第43話 鬼神 エルガ


 闘いの場に辿り着いてみると、そこには村長がいた。


「どうだ? 闘っているのは……ドウムか」


「これは……、ソウ様に隠し事は出来ませぬな。えぇ、ドウムが闘っているのですが、形勢が良くありませんでな。ワシも心配で見に来たのですじゃ」


「フム、敵にそれほどの実力者がいたのか」


「それですじゃ。彼奴は魔王軍六大将の一人、鬼神のエルガと申しまして……、かつてこの魔界では格闘戦において随一と言われておりました」


「かつて?」


「今はソウ様がいらっしゃいますからな。それに、ドウムがあれだけ闘えているのですじゃ。ワシだって抵抗くらいは出来ますし、二人がかりなら倒すこともできましょう」


「フム、そうか」




 ドウムは渾身のパンチを放ち、それをエルガが肘と膝で挟むように防ぐが、ドウムのパンチの威力にエルガも傷ついている。


 そして、エルガの蹴りを寸での所で防御したドウムだが、蹴りの勢いに負け、十メル以上も吹き飛んだ。


「惜しいな。それほどの実力があるとは……、どうだ? 俺に仕えぬか?」


 エルガはドウムの顔を見据え、本気の顔で勧誘をする。


「へっ、言っただろ? 俺は大魔神、ソウ様の一番弟子だ! 二君に仕える気はねぇよ!」


「惜しい、それほどの才。ここで朽ちるにはあまりにも……。だがこれは尋常な勝負だ。恨むなよ」


「へっ、誰が恨むもんかよ!」


 ドウムは口の中に溜まった血を吐き捨て、エルガに渾身の突きを放っていく。




「うぅむ、エルガとやらがこれほどの武人だとは……。誤算じゃったですの」


「あぁ、エルガがこれほどの武人でなければ、二対一ですぐに片づいたのだろうがな」


「そこなんですじゃ。実の所、ドウムもワシが来ていることには気付いておりましての。じゃが、ドウムはあのエルガとは一対一で勝負したいと目で訴えておりました。無論、ワシも思いっきりやらせてやりたいと思いましての。死ぬ前に割って入ろうと思っておりましたが……」


「あぁ、ドウムはここで死ぬには惜しい男だ。最後は俺が仲裁に入ろう」


「助かりますじゃ」




 ドウムの渾身のパンチは受け流される、と同時に体を掴まれ、一本背負いの体勢で投げられた。


 二、三十メルほども投げられ、地面に背中から叩きつけられるが、ドウムは苦悶の表情を浮かべながらもまだ立ち上がった。


「ま、まだだっ! 俺はまだ闘えるっ!」


「その意気や良し! 来い! 決着をつけてやる!」


 俺の目から見ても二人の実力差ははっきりとしていた。勝負らしくなっているのはレベルにそこまで差がないからだろう。だが、肝心の武術に差があった。




「戦場で生きてきたエルガの武術、本物だな」


「はいですじゃ、さすがは魔界一の武術家。あの者を倒すには理外の攻撃が必要でしょうな」




 ドウムが打って出た。全ての魔力、体力、気力を拳に乗せた、最後の一撃だ。


 それに呼応するようにエルガも拳に己の全てを注ぎ、打ち放つ。


 ドガァァァァァッッッ!!!


 空気は震え、大地は抉れ、周りの兵たちは伏せてその衝撃に耐えている。


 爆風が過ぎ、様子を見ると、二人はお互いを相打つ状態で立っていた。


 が、先に倒れ込んでいくのはドウムだった。


「ぐぅぅ……」


 地面に倒れ込んだドウムはピクピクと体を痙攣させ、動けなくなってしまう。


「見事だった。ドウムよ、しかし、これも戦場の定め。死んでもらおう」


 エルガが倒れたドウムに拳を振り上げる。


「待てっ!」


 倒れているドウムにヒールとキュアーをかけ、俺はエルガの前に割って入った。


「お主は……、ドウムの師か?」


「あぁ、そうだ。ウチのドウムが世話になったな。すまんが、こいつに死なれちゃ困るんでね。これでも仕事熱心な門番なんだ」


「そうか、次は貴様が我の相手か?」


「あぁ、そうしてやりたいんだが、まずは……、長老、ドウムを安全な所へ頼む」


「はっ!」


 長老はドウムを担ぎ、すぐにこの場を去って行った。


「それから……、ほら、これを飲みな!」


 懐から瓶を取り出し、エルガに投げて渡す。


「中はポーションだ。安心して飲みな」


「ほぅ、あの潔い男の師だ。まさか毒は盛るまい」


 エルガは一息で飲み干した。ドウムと闘った傷完全に回復し、闘気が溢れ出す。


「むぅ? これほどの薬とは……」


「オーギュストやワーケインは俺が倒した。だから手は抜いてくれるなよ?」


「なんだと? 六大将のあの二人を討ったのは貴様だというのか?」


 エルガの目が驚きに見開く。


「あぁ、そうだ」


「そうか……、今日はついてる。強者と二度も闘えるとはな」


 エルガの闘気が爆発するように立ちのぼる。


「ほぅ、大したものだ。それほどの闘気、そして戦場で鍛え抜かれた技。是非、我らがアルティメットハンターズに欲しい人材だ」


「ガッハッハッハ! 我に寝返れと言うのか! そんな戯れ言は拳を交えてから言え!」


 エルガは足で地面を強烈に踏んだ。地面が割れ、地響きが鳴る。腰を落とし、左腕を前に、右腕を後ろに引き、構えをとった。


「行くぞっ!」


 エルガは先ほどよりも明らかに速いスピードで俺に迫ってくるのであった。



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