第8章 聖教国にて

第104話 観光



「えーっと、ソウ君が神様の代わりになるってこと?」


 リーダーはウンザリした様子でつぶやく。


「ま、私はエルフの神だし、色々と面倒もあって……、気持ちはわからなくもないけどね」


 霞さんは深くため息をつく。やはり面倒なことが多いのだろう。


「ふむ、俺はそんなことよりも、魔王軍の再編と訓練をしなければならん。すまんが、戻らせてもらう」


 エルガは魔王軍を叩き直すつもりだった。またどこかの国に攻められては堪らないだろうしな。


「エルガ、ありがとう!」


「ふんっ! 礼なら次に会った時に勝負で返してもらおうか」


 エルガは黒い霧に入っていき、帰っていく。なんとも頼りになる男になったものだ。この次に会うときはちゃんと勝負しなきゃな。


「はぁ、どうしてこうなったんだ?」


 俺は頭をかきながらイスにどかっとすわりこんだ。


「でもさ、別に今すぐ何かをするってことはないんだろ?」


「それは、まぁそれはそうなんだけど。これからどうしましょうか?」


 珍しく、手持ち無沙汰なのだ。次にやることが決まってないし……。


「じゃ、聖教国でも行ってみる? 今は王もいなくなったし、治安が気になるのよね」


 霞さんはエルフの里を永年見てきただけあって、視点がちがうなぁ。たしかに、王がいきなりいなくなるってのは大事件だ。生き返らせた兵士たちは夢を見ていたってことにして返したけれど、統治はどうなったんだろう?


「じゃ、みんなで聖教国に観光でもいきますか!」


「お? いいねぇ! 賛成だよ!」


「ふふっ、久しぶりの三人で冒険ね。何万年ぶりかしら?」


 霞さんは屈託のない笑顔で笑った。超絶美人の笑顔は凄まじい破壊力だ。見ているだけでドキッとしてしまう。それにしても何万年ぶりって……、随分と長い間エルフの国で世界樹となっていたんだなぁ。


「あっ、ソウ君! 僕という人がいながら霞に見惚れるなんてひどいじゃないか!」


「あら? 私と付き合ってみる? いいわよ?」


「は、はは」


 二人に詰め寄られるが、へたに絡まれるとまた以前のようにリーダーのビンタが飛んでくる。あれ、すっげぇ痛いんだよな。マジで他の誰の攻撃よりも痛いかもしれない。


「じゃあ、聖教国にレッツゴー!」


 こんなときはさっさと黒い霧を出して飛び込むしかない!


「あっ!逃げた!」


「もうっ、ソウったら。遠慮しなくていいのに」


 二人がなにか言ってるが取り敢えず、行ってしまおう!




   ***




 ここは、王宮の間。


 俺の足元には元聖王が四つん這いになって、「ブビィブビィ」と叫び散らしている。


 俺はその元聖王を足で踏みつけ、黒い霧を通してこの大陸中に映像を送っているのだ。絶賛生放送中である。ちなみに、竜化の魔法で俺の見た目は竜人の様にしてある。見た目の迫力もばっちりだ。


 そして、セリフはこうである。


「ギャーハハハ! 愚かなる人間共よ! 聖教国は我が閻魔大王の手に落ちたのだ! 待っていろ! これから貴様等も我が閻魔大王軍が蹂躙してくれるわ! 首を洗って待っているがいい! ギャーハハハ!!!」


 俺のすぐ側にはリーダーと霞さんがドン引きの顔つきでこちらを半眼で見ている。


 反対側には元勇者パーティーの面々、REN、Fina1、チコとミウがいた。だが、誰も俺と目を合わせてくれない。


 もちろん、俺だってこんなことはしたくない。だが、誰かがやらねばならんのだ。そう、誰かが。




 事の発端は一月も前の事だ。


 俺とリーダー、霞さんの三人でマッタリと観光を楽しむべく聖教国を訪れた。




「だから、この門を通るには一人あたり銅貨5枚だ。それくらいもってないのか?」


 呆れたような顔つきで深くため息を吐く門衛。


 しまった……。来ることに夢中で、お金のことを考えてなかった。


「いやぁ、すみません。両替さえ出来ればば少しはあるのですがね……」


 この不用意な一言がまずかった。


 俺はなんの気もなく、じゃらっとお金を見せてしまう。


 俺がうかつにも見せてしまったのは魔界のお金。当然、この聖教国では使えるはずもない。だが、門衛はこのお金がどこで使われているものかを知っていたようなのだ。


 目の前の門衛は突然笛を鳴らした。ゾロゾロと屈強な門番たちが集まってきてしまい、俺達三人はすぐに取り囲まれてしまったのだ。


「あ……、しまった。かな……?」


「ソウ君、それはないわ……」


「あなたにもこんなドジな所あるのね……」


 二人の視線はとてつもなく冷たい。せっかく観光に来たはずなのにここで揉めてしまっては何も出来ずに終了だ。


 ここは穏便に済ますのが一番だろう。


「さて、事情はあちらで聞かせてもらおうか」


 門衛はデカい胸筋を見せびらかすように張り、威圧してくるのであった。




   ***




「さて、お前も当然知っているだろうが、魔王国と我が聖教国は未だ戦争中だ」


 俺達三人は仲良く檻に入れられてしまった。ドジってしまったとはいえ、ひどい仕打ちである。


「そんな中、魔界のお金を持っていたということは、お前らが魔界と繋がりが深いと言わざるを得ないわけだ」


 全く持ってそのとおりなので、何も言い返せない。


「お前等の処分は上の方で決まり次第すぐだ。だが……、見れば見るほど良い女を連れてるじゃねぇか?」


 門衛は舌なめずりをして下卑た目を向けてきた。


「そんなっ! いくら僕が魅力的だからって、いやぁ、照れるなぁ」


 なんかリーダーが女扱いされて心なしか嬉しそうだ。


「いや、オメェなわけねぇだろ! 奥にいるボインちゃんを好きにさせてくれりゃ、この場は見逃してやってもいいんだぜ?」


 最低な門衛だ。ボインちゃんってそんな言い方人間としてどうかと思うが、下卑た男が言うと妙に似合ってるなぁ。そんなことを思っていると、リーダーがキレだした。


「オメェなわけない? 期待させんじゃないよ!」


 リーダーのビンタが飛ぶ。いや、ビンタ自体は檻の中で振っているのだが、衝撃波が飛び出し門衛を襲ったのだ。門衛は壁まで吹き飛ばされて大の字にめり込んでしまうのだった。


 当然、大きな音がなってしまい、階段を急いで降りてくる足音が聞こえてくる。


「あぁ、リーダー。ここは穏便に行きたかったのに……」


 俺が諦めの言葉をだすと、


「ま、しょうがないじゃん! パパッとやって終わろう!」


 どこかで聞いたようなセリフを吐き、ペロッと舌をかわいく出すリーダー。


「二人共、仕方ないわね。じゃさっさといきましょうか」


 霞さんが指をパチンを鳴らすと、檻を形成している図太い鉄の棒がぐにゃぁ、と曲がっていった。


 精霊魔法、恐ろしいぜ。何がどうなって鉄が曲がったのか? まるで理解できないが、霞さんはこともなげに檻から出ていく。


「ホラ、ソウ君も行くよ!」


「あ、ハイ! すぐ行きます!」


 こうして俺たち三人は初日から脱獄という形で観光が始まるのであった。



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