第108話 Fina1の話
「まずはありがとう。助けてくれて。お前には本当に感謝している」
Fina1はそう言うと、深く頭を下げた。
「うん? Fina1の洗脳を解いたのは俺じゃないし、お礼ならエルガに……」
「あぁ、もちろん、エルガにまた会うことがあれば謝罪したいと思ってる。だけど、アンタが色々と骨を折ってくれたんだろ? 見てりゃわかるぜ。これでも相手を見ることに関しちゃ自身があるんだ」
そりゃそうか。プロゲーマーだもんな。相手を知ることは絶対に必要なはずだ。
「でも、みなさん元気そうでよかったですよ」
「あぁ、落ち込んでいられなくてな。あの事件の後、お金もないし、装備もなかったからな。ま、レベルだけは高いからクエストを数多くこなして稼いでるよ。多分だが、チコもミウはアンタと一緒にいればもっと稼げる! とか考えてるんだと思うぜ?」
「そっか。みんなはここで生きていくんだ」
Fina1は目を閉じて軽く頷いた。イケメンは何をやっても様になるな。
「あぁ、そのうち旅に出てみたいとは思っちゃいるが、まだ懐が寂しくてな」
「あ、そうだ。重要なこと言うの忘れてた。俺、みなさんを日本に返すことができるんですよ」
「……は?」
「残念なことに、俺自身は日本にいた形跡を神さまに消されちゃったみたいなんですが……、この城の人に呼び出されたあなた方なら、まだ日本に居場所があるんじゃないですかね?」
「マジか……。ま、後でメンバーに聞いておくか。っていっても俺は帰る気はないんだけどな」
「そうなんですか?」
普通にビックリした。Fina1といえば、ビッグネームなのだ。実績もあるし、相当に稼いでいたはず。それがいらないとは……。
「あぁ、レベルのおかげでこっちの世界で稼ぐのは全く問題なさそうだし。それにこの世界にはエルガがいる。あいつを倒すのが今の俺の目標なんだ」
なんというか、エルガといいFina1といい熱い男だな。
「そうですか。ま、行きたくなったらいつでも言ってください」
「あぁ。それとRENがよ。結構、落ち込んでたんだ。なんでもお前等とは元チームメイトだったんだって?」
「そうなんですよ。ま、アイツとはチームメイトであること以前にライバルって感じでしたけど」
「そっか。ま、そのうち話してやってくれ。なんだか霞さんに剣を向けてしまったことをえらい後悔してたぞ?」
それはまたなんともRENらしいな。RENは霞さんに惚れてたし。
「わかった。RENも操られていただけだしな。それとなくフォローしておくよ」
Fina1はニッコリと頷くのであった。
***
翌日。空はすっきりと晴れて観光するには最高の日だ。しかし……、
「うぅ……。ごめん。飲み過ぎたみたいだ。ボク、もう無理……」
「ごめんなさい。姉さんと飲む機会なんて余りに久しぶりすぎて……。飲み過ぎちゃったみたい。今日は一日大人しくしてるわ」
二人は遅くまで飲み過ぎたようで顔色が悪くなっている。
仕方なしに一人で出かけることになるのであった。
俺は待ちをぶらりと歩きながら冒険者ギルドと呼ばれる場所を探していた。昨日は勇者一行に少しばかりのお金をいただいてなんとか宿に寝ることが出来たが、このままでは野宿することになってしまう。俺だけであればそれでも問題はない。だが、リーダーと霞さんを野宿させるには抵抗がある。俺だって男なのだ。宿代と観光のためのお金くらいは稼げるはず。
「お? あったあった。あれが冒険者ギルドか。はぇ~~~。大きな建物だな」
ついた先には見上げるほどの大きさの木造の建物だ。木造なのに5階建てになっている。あまり地震が来ない地域なのかな? などと思いつつ木製の重い扉を開いた。
中は薄暗いホールになっており、大きなテーブルが並んでいる。そこに冒険者らしき者たちが話し合ったり、休んでいる。
壁には依頼らしき張り紙が多数張り出されており、それを眺めている人たちでごった返していた。
朝の時間帯だけあってギルド内は喧噪に包まれていた。
「うーん、冒険者の登録はどこに行けばいいんだろう?」
俺が首を捻っていると、
「おう、そこのあんちゃん。見ねぇ顔だな。他所者か?」
振り返るとやたらガタイのいい男が俺を見下ろしていた。
「あぁ、そうなんだ。このキルドに冒険者の登録をお願いしたくてね」
その男は俺の体をジロリと睨み付ける。
「へぇ。隙のねぇ奴だな。まぁいい。ここへは何の用で来たんだ?」
ん? 俺の実力がわかるのだろうか? 普通、新人が来たら絡んでくるのが定番だと思っていたのだが、どうやらここはそんなことはないらしい。
「冒険者の登録をお願いしたいんだ。あと、簡単な討伐依頼を受けたいんだけれど、どこへ行けばいいのかわからなくて」
「ふむ。登録するには、試験を受けてもらう必要がある。ま、簡単な実技試験だ。ちょうどあそこの受付が開いたようだ。行ってくるといい」
「ありがとう。助かったよ」
男の親切な案内もあり、登録はあっという間に完了した。実技試験というのも、案山子に剣で切りつけるだけの簡単なものだった。恐らく太刀筋でも見ていたのだろう。
こうして、俺の手元には冒険者の証明書が握られていた。
「よし、一狩り行きますか!」
俺は門を抜けると、獲物を狩るべく荒野へ向けて疾走するのであった。
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