第60話 リーダーの闘い



 リーダーは自分に謎の液体をかける。それは彼女の肌に浸透していった。


 彼女お手製のバフポーションだ。あの液体で体のスピードは四割増す。


 そして彼女は空を飛んだ。いや、飛んだという表現は間違っているかもしれない。足下に小さくバリヤーを出し、そこをステップ代わりにジャンプを繋げていく。ただ、それがスムーズすぎるのだ。あまりに自然、だからこそ飛んでいるように見えるのだ。


 そしてドランの周りを飛び跳ねながら刀を抜いた。


 その刀は銀色の光を強く反射した。まるで刀が発光しているかのような光を放った。そして見る者を拒絶するかのようだ。


「ふんっ、小賢しいわ!」


 ドランは大きく振りかぶってからパンチを放つ。以外にも巨体の割にスピードは速い。パンチを振っただけで回りの木々が倒れるほどの強風が吹いた。


 リーダーはそのパンチの下をギリギリで躱した。


 そしてすれ違いざまに刀を振ったように見えた。


「ふんっ、なんじゃ! 貴様の攻撃など蚊ほどにも効か……」


 手のあちこちに走る赤い線。指や手が細切れになりながら落ちていく。


「ぬおおっっ! 貴様! 何をした?」


 リーダーはバリヤーを空中に展開し、その上に立つ。腕組みをしながら視線をドランへ向けた。


「どうやら僕の動きが見えてないようだね。まだやるかい? その手じゃ、勝負は見えたようなものだけど」


 ドランの顔が怒りに歪む。


「ぬうううっっっ! 小童がっ! ゆるさんぞおおおっっっ!!!」


 ドランは怒った。その体にオーラが吹き出し、上空に黒雲が立ちこめた。


 そして、切ったはずの腕が生えるように元通りになる。


「グワッハッハッハッハ! この程度の攻撃などワケもないわ! 次こそ捻り潰してやる!」


 ドランは両腕を顔の高さに構え、背を丸め、腰を低くした。


 まるでボクサーのような体勢をとる。そこから繰り出すのはプロ顔負けの素早いパンチだった。


 リーダーは素早く躱しているが、目つきが鋭くなる。


 ドランはノーモーションで素早いパンチを連打する。


 その一発ずつが恐ろしいまでの風圧となり、地形を崩していく。


 だが、リーダーは全てを見切っているかのように躱す。素早く移動してはバリヤーを足場にジャンプを繰り返す」


「ソウ君! 見ているかい?」


「はい! リーダー!」


「こういったタイプは、必ずこちらの隙を突いてくる。すなわち、わざと隙を作りさえすれば、ほぼ確実にそこを突いてくるとも言えるんだ!」


 リーダーが作った隙。それはドランの真っ正面の胸の高さ。わざとそこで一瞬止まることによって作り出された。


 ドランのパンチがうなりを上げる。


「これで止めじゃーー!」


 最後のパンチは腰の回転が入った本気のものだ。当然今までの牽制とは威力もスピードも段違いだ。


 腕を回転させながら放つ一撃は、周囲にいくつもの竜巻を引き起こした。


 だが、リーダーはそのパンチを完全に見切っていた。素早く伸びた腕に乗り、そのまま腕の上を駆け上がる。


「ぬ! なんだとぉ!!」


「遅い!!!」


 あわてたドランが腕を引こうとしたが、すでにリーダーの剣は顔を薙いでいた。そして腕が見えないほど刀をあらゆる方向から振り抜いた。


「あ、あがっ!」


 リーダーが刀を鞘に収める。チンと音が聞こえた時、ドランの顔が崩れ去っていった。


「うーん、頭部ですらまた生えてきそうだからな。念には念を入れておくか。ヘルファイアー!!!」


 リーダーが指を上に向けると、ドランの体は全てが黒い炎に包まれた。天まで届くかのような炎は黒雲を蹴散らした。


「ふぅ、まぁまぁって所だね」


「リーダー! 最高でしたよ! まじカッコいいです! 強いリーダーをまた見れるなんて……」


「おいおい、ソウ君。なにも泣くことないじゃないか!」


「はっ?!」


 顔に手を当てるとびしょびしょに濡れていた。腕で頬をこするとシャツまでびしょ濡れだ。


「リーダー。お、俺、嬉しくって……つい」


「ハッハッハ! でもソウ君! しんみりするのはまだ早いよ! それ! リザレクションだ!」


 ドランの燃え尽きたはずの体が、時を巻き戻したように復元していく。


「ぬぅ?! こ、これは……、ワシは死んだのでは……」


「さ、ここからは一緒にやろうじゃないか! ソウ君!」


「はい! リーダー!」


 またリーダーと一緒に狩りができる! その喜びは全身を駆け巡り、ぶるっと震えが走った。


 そして、俺たちの闘いが始まった! 大神を相手取ってのレベル上げ。このドランは巨獣人の神だけあって、タフさはかなりのもの。もちろん経験値もこの世で最高に持っている一体だろう。


 久しぶりのリーダーとの連携だ。


 ドランはリーダーを敵視し、攻撃を当てようと必死だ。その後ろから俺は攻撃を開始する。


 まずは鑑定し、すぐに刀の衝撃波を当てる。ドランの目が見開き、こちらを睨む。


 攻撃が来るな! 俺は得意の残像を十体出した。ドランのパンチはことごとく、俺の残像を振り抜く。そうしている間にもリーダーも次々と魔法をドランへ命中させた。


「よし、止めだ! 喰らいやがれ!」


 俺はバリヤーを足がかりに空高くまで上昇した。その高さから一気に飛び降りる。


 景色が一気に流れていく。ドランの頭がすぐ近くまで迫ってきた! 今だ!


 手にかけていた刀を引き抜き、頭部から胴体まで一気に切り咲いていく。


 刀はリーダーの特別製だけあって、ほぼ、手応えなく最後まで振り切ることが出来た。


 ドランの体が二つに切れ、倒れていく。


「ソウ君! たった今なんだが、新しい魔法を開発したよ! 試させてもらうね!」


「新しい魔法ですか!?」


「あぁ、見てくれ! ダークトルネードカッター!」


 なんと、闇魔法と風魔法の掛け合わせ! ドランの体は真っ黒な竜巻に飲まれ、奴の体液らしい汚水が周りに飛び散っていく。


 その竜巻が晴れると、奴の体は細切れになっており、原型を止めなない有様だった。


「す、すごい……」


「僕の錬金術で編み出してみたんだが、威力が高すぎたようだね……。ま、次からはうまくやってみせるさ! さ、次だ!」


「はい! どんどん行きましょう! リザレクション!」


 そして、いつまで続くとも知れない闘いが始まるのだった。



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