもヴァンパイア族の王だからね」


 バッジは眉毛をピクリと動かした。


「ほぅ、まだ何かあるって事だな。受けて立とうじゃねぇか! おめえは攻撃がどんなものだろうと、この盾で受けきってみせる。さぁ、きやがれ!」


 バッジの決意を聞いて、ボクも諦めた。


 できることならこの技は使いたくなかったんだけどな……。


 ボクは全身を脱力し、魔力を自分の心臓に集めた。ドク、ドク、と心臓が力強く早く動き始める。やがて心臓の動きに合わせて手足がビクッビクッと動き始める。その鼓動はどんどん速くなっていき、それに合わせてボクの手足が長く変化していく。そしてこの体も大きく変化し、着ている洋服も、みるみるうちに逞しい体毛へと変化した。


「あーーーっと! キュイジーヌの様子がおかしくなっています。何があったのでしょうか? こ、これはっ! キュイジーヌの体がどんどん大きくなっていきます!」


「これはおそらく、変身ですね! 人狼族も人間のような見た目から狼のような姿に変身しますが、ヴァンパイア族も変身を持っていると聞いたことがあります! 私も初めて目にしますか、どのような変身なのか非常に興味深いですね!」




 キュイジーヌの体長は優に倍以上、3メルを超える大型の魔獣と化していた。体中を覆い尽くす体毛は黒く、長く、魔力を帯びている。あの美しかった顔も、巨大になったコウモリのような顔つきに変化していた。そして、細かった腕は巨大なコウモリの翼になっている。違いといえば、鋭く長い爪が生えており、その爪の太さも変身前とは比べ物にならないほどに太くなっていた。


「なんてこった……、こりゃあ……タフな戦いになりそうじゃねぇか」


 バッジは額に汗をたっぷりとかきながら、変身したキュイジーヌを見つめる。そして、すぐさま背中の大樽に手を突っ込むと大きな魔石を2つとりだした。一つは盾に、一つは剣の柄に、その魔石を突っ込んだ。


「クハハッ! ボクが変身したからにはオマエは生かして帰さないよ! この爪の餌食となるがいい!」


「あぁぁーーーッッッ!!! キュイジーヌが巨大化したにも関わらず、まるで消えるようなスピードです!」


 ドシィッッッ!!!


「重い一撃がバッジに……、な、なんと! バッジが防いでいます! あの大盾で変身、巨大化したキュイジーヌの攻撃を防ぎましたーーーッ!」


「くっ……、なんだってんだい! その大盾は……、忌々しい」


「へっ! こんなこともあろうかとパワーアップのための魔石を用意しておったんじゃ。まさか初戦から使うとは思わなかったがよ」


「見てください! リサさん! あの大盾の下には地面に突き刺せるよう尖っているのですが、床の石が数枚ほども砕け散っています! これは凄まじい威力ですよ」


「のわっ! 本当ですね! 攻撃する方も凄まじければ、それを防いだ方も凄まじい防御力です! あの大盾すごすぎですね!」


「凄いのはあの大盾だけではないですよ。バッジの腕もパンパンに膨れ上がった状態です。キュイジーヌの攻撃をまともに防ぎ切るだけのパワーを持っているというわけです!」




「へっ、正直、ギリギリだったけどよ。その攻撃さえ防いじまえばこっちのもんよ!」


 バッジは盾の横からキュイジーヌの翼を攻撃する。もちろんキュイジーヌも黙っているわけもない。応戦するべく、その剣と激しく打ち合う。


「な、なんとっ! パワーアップしたキュイジーヌですが、バッジは互角に戦っています!」


「バッジが変身した後に使用したあの魔石の影響が大きそうですね。あれを剣にもはめ込んでいましたから、相当に出力が上がっているものと思われます!」


「さぁ、またしても激しい打撃戦になりました! 果たしてこの激闘を制するのはどちらなのかッ!」



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