第40話 新生魔王軍!


「えぇい、もうヤケクソだっ」


 若者はまたドラゴンに突撃していき、思いっきり足をパンチでなぐりつけた。


「グワアアアアッッッ!!」


 ドラゴンは足を痛がる素振りを見せたのだ。


「えっ?? うそっ? 効いてる……のか!」


 若者は自分の拳を見ながら驚きに目を開いた。


「だが、倒すのはまだキツそうだな」


 ドラゴンの首をサッと切り落とし、倒れたところに再度、リザレクションを唱える。


「さぁ、もう一度だ。殴ってみろ!」


「はいっ!」


 明らかに力が湧き出ており、元気に返事をする若者はまたドラゴンに突っ込んでいく。


 目を見張るとはこのことだろう。若者の動きは別人のように速くなっており、そのパンチは風を巻き起こし、ドラゴンへ突き刺さった。


「グギャアアアアアッッッ!!!」


 ドラゴンの足の骨が折れ、今までにない苦悶の表情を浮かべる。


「良し、まだまだ行くぞっ!」


「は、はいっ!」


 繰り返すこと三十回。若者はメキメキと腕を上げ、最早、ドラゴンは敵ではなくなっていた。


 若者はすでに俺の手伝いも必要なく、一撃でドラゴンの頭にまで高くジャンプしパンチを放つ。


 ドゴォォォォッッッ!!


 凄まじい爆砕音と供に、ドラゴンの頭は弾け飛び、絶命した。


「やった! やりましたよ! ソウさま! 一撃でドラゴンを倒しましたよ!」


 若者は破顔して喜んだ。


 うむうむ、強くなるって楽しいんだよな。


 他の村人たちはポカーンと口を開けたままその様子をみていた。


「どうだ! 誰だって強くなれる! 自分たちの村を自分たちの力で守ろうという気概のある者は他にいないか!?


「お、俺もやるぞ。俺だって村を支えてきたんだ! これぐらい、やってやる、やってやるぞぉ!」


 リーダーの男が吠えた。それに答えるように他の村人たちも立ち上がってくる。


「そうだ! 誰もがドラゴンを素手で倒せるようになれば、敵の襲撃など恐れるに足らん。立ち上がれ、村人よ! 今こそ、その手に力を握るのだっ!」


 俺の激励に応えるように村人たち全員が立ち上がった。


 女性や子供達までもがやる気に目を滾らせ、ドラゴンを睨み付けたのだ。


 もちろん、皆が最初は酷い目に遭った。踏み潰される者、噛みつかれる者、爪で引き裂かれる者。


 次々と死ぬ村人に大忙しでリザレクションを連発するのであった。


 だが、ドラゴンを倒すのも五匹目ともなれば誰も死ななくなり、十匹目となれば、俺が手を貸すこともなく、村人たちだけでドラゴンを仕留めるに至った。


 そして……、


 俺たちは場所を移動し、さらに山深くへ入っていく。そして山の合間にダースドラゴンの巣を見つけると、村人たちの目が血走った。


「ヒャッハー! 俺が一番のりだぜぇ!」


 先頭を駆け抜けるのはリーダーだ。村人たちの面倒見がよかったリーダーの面影は最早なく、一匹の狩人に変貌した彼は真っ先にドラゴンを殴り倒す。


「アタイだって、男なんかに負けてらんないよっ!」


 村で一番の若い少女が素早くジャンプし、ドラゴンの首へ突撃すると首の骨がへし折れた。そのまま首の肉に噛みつき、食い破っていく。


「やれやれ、若いもんはこれだから……」


 長老と呼ばれた男はレベルアップにより、長い髭の下に強靱な筋肉の鎧を身に纏っており、ドラゴンへ空中回転をしながら回し蹴りを華麗に当てるとドラゴンは山肌へ激突し絶命した。


 ピンと伸びた背筋はもはや、老人の面影はない。一流の格闘家の佇まいを備えているのだった。


「ん~、なんだかやりすぎちゃったかな? ま、いいか。そら、エリアリザレクションだ! ドラゴンどもがまた起き上がるぞっ! 撃滅せよ!」


「「「応っ!!!」」」


 俺の号令に村人の興奮がより高まり、ドラゴンの虐殺が繰り広げられていくのであった。




 そうして、ドラゴン狩りを繰り返すこと数千回が過ぎた。


 ドラゴンたちは涙を流しながら逃げ惑う。それを一方的に倒しまくって数日が経っていた。


 村人達は皆、少年少女ですら、パンチ一発でドラゴンを絶命させるに至る。


「よし、みんな、仕上がってきたな」


「はっ、皆のレベルが6000を超え、もうほとんど上がらなくなってきております!」


 ボサボサ髪の若者は敬礼をしながら答える。


「よし、じゃ皆集まってくれ」


「せいれーーーーつ!!」


 リーダーが大声を上げると、皆が横一列にビシッと並ぶ。


「みんな、よく頑張った! これでこの村の者は誰もが戦士だ! お前達、戦士を縛る者などだれもいない!」


 村人たちは誰もが涙した。だが、涙を拭う者はだれもいない。ただ俺の前で気を張って立ち、顎から涙が落ちている。


「村を襲ってきた者がいたらどうすればいい?」


「蹂躙するのみであります!」


 リーダーがはっきりと答えた。


「村に軍隊が攻めてきたらどうする?」


「全員、俺が殴り殺してやる!」


 村の若者が目を血走らせながら握りこぶしを挙げる。


「村にモンスターの集団が来たらどうする?」


「全部、アタイが噛み殺してやる! 焼き肉パーティーだ!」


 村の少女が舌舐めずりをしながら叫ぶ。


「よし! お前達には恐れるものなどなにもない! 立ちはだかる者全てを蹂躙しつくすのだ!」


「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」」」


 こうして、新生魔王軍中枢にあたる部隊が今、誕生したのであった。



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