第61話 黒い霧の行き先



「くっ、9900を超えてからがキツいな……」


 刀術、闇魔法、風魔法、鑑定術のレベルは9980を超えている。が、すでに作業に入ってから一週間も経過していたのだ。


 数千回にも及ぶ闘いは、精神がすり減り、頭がぼーっとする。


「ソウ君。まだ、大丈夫か? さすがの僕も疲れが溜まっているようだ……。あぁ、幻が見える……」


「リーダー! あと少しじゃないですか! 俺も……限界近いですが……、何としても……、何としても! レベルを上げきりますよ!」


「ふっ、さすがだな。ソウ君。君は変わらない。その真っ直ぐな姿勢、想い、スタイル。どれをとってもブレないな」


「それは、リーダーも同じじゃないですか! リーダーの熱い想い。伝わりましたよ! この刀からも……。リーダーのアイテムからも……、そしてリーダーの行動からも!」


「あぁ、ありがとう……。僕は幸せ者だ。こんなに理解してくれる人がいる。それがこんなに嬉しいなんて……」


「リーダー……。あと少しじゃないですか! 頑張りましょう!」


「あぁ!」


 そんなことを話した後、俺とリーダーの間に会話はなかった。


 想いは十分に伝わり合ったのだ!


 ならば、目標に向かって突き進むのみ!


 ドランは口から舌を伸ばし、泡を吹いたままだ。もうリザレクションで生き返らそうが、攻撃しようが、指一つ動かない。まるで案山子かかしだ。


 それにも関わらず、これだけキツいとはな。あぁ、少しでも目を閉じれば寝てしまいそうだ!


 周回という己との闘いはそれほどに強敵なのだ。


 パンパンッと自分の頬を叩き、気合いを入れ直す。


 リーダーも自分の頬をつねっていた。


 そして、最後の仕上げ周回へ突入していくのだった。




「やった! 俺のレベル。カンストしたぞぉ!」


「お? おめでとう! ソウ君! やったじゃないか!」


「リーダーはレベルどうです? あとどれくらいですか?」


「ふむ、僕も神聖、闇、風はあと1上がればカンストだ」


「じゃ、あと少しですね! リザレクションは任せてください!」


「あぁ、最後まで付き合ってくれ!」


「もちろんですよ!」




 そして、レベル上げ周回に入って二週間後。


「あぁ、終わった! 全てのレベルが上がりきったよ」


「おめでとうございます! リーダー!」


 俺たちは抱き合った。


「リーダー、泣いてるじゃないですか」


「そういうソウくんこそ。顔がぐしゃぐしゃだ」


 お互いの健闘を称え、二人、涙を流す。


 リーダーの体は温かく俺を包んでくれた。


「あ、コイツ、一応なんですけれど大神なんで魂がのこっちゃうんですよね。ターンアンデッド!」


 闇色の霧が晴れていく。


 ドランの魂が浄化されていくが、何も言わない。すでに精神もすり切れていたんだろう。


「終わったんだな」


「えぇ、終わりましたとも!」


「僕の家に来ないか? とりあえず……、寝よう!」


「はいっ! リーダー!」


 俺たちはフラフラになりながらも、久しぶりの洞窟へ帰還するのであった。




   *




 あの激闘から一週間が経った。俺は順調に錬金術と鍛冶術のレベル上げにいそしんでいた。


 鑑定術のレベルは9999まで上がっていたおかげもあり、マッピングの魔法と併せて、どこに何の素材があるのか、まるわかりなのだ。


 素材集めがすんなりと進むおかげで、錬金と鍛冶は瞬く間にレベルが上がっていく。


「どうやら、もう教えることがなさそうだね」


 リーダーの顔が少しさみしそうだ。


「そんなことないですよ! リーダーのおかげでここまで来れたんですから!」


「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどね」


 リーダーは今、洞窟の皆を引き連れ、村人全体のレベル上げをしていた。巨獣人の脅威は去った。しかし、この世界の森には巨大昆虫や巨大な動物がひしめく危険な世界。死なないためにはレベルをあげるしかないのだ。


 俺が、錬金術と鍛冶術のレベルを上げきるにはまだ時間がかかる。それと平行して、俺は元いた世界に帰るための手段を考えていた。


 以前に黒い霧を魔神が発生させていたのだ。もちろん膨大な魔力が必要なのは間違いないが、魔神に出来て俺に出来ないことはないだろう。


 それに、村長が使っていた小さな黒い霧で会話する魔法の存在もある。あの魔法はすでに習得済みだ。


 しかし、異世界間を繋げるほどの力はない。声と映像だけを同じ世界に飛ばすのが精一杯なのだ。


「なんとかあの大きな黒い霧を発生させなければ……」


 俺は闇魔法と錬金術を掛け合わせる研究に没頭するのであった。




 そして、二ヶ月後。


「やった! ついにあの黒い霧を出すことが出来た! これで帰れる???……のかな……」


 大きな黒い霧は目の前にある。だが、これがどこに繋がっているのか、それがわからない。


 以前に繋げた時は全く同じ構成にするだけだった。しかし今は出発地点からよくわかっていないのだ。


 どうやって、今いる場所と行き着く場所を指定するのか? こればっかりはトライ&エラーを繰り返すしかないのだろうが……。


「いきなり人体実験するしかないとは……」


 うぅむ。考えてしまう。果たして上手くいってるのか? こんな危険なモノにリーダーを巻き込むワケにもいかない。


 よって、自分で確かめるしかない。


「うん、しょうがない。諦めて突っ込んでみるか!」


 俺はリーダーに置き手紙をしたためた。


「親愛なるリーダー、リズ様へ。異世界間を移動する黒い霧を発生させることに成功しました。しかし、上手く機能するか検証するため、とりあえず、突っ込んでみます。上手くいったら、霞さんのいる世界にいきましょう! ではでは~~~」


 よし、じゃ行ってみるか! 黒い霧の中へ突入だ!




   *




 澄んだ青空。立ち並ぶビル群。熱い太陽。


 どこからどう見ても、ここは日本だな。


 ってか、帰れるのかよ!!!


 異世界の神が迎えに来たんじゃなかったのか? 俺の命が溢れたとかなんとか言ってたのに……。


 幸い、俺の服装は日本にいたときから変わっていない。つまりスーツ姿だ。


 何の違和感もなく歩けるわけだが……。


 久しぶりに歩く日本。それも東京。ここは間違いなく江戸川区平井の商店街だ。昼間だが人通りが絶え間なく続いている。


 ふと牛丼屋のマークが目に入った。


「あぁ、牛丼か……。長いこと食べてないなぁ」


 俺の数少ない持ち物の中に財布があったはずだ。えーと……、


 リーダーから譲り受けたアイテムバッグは日本でもしっかり機能した。


 お? あったあった。財布の中には少しばかりの現金が入っている。


「よし! 久しぶりに牛丼だ!」


 俺は吉田屋へ意気揚々と繰り出すのであった。




「ふぅ~、食った食った! 異世界に行ってからろくなの食べてないからな。思わず特盛り、玉子に味噌汁まで飲んじゃったよ」


 こんなに注文したのはホントに久しぶり。贅沢な注文だ。


 腹ごしらえも終わった所で、ふと目に入ったのは宝くじ。


 うーむ、もしかして……、鑑定術が使えたりするのかな?


 密かに鑑定をかける。店の中に置いてある、スクラッチくじだ。


 おっ? マジか! 当たりが丸わかりだ!


 俺はさっさとくじを買い、現金を増やしたのであった。



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