第77話 尋問
「ん……、ここは?」
太い黒縁メガネの男が目覚める。
「ひぃ! な、ななな、なんなんだ?ここは?」
手足を動かそうとするとガシャンと音がなり、手足がすべて鎖で繋がれていることに気ずき、目を丸くした。
「な、なんだ……、この十字架は、なんで俺がこんな目に……」
男の手足は十字架に鎖で繋がれており、身動き一つ取れない。
やがて、真っ黒な部屋の中に足音が響いてくる。それも一人ではない。
ドアが開き、入ってきたのは白いワイシャツの男だった。
だが、その男の後に入ってきたのは……、
「ひぃっ! お、鬼っ!」
黒縁メガネの男は大牙の姿を見るだけでガタガタと震えだした。
白いワイシャツの男はそんな男の様子をじっくりと見た後、こう切り出した。
「さて、あの部屋で行っていたことを、全て、話してもらおう」
メガネの男は周りを見回したが、助けてくれそうな者などいるはずもない。
「ま、待ってくれ。俺は何も知らないんだ!」
そう叫ぶ男に大牙が近づき、小刀を肩に突き刺した。
「あっぎゃあぁぁぁっっ!!!」
男の叫び声が狭い部屋に響く。
「すまないが、他の男達からは、アンタが責任者だという事を聞いていてね。これ以上、痛い目に合いたくなけれは、早いうちに全てを明らかにしてくれると助かるんだがねぇ」
「まっ、待ってくれ! そんなの俺の一存でどうにかなる問題じゃないんだ! 相談してからじゃないと……」
「やれやれ、まだ状況が飲み込めてないようだね。やってくれ、大牙!」
大牙は無表情のまま、メガネの男の両腕を小刀で一閃した。
「ぐぎゃああああっっっっ!!!」
両腕がその場に落ち、血が吹き出す。男はガタガタと震え、顔は涙と鼻水とよだれでぐしゃぐしゃだ。
「ふむ、まだ死なれちゃ困るからな。ヒール!」
腕が何事もなかったかのように元に戻る。
「あ、あんた、一体、何者なんだ? 人間じゃないのか? 俺の仲間なんじゃないのか?」
「俺かい? 俺は、最近この鬼達の王になったばかりでね。閻神という者だ。人間に分かりやすく言えば、閻魔大王って所さ」
閻神はニヤリと笑いながらメガネの男をじっと見つめる。
男はさらに震え、涙、鼻水、唾液まみれの顔でうつむいた。そして、覚悟を決めたようにしゃべり出す。
「わ、わかった。何でも話す。その代わり、部下の命だけは助けてもらえないだろうか」
「ほぅ、見上げた根性だな。自分より部下の命を優先するのか?」
「お願いだ、部下達は言われた事をやっているだけなんだ。詳しいことは全部……、俺が知っている」
そこまで言うと黒縁メガネの男は全てを諦めたようにがっくりと首を深く折り曲げる。
「ふむ……、わかった。ではお前の覚悟に免じ、部下は日本に返す事を約束してやろう」
メガネの男は涙を流しながら、頷くのであった。
*
あぁ、もうビックリしたよ! 大牙のやつ、いきなり両腕を切るんだもん! 死んじゃうんじゃないかとドキドキしちゃったよ!
けれど、俺の名? 演技もあって、無事に聞き出す事に成功した。
しっかし、鬼達ってなんであんな悪趣味な十字架や鎖なんて持ってたんだ? まさか、普通に使ってたのか? ま、まぁ疑問はあるが、取り敢えず置いておこう。
聞き出せた情報はかなり貴重なものである事は間違いないだろう。
まず、魔物の体は未知の細胞であり、これを研究することによって、莫大な利益を生み出そうという計画が浮上したらしい。もちろん、日本政府の後押し付きだそうだ。
また、爪や歯は硬いだけでなく割れにくい性質があり、これが武器に転用出来そうということもあり、すでに武器市場では高値で取引されているそうだ。
そして、これらの素材を集めるため、本来、黄泉との空間を隔てているアイテムを取り払い、日本と繋がりやすくしたらしい。その影響で魔物が多く、出没するようになった、と言う。実際は日本の気候変動に影響を受けた水竜が怒って攻めていたわけだが……。
このアイテムってのは間違いなく、勾玉のことだよな。それを政府絡みで取り去って、魔物をおびき寄せ、狩っていたというわけだな。
そして、重要なことなんだが、人間にも影響がでたらしく、それが、あの超能力者だそうだ。日本が黄泉と近づき過ぎたことにより、突然変異でもしたのだろうか? その辺りも研究中だったそうだ。
まったく、ろくでもないことをしてくれる。魔物に襲われる人のことなんて考えちゃいないんだからな。”金さえ稼げれば人の命はどうなってもいい”なんて考え方はいくら何でも行き過ぎだ。許せん!
さてと、やることが増えたぞ!
因みに研究者たちは全員返しておいた。もちろん、口は封じなければならないため、新しく闇魔法と錬金術で記憶を操作する魔法を編み出したのだ。
彼らは皆、目が覚めたら何事も無かったかのように働き始める予定になっている。
ま、これから黄泉とのパイプを塞ぐからみんな仕事が無くなるだろうが、そこまでは面倒みきれん。
俺はまず、勾玉が設置されていたという、歴史ある神社を尋ねることにするのであった。
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