第159話 直接の攻防


 バッジの持っている大盾にキュイジーヌの魔法が直撃する。


 辺り一帯は一瞬にして氷だし、気がつけば氷の山がそびえ立つ。


「こ、これはーーーッ! バッジが氷の山の中に閉じ込められたか!」


「凄まじい威力の氷魔法ですね! これでは生きていたとしても、相当なダメージを免れません!」


「果たしてバッジは生きているのかーーーッ?」


「フフッ、これでボクの二回戦進出は間違いなさそうだね。楽な相手で助かったよ」


 余裕の笑みを浮かべるキュイジーヌ。


「さぁ、さっさとボクの勝利宣言をしてもらえないかな?」


 キュイジーヌは解説者に目をやった。


「うーん、お持ちください、まだバッジの生命反応がわずかですがあるのです! バッジが眠ってしまっている可能性もありますので、ダウの判定としてカウントを取りましょう。この場合テンカウントで、キュイジーヌの勝利が決まります!」


 解説者のカウントダウンが今始まろうとした時、氷の山にひびが入るのであった。


「な、なにっ! ボクのコキュートスが!」


 キュイジーヌは目を見開く。


 氷の山には上下に大きくヒビが入り、真ん中から真っ二つに分かれた。そしてそこに立っていたのは、炎を宿した剣を持っているバッジだった。


「勝負が決まるにはまだ早いだろう。この通りワシはまだピンピンしてんだからな」


 バッジは炎の剣を横に一閃すると氷の山が一瞬にして蒸発していくのだった。


「こ、これはすごい! バッジの炎の剣でキュイジーヌの氷の山が溶かされてしまったーーーッ!」


「お遊びは終わりかい? お嬢ちゃん。なら今度はこちらから仕掛けさせてもらうぜ」


 バッジは炎の剣を大樽に戻すとまた白く輝く剣を構える。そして、姿を消すように飛び出した。


「は、速い! あの体型からは想像もできないほどの速さです!」


「くっ!」


 キュイジーヌはとっさに自分の爪を伸ばし、バッジの一撃を受け止めた。


 キイイイィィィン!!!


 甲高い音が鳴り響き、キュイジーヌはかろうじてバッジの攻撃を受け止めた。


「ほぅ? わしの剣を受け止めるとは、なかなかやるじゃねえか」


「ボクはあんたにかまってる暇なんかないんだ! こうなったら直接攻撃でアンタを葬り去ってやる!」


 キュイジーヌは両手の爪を全て伸ばし、十本もの爪で攻撃を始める。その爪は一本一本が鋭い剣のようになっており、バッジの剣や大盾とぶつかり合い、火花を散らす。


「目にも止まらない剣戟です! 流れるような攻撃で付け入る隙を与えないキュイジーヌに対して、バッジは剣と大盾で確実にしのぎつつ攻撃しています!」


「キュイジーヌの激しい攻撃に対して、バッジはどこか堅実と言いますか、基本に忠実に見えますね」


「基本に忠実、と言いますのは?」


「おそらくバッジは、タンクとしての戦い方に慣れているのでしょう。まずは相手の攻撃を盾で受け、その隙をついて剣で攻撃する。これを実直に守っている印象ですね」


「なるほど、確かにローファンさんの言うとおり、バッジは盾で防ぐのがうまいですね!」


「えぇ、キュイジーヌの、あの激しい攻撃を一撃ももらわずに全て防ぎ切っています。これは、キュイジーヌにとってはきつい戦いになりそうですね」




「えぇい、しつこいジジイだね! その盾は一体なんなんだい!!!」


 バッジの大盾はキュイジーヌの攻撃をことごとく跳ね返し、それでいて無傷のままだった。


「バッジの大盾ですが、すごい防御力ですねぇ! キュイジーヌの魔法も攻撃も一切を受け付けておりません!」


「恐らく、多重付与がなされていますね。切る、叩く、突く、そして魔法に対して防御力が増すという付与術ですね。ここまで多くの付与を重ねると、通常は効果が薄くなってしまい、大した防御力にならないはずなんですが、そこは鍛冶のプロ。難しい多重付与をしっかりとこなしています」


「それにしてもあの盾の素材は一体なんなんでしょうか? ドス黒い金属のようですが……」


「あれは、地上でも最も固いとされるアダマンタイトをベースに魔力を織り交ぜて造っているようですね。そんじょそこらの剣では壊すことなど不可能といって良いでしょう!」


「なるほど……、おっと、キュイジーヌの攻撃が散漫になってきたか? バッジが一転して攻勢に出ています」




「嬢ちゃん……。オメェは何のために戦っているんだ? 男でも探しに来たのか?」


「そんな理由で来るわけ無いだろッ! このジジイッ! いい加減にくだばれ!」


「何を切れておる? 何を焦っておる? そんな信念のなさではワシには勝てんぞ?」


「へっ! 今度は説教かい? 全くジジイってやつは! ボクに説教したいなら勝ってから言うんだね!」


 キュイジーヌは焦っていた。とっておきの魔法も、自慢の長い爪による直接攻撃もあの大盾に完全に防がれているのだ。このまま攻撃をしていてもジリジリと消耗させられるだけ。それが見えているからこそ、打開したいという思いばかりがはやる。


 こんな屈辱……、初めてだよッ! RENにも、イヴリスにも、そしてこのバッジにも……。


 キュイジーヌの頭には自らの過去が思い返されていくのだった。


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