第32話 森のダンジョン ボス戦 1



さらに探索を進めていくと、また大きなホールに出た。


 ホールの中央まで歩いていくと、地面が揺れた。


「こ、これは……?」


「地面から何かが出てくるわ!」


 地面から這い出てくるのはゾンビ達だった。


「くっ、何て悪趣味な罠なんだ」


「私も戦うわ! 背中は任せて」


「あぁ、頼むぜ!」


 ミーナのローブから無限に出る剣は聖属性を持っているようでゾンビ達に投げつけると、突き抜けるように飛んでいき、次々にゾンビ達を葬っていった。


「やるじゃないか!」


「ありがとう、これもソウのおかげね」


 軽く口をたたきながらでもこのフロアーのゾンビ達を倒すのは余裕だった。


 全て倒しきったあとに、念のため、ターンアンデッドの魔法を使い、きっちり成仏させてあげた。


「よし、進もうか」


「……っ! ソウ、何か来るわっ!」


「ん? こ、これは……」


 大量に積み重なったゾンビの死体が次々と宙に浮いたのだ。


 そのさらに上方には黒い霧のようなものがかかり、ゾンビ達を吸い込んでいく。


「こ、これは……、オークキングが出現した時と同じ現象か」


「オークキングと同じ……? じゃ、今から出てくる敵って」


「あぁ、ボスってことだろうな」


 ミーナは固唾を飲んで俺の腕にしがみついてくる。


「大丈夫だ。俺がついてる」


「えぇ。だけど、あの黒い霧……、すごく怖いの。何か良くないモノが出てきそうで……」


 黒い霧が大きくなりきった所で、大きな手足が生えてくる。


「おおっ、今回のもデカいな!」


「そんなに呑気に構えてる場合じゃないでしょ? 今のうちに攻撃しましょうよ!」


「まぁ待ちなよ。焦るんじゃない」


「焦るなって、ソウが言うならそうするけど」


「ん? 今のシャレのつもりか? 全然面白くないぞ?」


「そんなわけないでしょ! もうっ! ソウのこと心配して損しちゃった」


 そんな会話をしているうちに霧から完全に姿を現した巨大モンスターは俺たちをジロリと睨み付けた。


 体長は十五メートル以上はありそうだ。オークキングより少し低い感じだが、背中から大きな翼が生えている。巨大コウモリに太い腕と太い足が生え、コウモリのような顔で、口の牙が長く上下から生えている。


 オオコウモリの親玉か。こいつがこのダンジョンのボスってところだろうな。


「お前等か、俺様のダンジョンを荒らしたのは?」


 低く、図太く、腹に響くような声で巨大コウモリは言った。


「あぁ、そうだ。悪かったな。勝手にお邪魔しちゃって」


「クワックワックワッ、おかげで現界するのが早まったわ。これより人間界の蹂躙を始めてくれるわ!」


「それは俺を倒してから言うんだな」


「お前等なぞ、路傍の石ころ同然よ。片手でひねり潰してくれるわ!」


 巨大な手が振り下ろされた。床は砕かれ、土が抉れる。


「やれやれ、その尊大な態度は間違いなくオーギュストの仲間だな」


「……っ! オーギュストだと? ふざけるなっ!」


「うん? 仲間なんじゃないのか?」


「俺様をあんな脳筋と一緒にするでないわっ! 奴は力ばかり鍛えおって頭が弱いから、現界してすぐに罠にでも絡め取られたんだろうがな。俺様が来たからにはそうはいかねぇ。人間なんぞ一人残らず殺し尽くしてくれる!」


「そうか……、ならば俺を倒して先へ進むんだな」


「言われるまでもないわっ!」


 巨大コウモリの口が大きく開くと、まるで火炎放射器のように太い炎を吐き出してきた。


 それは以前にオオコウモリが使っていた技の強化版か。ふむ、炎は強力にはなっているが、俺には届かないな。


 軽く残像を残しつつ移動するだけで簡単に躱せてしまう。どうやらこいつも残像と本物の見分けがつかないようだ。


「すばしっこい奴めっ! これでどうだっ!」


 その巨大な目玉が赤く光ったかと思えば、レーザーのようなビームを出してきた。


 その技もノスフェルが使っていたものが太くなっただけだな。視線でどこに撃つかが丸わかりだ。全く、くだらん。


 巨大コウモリはあちこちにある俺の残像めがけて撃ちまくるが全くかすりもしない。


「はぁっ、はあっ。こ、こいつでどうだっ!」


 翼を大きく広げると、そこから現れるのはゴブリンの上位種、ゴブリンジェネラル、オークの上位種、オークエース、馬顔の大男の色違いや、オーガが鎧を着込んだ上位種達だった。


 もはや、これだけでも軍勢といっていいほどの規模だ。


 その軍勢は全て、眼を赤く光らせ、自分の意識は全くないように見える。


「フン、お前らは他の種族を操れるのか? 悪趣味な技だ」


「ほざけ、人間風情が。クワックワックワッ、このような駒ども、いくらでも代わりはいるからな」


「……何だと?」


「教えてやろう、我が体内に封じ込めた駒はまだまだいくらでもいるのだ! コイツらが苦しもうが死のうが、痛くも痒くもないわっ!」


「……なんて奴だ……、いらない人なんて、いるはずがないっ! 俺のやってた仕事だってもっと人がいれば……、少しは早く帰れたかもしれないんだ!」


「何言ってるの? ソウ……って泣いてるし!?」


「クワックワックワッ、お前等も捉えて死ぬまでこき使ってやろう! 行けっ、契約奴隷どもっ! 此奴を捉えるのだ!」


「契約奴隷だと! うぅぅっ、許さん、許さんぞぉ! 貴様のような考えの輩が政界トップに立つからいつまで経っても景気がよくならないんだ! もっと下で働く人のことを考えろ!」


「ちょっと、ソウ? さっきから言ってることがおかしくない?」


「おかしくないよ、ミーナ。おかしくなんかないんだ!」


「でもアナタ、叫びながら泣いてるじゃない!」


「あぁ、誰にだって代わりなんていないんだ。潰されたら終わりなんだ……。それを……、あんなに大勢を使い捨てだなんて!」


 俺の怒りは頂点に達した。腕はブルブルと震え、歯もガチガチと音を鳴らしている。


「クワーッ、クワックワッ。逝け、契約奴隷たち! 奴を取り押さえるのだ!」


「くっ、せめて一瞬で葬ってやろう。契約に縛られた者どもよ……」


 ホーリーソードを限界まで伸ばし、横に一閃。


 目の前にいた兵達は一瞬、眼の色が戻り、わけのわからないといった表情を浮かべながら、崩れていった。


「な、何をした!? 一瞬で俺様の契約奴隷たちが!」


「貴様もすぐに同じ所へ送ってやろう。あの世で仲良くしてもらうんだな」


「くっ、まだまだよ。出でよっ。サイクロプス! ワイヴァーン! ドラゴン!」


 巨大な体躯のモンスター達が現れた。


 サイクロプスは身の丈20メートル近い。そしてその身長ほどもある大型の岩で出来たハンマーを軽々と振り回した。


 大型の翼竜、ワイヴァーンはその巨大な翼を仰ぐだけで凄まじい突風が吹き荒れる。


 そして、地面を歩くたびに揺らすほどの巨体を持ったドラゴンは口から炎を漏らしつつ、今にもブレスを吐き出しそうな勢いだった。


「やれいっ、俺様の最強の僕たちよ! 彼奴を抹殺するのだ!」


「こいつらも、操られているのか……。すぐに楽にしてやる。ミーナ! こいつらの足止めを頼む!」


「えぇ! 任せて」


 ミーナのローブから聖なる剣が次々と現れ、投げつけられていく。


 その剣の切れ味は堅い皮膚や鱗にも刺さり、巨大モンスター達の足を止めた。


 その隙にヘルファイアーを唱える。敵が大きいので三連発だ。MPがごっそり減るが仕方がない。


「ぐおおおおっっっ!」


 サイクロプスはあっけなくヘルファイアーの一撃で燃え尽きた。


 だが、ワイヴァーンは素早い動きで躱し、ドラゴンにはあまり効いた様子がなかった。


「クワックワックワッ、相当な魔法だったようですが、火力が足りなかったようだな。では死んでもらうとしようか」


 巨大コウモリは勝ち誇ったように高笑いをし、俺たちに死の宣告をするのであった。


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