第105話 武器屋



「ここが聖教国か……」


 眼前に広がる広大な町並み。ところ狭しと軒を並べる店の数々はこの町が相当に発達していることを意味している。


そして、店の前には多くの人間たちが行き交い、気をつけて歩かないとぶつかってしまうほどだ。


「この辺りは商業区なんだね」


 リーダーは武器や防具を売っているお店があると目が釘付けになっていた。


「何か見ていきましょうか? せっかく来たんだし」


「いいの?」


 リーダーは目を輝かせて俺の方を見る。まるで小動物のようなかわいさだ。


「いいんじゃないかしら? 私も見てみたいし」


 霞さんも賛成ということで、一番大きそうな武器屋を訪れることにした。


「お? ここが一番大きい武器屋か。どれどれ」


 お店の中に入ると、壁中に様々な武器が展示してあり、店の奥にはショーケースに入った豪華な剣も飾ってある。


「うーん……」


 さすがにリーダーの武器を見る目は真剣そのものだ。細かい意匠もじっくりと見てるな。


「どうです? リーダー。良さそうな武器はありました?」


 何の気なしに聞いてみたこの質問が悪かった。


「装飾にこだわるのはいいとして……、肝心の剣の”打ち”がもう一つだね」


 さすがリーダー。全く遠慮のない意見ありがとうございます。でもここってお店の中なんですよね。


「おいっ! ウチの商品に文句つけてくれるとはいい度胸じゃねぇか!」」


 やっぱりそうなりますよね~。って、これって俺が悪いのか?


「なんだい? ボクは思ったことを言っただけさ!」


 リーダーまで怒り出しちゃったよ。こりゃなんとかしなきゃ。また衛兵のお世話になっちゃうよ。


「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて。あ、店長ですか? すみません。すぐに帰りますんで」


 俺は店長を宥めるつもりで言ったのだが、


「あ? そうはいくかよ! こっちはな、ほとんどの品をこの聖教国で一番の刀鍛冶、スミスのとっつぁんの工房から仕入れてるんだ! ウチにある品物はどれをとっても一流の品しかねぇ! この国一番の武器屋を自負してるんだ!」


「へー、この程度で一番か。がっかりだよ」


 だ~、もうっ! リーダーが火に油を注ぎまくってくる! どうすりゃいいんだ!


「てんめぇ~、表へ出やがれ! ヤキ入れてやる!」


「へぇ……、ヤキ入れられるのはどっちだろうね?」


 あ……、ダメだこりゃ。もうどーにもならない。


 がっくりと項垂れる俺の肩を、霞さんが握ってきた。華奢な腕なのにギリギリを力が入ってきてとても痛いです。


「ど~してくれるのよ? ソウ君?」


 霞さんの顔は一見、笑っているようで目が全く笑ってない。


「す、すみません……」


 俺には弁解のしようもなかった。


 その時、店の重厚なドアがギギッと音をたて、誰かが入ってきた。


「ん? なんだ騒がしいじゃねぇか! 一体どうしたんだよ?」


 入ってきたのは鍛えられた腕が太ももの様な太さの初老の男だった。




   ***




「俺の作った武器が今イチだと? しかもこの嬢ちゃんが文句をつけてきただぁ~?」


 何言ってんだ? コイツ。それが最初に感じた正直な感想だ。


 目の前の嬢ちゃんは背が低い。俺の腹くらいしかねぇ大きさだ。それに腕も細すぎる。とてもじゃないが鍛冶をする腕じゃねぇ。大方、クレームつけたかっただけだろう。こんなのに一々怒ってる暇があったら鍛冶でもやってたほうがいい。やれやれ、付き合ってらんねぇぜ。


「あぁ、何度でもいってやるさ! ここの剣の品質は今イチだよ」


「嬢ちゃん。ここは子供の来る所じゃねぇんだ。冒険者に憧れてんのか? 悪いことはいわねぇ。嬢ちゃんにはこの店の装備は無理だ。諦めて帰ぇりな」


 全く、生意気なガキだ。親の顔が見てみたいわ。


「ムッカー! おい! そこの筋肉ダルマ! お前も鍛冶師ならわかってるんだろ? この剣は重心がわずかに左にずれてしまってる。こっちの剣は2カ所に重くなってる所があるんだ。これじゃまともに振れるわけない!」


 けっ、わかった風な口ききやが……、


「黙って聞いてりゃつけあがりやがって! このスミスさんとこの剣にそんな不良品はねぇよ! 帰りやがれ!」


 店の主人が割って入ってきた。


 だが、邪魔だ。ワシは店主の顔を押さえて、引っ込ませた。


「おい、オメェ。何でそれがわかった? 俺だっていつも完璧な剣が

作れるわけじゃねぇ。どうしてもわずかだがムラが出る。そんな剣はこの通り、安くして並べてる。ある程度ムラなく作れた奴は店の奥のショーケースに入れてんだ」


「あぁ、それくらいわかってるよ。だけどね、あのショーケースに入ってる奴だって打ちが甘いんだ。だから最終的な固さ、粘り、切れ味の持続性に問題が出てる」


 何てこった? マジかよ? この嬢ちゃん……。見ただけで俺の剣の性質をわかっちまってんのか?


「おい、いい加減に、ぶおっ!」


 また口出しをしてきた店主を除けて前に出た。


「そこまで言うんならオメェはさぞや上等な剣でも創れるってのか?」


 まさか、この嬢ちゃんが創ってるわけじゃあねぇだろう。大方、どこかの鍛冶屋で見てきたんだろうが、その目は本物のようだ。


「ふん! 本来なら部外者に触らせるのは嫌なんだ。だけどね。人を外見で判断するのは辞めた方がいいって解らせる必要がありそうだからね! ホラッ、これだよ!」


 目の前の嬢ちゃんは小さな袋に手を突っ込んで、一本の剣を取り出した。そして、何のためらいもなく、渡してくる。


 マジか! マ、マジックバッグじゃねぇか! そんな国宝みてぇなモンを持ってやがっただと!


 そして、ワシの手に渡された一本の剣。これははるか東方にて作られているという日本刀って奴だった。


「こ、これは……っ!」


 ワシは驚いた。こんな嬢ちゃんが取り出した剣は間違いない。鉱石は全てアダマンタイト。伝説とも言える鉱石だ。以前に勇者一行に打った剣はオリハルコンを使ったが、それに匹敵する鉱石。つまり、ほぼ国宝モノの剣ってことだ。


 それをどれほどの高温で打ったというのか? この綺麗に出ている刃紋は熱し、叩き、冷やしってのを繰り返すことによって生まれ出るもんだが、複雑な波模様が絡み合ってやがる。


 つまり、この刀はアダマンタイトを溶かすほどの超高温で幾十、幾百回も徹底的に叩いて出来上がったシロモノだ。


 こんなもの……、ワシだって打ったことはねぇ。


「マジ……かよ……?」


 気がつけばワシの背中がヒンヤリと感じやがる。コイツはやべぇ。間違いない。……ホンモノだと……いうのか?


「オメェちょっとこっちに来い!」


 ワシは嬢ちゃんの細い腕を掴み、店を出る。


「わわっ、ちょっと痛いってば! このゴリラ! 離せっ!」


 何か言ってるようだが、ワシには関係ねぇ。その腕前……見せてもらおう。


 嬢ちゃんの腕を引っ張りながら、ワシは城へと向かった。



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