第102話 聖神イクス戦 3



 息をもろくにつけない程のハイスピードバトル。最初にチャンスを掴んだのは俺だった。


 高速移動からの爪による攻撃はイクスの背中を捕らえ、爪が深く食い込む。そのまま蹴りを放ち、無理やり引き剥がすと、イクスの体から噴水のように黒い液体が噴出した。


「トドメだ!」


 正面からパンチで突き入れていく。だが、イクスは追い込まれていてもその目は俺を捉えていた。


 俺のパンチが当たる瞬間に体をねじり、腹への直撃を避けると、そのまま俺の手首を掴み、瞬時に手首関節を外してきたのだ。


「ぐっ! ゆ、指が動かない!」


 片手の動きが鈍るだけで、防御には多大な影響がでた。イクスの矢継ぎ早に放つ蹴りを防ぎきれず、ガードの上から蹴りを振りぬかれ、数十メルも吹き飛ばされ、土煙を上げながらバウンドしていく。


 しかも運の悪いことに、MPが切れかかってしまい、竜化が少しずつ解けてきたのだ。


「くふぅ〜、よもや我がここまで追い詰められるとは。危険だ。貴様らは危険すぎる!」


 イクスは肩を激しく上下しながらも、倒れ込んだ俺に突っ込んでくる。


「むっ!」


 エルガはとっさに割って入ろうとした。だが、リズと霞は手を広げ、それを阻止した。


「これはソウ君が言い出した一騎打ちだ。邪魔しちゃいけないよ!」


「アナタならわかるでしょ? ここで割って入るのは、彼の誇りを汚すことになるわ」


 エルガはその場から動かず、手を震わせた。


「ソウよ! 聞こえているか! こんな所で負けるのは許さん! 貴様を倒すのはこのエルガだ! わかったらすぐに立ち上がるのだっ!!!」


 凄まじい大声の激が飛んでくる。


「まったく、厳しい仲間を持ってしまったもんだ……」


 たしかに、エルガに勝ち逃げなんて出来ないよな。リマッチは受けると約束してる。ここでやられるわけにはいかない!


 俺はグラつく膝を抑えながら立ち上がり、自分にヒールを使った。こんな時に消費MPがない神聖魔法は助かる。バリヤーを数十枚張り、イクスの動きを僅かだが止めた。そして、刀を抜き、さらに作りおいた強化ポーションを全て、一気に頭からぶっかける。


 体力はすべて回復し、バフポーションで力が漲った。これでまだ戦える!


「行くぞぉ〜〜〜っ!」


 刀を構え、高速で走りながら振り下ろす。イクスも魔力を溜めたパンチで応戦し、爆音と共に火花が散っていく。


 イクスはかなりダメージが溜まっており、以前ほどのスピードは無くなっていた。それでも何度も打ち合い、お互いが傷ついていく。


 だが、決着は突然についた。ダメージを負ってもすぐにヒールが使える俺と、魔力を消費しながら戦っていたイクスとではいつのまにか、大きな差が出てきたのだ。


 俺の剣が一方的にイクスの拳を弾いた。胴体がガラ空きになったところに刀を突き入れる。


「ぐぶっ!」


 イクスの口から黒い液体がゴポリと吐き出された。


 俺の刀はイクスの胸を貫いていたのだった。


「ま、まさか……。地上の者に、亜神ごときに遅れをとるとは……」


 イクスの目はまだ怒りに燃えているかのように吊り上がっている。


「だが、我はまだ死なん! 貴様等を滅ぼすまで!」


 イクスは両腕を上にあげ、魔力を集めた。


「なっ! 何をするつもりだ?」


 イクスの上に集まる魔力は転移用の黒い霧となって現れた。


「お、お前! 逃げるつもりか!」


 俺が気付いた時にはすでに充分な魔力が集まってしまったあとだった。


「さらばだ。また会うときには必ず貴様から倒してやろうではないか!」


 イクスは黒い霧に向かってジャンプしていく。


「待ちやがれ!」


 ここまで追い詰めて逃げられては後々に禍根を残してしまう。このうらみの連鎖を断ち切るには今しかない!


 俺はイクスをめがけてジャンプし、刀を横に振るう。だが、黒い霧にはばまれ、切った感覚のないまま俺の体は霧に飲み込まれてしまうのだった。




 黒い霧の先は白い大地の広がる世界が目に入った。


「ここが、イクスのいた世界……」


 転移を終えると、すぐ俺の下方向に傷ついたイクスが膝をついているのが見えた。少し歩いたようで、黒い液体が地面に点々と残っている。


「覚悟っ!」


 刀を構え直し、イクスに近づく。イクスはピクリとも動かす、座したままだった。


「イクスはもう事切れているよ。おめでとう。君の勝利だ」


 突然声をかけられた。その声の方を見ると、ぼんやりとだが見覚えのある男が立っている。


「イクスは好戦的な奴で困ってたんだ。君が片付けてくれて嬉しいよ。ソウ君」


「俺を知っている? この世界に来るのは初めてなんだが……」


 俺が首を捻っていると、目の前の男は呆れたような顔をして両手を上に向け、首を横に振る。


「おいおい、僕のことを忘れちゃったのかい? 君に便利な術を最初に授けたというのに!」


 最初に授けた? 神聖魔法のことか……。とすると、目の前の男は……。


「もしかして、創造神さま?」


 忘れもしない、俺が日本で死んでしまった所を異世界で蘇らせてくれた神様だ。それに神聖魔法をくれたのだ。しかも消費MPなしというオマケつきで。


「いやぁ、様付けで呼んでくれるなんて嬉しいなぁ。僕が上げた神聖魔法も役に立っているようでなによりだよ。ハッハッハ!」


 なんというか、前もそうだったけどフランクに話す神様だよなぁ。


「えぇ、かなりお世話になっています。って創造神様がどうしてここに……」


「やだなぁ、ここは神界。神の住まう所さ。君が来るのを待っていたんだよ」


 創造神は屈託のない笑顔で俺に手を伸ばすのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る