第47話 それぞれの思惑



元魔王城。今ここには二人の六大将が残されていた。


「一体どうなっておる! エルガを追撃に出したはずが、あの小娘に寝返っただと!!」


 大声を上げたのは頭が牛で体は人型の大男だった。


「そんなに鼻息を荒くするなよ、ゴーゴリ。ふぅむ、保険にモートンを送っておいたはずですがねぇ。一体どうなったらこんな結果になることやら……」


 ゴーゴリは激昂し、テーブルを拳で叩きつけると、真っ二つに割れ、乗っていたグラスや皿がすべて割れてしまう。


 もう一人は我関せずといった顔でゆったりと椅子に腰掛け、グラスを傾けていた。


「はっ、モートン中将は討ち死にされたそうであります」


 伝令兵は顔を上げずに事実のみを伝える。


「マズいな。小娘とエルガが手を組み、さらにノーラまで健在となれば、こちらが不利になってしまう。えぇい、オーギュストとワーケインがいれば……」


「あんな単細胞たちは死んで当然でしょう。それに不利ということはないでしょう。まだ、アレを生かしてるわけですし」


「ふむ、人質としての価値はあるか。だがな、モートンが失敗したのが気になる。奴は弱いが頭は働くほうだと思っていたが……」


「ま、予想外のことがおきたんでしょう。エルガのことはもう忘れましょう。それより、ゴーゴリ。魔王軍に対し、打って出るか、それともこの城で守るか……、それが問題でしょう」


「フンッ、こんな何が仕掛けられているか解らん城で守れる訳がなかろう! 討ってでるぞ、セイラムよ」


「アナタならそう言うと思いましたよ。ま、私も同意見ですがね」


「よし、今度こそ、魔王の息の根を止め、そして、浮世への侵攻を早めるのだ」


「全く、魔王に策でもあれば違ったのでしょうがね。こんなに闘いに明け暮れなくてはならないとは……嘆かわしいものです」


 その日、魔王城では三日後の出陣へ向けて軍備が進められるのであった。




   *




「レイ様。元魔王城の偵察行って参ります」


 ノーラは全身黒い戦闘装束に身を包み、レイの前で膝をついて一礼する。


「ノーラ、十分に気をつけるのじゃ。あのしぶとい宰相が死んだとは思えんが……、親衛隊も生き残ってくれているのを願うのみじゃが、気をつけての」


「ご心配ありがとうございます。必ずや生き残った者たちを救出して参ります」


 レイはただ頷いた。ノーラは決死の覚悟で敵の本拠地となってしまった元魔王城へ出向くのだ。生き残ったレイの配下がいれば助け出すという重要な任務を背負って。


 「数万人単位の食料を今も都合してくれている旦那様にこんなこと頼むわけにもいかないからのぅ」


「えぇ、ソウ殿は十分に、いえ、十二分に仕事をこなされております」


(閣下がソウ殿を繋ぎ止めねばこの国は……)


 ノーラは生まれたばかりのこの国に希望を抱いていた。食料の心配がなく、皆が幸せに生きられる世界。夢にまで見た暮らしが目前にまで迫ってきたのだ。


(なんとしてもこの任務、失敗するわけにはいかない……)


 ノーラは決意を持って、出発するのであった。




   *




「よし、みんな集まってくれたか」


「はっ!」


「ソウ様、本日はどういったご用命でしょうかの?」


「うん。みんなが俺のことを信奉してくれたおかげで俺の称号に大魔神と出るようになったんだ」


「おおっ……」村人たちにざわめきが起こる。


「で、神となったからには多分、アレができるんじゃないかと思ってね」


「おおっ、まずはおめでとうございます。しかし、アレ、とは一体なんでしょうかの?」


 村長も村人たちも不思議そうに頭を傾げる。


「神といえば、加護だよ。もしかしたらみんなに俺の加護ってやつをプレゼント出来ないかと思ってね」


 村人たちは目を丸くして驚く。


「な、なんと。我々に生きるすべを与えて下さっただけでなく、そのお力までお分けいただけるのですか!」


「あぁ、初めてのことだからどうなるかはわからないんだけどね。よし、まずは村長から来てくれ」


「ありがたき、ありがたき幸せ」


 村長は膝をついたまま泣き出してしまった。


「あ、そんなに泣かないでくれよ。そういう空気は苦手なんだ」


「わかりましたとも。我ら、一生の忠誠をソウ様に誓います」


 他の村人たちも泣き出して腕で顔を押さえてしまった。


「よーし、では始めよう!」


 俺は村長の腕に手を当てた。


「この者に、我が祝福と加護を与える。願わくば、この村の永遠の発展をすることを期待する!」


 魔力を集め、村長の腕に集中すると、その膨大な魔力が村長の魂と連結していくように染み込んでいった。


「ふぅ、どうだろうか?」


「あ、ありがとう……、ございます。大魔神ソウの加護が追加されましたぞい! 効果は……、どうやら神聖魔法のようですじゃ」


「「「おおおっっ!!」」」


 村人達からも歓声が起こった。


「なるほど、俺の一番レベルが高い神聖魔法が贈れたんだな。使いかっての良い魔法が揃ってる。村の発展に役立ててくれ」


 村長は嗚咽を漏らしながら誰はばかることなく泣き出してしまった。


「よし、次だ」


 この村の皆は俺のことを信じてドラゴンと対決した大事な仲間だ。その皆に加護を渡していく。ドウムなんてずっと泣き続けて何言ってるのかさっぱりわからなかった。




「よし、皆に加護を渡したところで行くか!」


「アレですな?」


 さすが村長。わかってる。加護を与えただけじゃレベルは1。これじゃ使い物にならないからな。


 俺はドラゴン相手に神聖魔法のレクチャーをしに皆を引き連れて行くのであった。



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