第78話 勾玉



「着いたわ、ここが衛勢神宮えせじんぐうよ」


 俺は鏡花と合流し、この由緒ある神社へ案内してもらった。


 車で六時間以上もかかったが、なんとか勾玉が設置されていた所まで辿りつきそうだ。


 鏡花には別れた後に俺が何をしていたのか、色々と聞かれたが、あまり教えても仕方がないと思ったので口を濁したままだ。今は能力者でも黄泉と日本を遠ざければ、能力は失われるかもしれない。それを彼女に知られたくなかった、ということもある。


「ところで、どういうつもりなの? 勾玉がなければ、ここに来ても仕方がないのよ?」


「いや、何かしらの痕跡が残っていればそこから追うことも出来ますし……、やはり現場は見ておきたかったんですよ。無理言ってしまいすみませんでした」


「ま、いいけどね。アナタに貸しを作っておくのは何かと便利そうだし」


 鏡花は髪をかき揚げながら言った。


 怖いことを言うなぁ。後で何をさせるつもりなんだ?


「部外者が社屋を案内してもらうのは出来るんでしょうかね?」


「ま、普通の人は無理ね」


「そうですか……」


 うぅむ、ここは強行突破するべきか、それとも夜に忍びこんだほうが……


「でも大丈夫よ。だってここ、私の実家なの」


「へ? そうなんですか?」


 驚いた。通りで警察関係者でもないのにこの件に詳しいわけだ。


「そ。私達が最初の被害者ってことよ。さ、案内するわ。着いてきて」


 俺は何の苦労もなく、勾玉があった場所まで案内してもらえるのだった。




「ここがその場所よ」


 鏡花が案内してくれたのは、社屋のさらに奥だった。社屋から洞窟につながっており、さらに洞窟を進むこと十分。


 そんな奥底に祭壇が設置されており、その神棚の中に勾玉を置いていた、という。


 俺は早速その神棚を調べ始めた。と言っても探偵のようにジロジロと見回すわけではない。


 魔力の痕跡を探したのだ。俺の鑑定術はカンストまでレベルを上げていたせいもあり、容易にそこにあったはずの魔力構成を導き出すことが出来た。


「よし、準備完了っと」


「? 何の準備をしたのかしら?」


 鏡花は首をかしげる。


「鏡花さん、ここまで案内してくれて本当にありがとうございます。鏡花さんはここに勾玉を取り戻したい。そうですよね?」


「え、えぇ。そうよ。そのために私は闘ってるの。あの勾玉が盗まれた日、あの日から日本がおかしくなったのよ! 許せないわ!」


 鏡花は手を握り、震わせながら叫んだ。


 なら、問題ないな。


 俺は自分の魔力を練り、ここに設置されていたモノの構成を錬金術で再構成せていく。


 辺りは強い光に包まれた。


「な、何が起こっているのよ?」


 鏡花は腕を顔に当てなんとか状況を確認しようとしている。


 この勾玉だが、高度な次元を繋げる術式が組み込まれている! これは……、もしかしたら、次元のコントロールが出来るんじゃ……。


 俺の手には勾玉が出現した。直径三十センチメルほどの大きな石だが、魔力がたっぷり込められている。


「こ、これが勾玉か!」


「え? うそ? アナタ! 隠し持っていたというの?」


 鏡花は凄い剣幕で俺を睨んできた。


「そんな訳ないじゃないか! ここにあった魔力の痕跡を辿って、形造っただけだよ」


「……っ?! 勾玉を……、造ったっていうの?」


「あぁ、そうさ。どう? 見た目とか……、違いはないかな?」


 勾玉を鏡花に手渡す。彼女はそれを両手で持ってあちこちの角度から見回した。


「ど、どこから見ても本物にしか見えないわ……」


「そりゃ良かった」


「う〜ん、見た目だけなら作れるかもしれないわ。でも勾玉は特殊な構造になっていたのよ。桁違いとも言える魔力が込められていた、というか、魔力による特殊な回路が入っていた、と私は考えているわ」


「まぁ、まずはその勾玉を祭壇に載せてみてくれよ。反応を見たいんだ」


「アナタが造った模造品に能力まで備わってるワケないだろうけど……」


 鏡花はしぶしぶ俺の言うことを聞いてくれた。そして、勾玉を祭壇に載せると、祭壇から凄まじい魔力の放出が始まった。


「な、なに? これは?」


「魔力が洞窟内を満たしていく! 何が起こるんだ!」


 やがて出現したのは白く、分厚い壁。その壁は俺のバリヤーよりもずっと厚く、祭壇の後ろに展開されるのであった。


「ま、まさか……」


「これが、勾玉の効果か! なるほど、黄泉との境界線を作ったのか!」


 鏡花は驚きに目を丸くして俺の胸ぐらを掴んでくる。


「ちょっと、やっぱり本物じゃないのよ! やっぱりアナタが持っていたんでしょ!」


 いつものクールな鏡花はどこへいったのか? 早口にまくし立ててくる。


「いや、だからアレは俺が造ったんだって。見てたろ?」


「で、でも……」


「ここにあったはずの魔力を追ったんだ。後は錬金の術で再現したというわけさ」


「うぅ、なんだか理解が追いつかないけれど、アナタなら確かにそんなことができるのかも……」


「もともと、日本は黄泉との次元が近かったんだろうね。だから昔の人がこうして次元を隔てる結界を張り、異界と距離を置いた。っていう所かな」


 鏡花は少し落ち着いてきたのか、ようやく俺の胸から手を離してくれた。


「そぅ……、お礼を言わなきゃいけないわね。ありがとう」


 彼女は想いが晴れたせいか、自然な笑顔になっていた。作り笑いじゃない純粋な心から出る笑顔だ。


「どういたしまして。でも俺にはまだやることがある」


「これ以上何があるの?」


「勾玉を盗み出した連中が黙っているはずがない。そう思わないか?」


「あっ!」


 そう、最初に勾玉を盗み出した奴は、必ず状況の確認をしにくるだろう。なにせ、勾玉が戻ったのだ。魔物は現れないし、超能力者達もどうなったことやら。


「そうだ、鏡花さんは能力ってまだ使えます?」


「あら、私の能力は他人の能力とは違うのよ。私のは生まれつきなの。というか、私の一族は皆が能力者なのよ。だから勾玉に影響を受けることはないばずたわ」


 そう言うなり、俺に魅了の術を行使してくるのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る